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2章.追放と新たな苦難
14.あまりにも残酷な仕打ち
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姉によって僕はまた屋敷の奥の奥にある埃っぽい部屋に戻された。フェリックスは若干不満げだったが、さすがに僕を妊娠させたのはまずかったと思ったのか姉の決定に何も言わずに従った。
そして僕がフェリックスをこれ以上誘惑しないようにと、夜には部屋の前に見張りを置くと言われた。そこまでしなくてももう妊娠してしまっているのだから僕は発情もしないし、フェリックスもわざわざ忍んで来るわけもないというのに――。
しかしそれはただの見張り番ではなかったと後になってわかった。
フェリックスは相変わらず僕にたまに思い出したように贈り物をしてくる。アルファとして、一度抱いたオメガに対する所有欲が湧くものらしく自分のお気に入りを大事にしようという気持ちが芽生えているようだ。これも最近読んだオメガに関する本に書いてあった。だから発情期の後に彼の態度が急変したのかと僕は初めて合点がいった。
そして、そういった贈り物を貰って身につけているのを姉が見るとものすごい目で睨んでくる。
ある夜、僕が眠りに就いた後のことだ。眠っている最中に息苦しくて目が覚めた。
「んん……?!」
喋ることができないように、誰かが手で僕の口を塞いでいる。僕は恐怖で身体がすくんで身動きができなくなった。
(何……誰? 泥棒……!? でも、部屋の外には見張り番がいたはずなのに)
男が僕の上にのしかかってきて、耳元で囁いた。
「声をあげても無駄だ。この部屋は奥まっていて誰にも聞こえやしない」
(どうしよう……殺される――?)
恐怖で身体がガタガタと震えた。男は口から手を離して僕の服を脱がせ始めた。
「や……なにを……」
「わかるだろう? いちいち聞くな」
男は乱暴に僕の服を脱がせて、うつ伏せにさせると後ろからいきなり犯し始めた。
「痛い、やめて! お願い助けて!」
「黙れ。誰も来ないと言っている。暴れると腕をへし折るぞ。」
「ひっ……」
(どうして? 見張りがいたはずなのに、どこへ行ったの?)
「へへっ、悪いな。恨むなら自分の姉貴を恨むんだな」
「え……?」
男に犯される痛みより、今の言葉を聞いた衝撃の方が大きかった。
(この男、まさかお姉様が雇って……!?)
暗くて顔は見えなかったけど、この声に聞き覚えがあった。
(あの見張りの男が僕を……?)
僕は泣きながら乱暴されて、男はさっさと用事を済ませると部屋を出ていった。僕は怖くて怖くて、その後も眠れずに泣いて夜を明かした。
◇◇◇
翌朝、僕は朝食を辞退した。ベッドに横になったまま考える。
(オメガに生まれたというだけで、こんな目に遭わないといけないものなの……?)
あの日オメガ判定を受けてからというものの、あまりに酷い目に遭いすぎていてこの先の希望もやる気も失いそうだった。
(バラデュールの一族から追放されてやっと自由になれたとほっとしたのに――)
やはり姉も一族の人間だったということか。でもそれを言うなら僕だってその一員だ。僕も頭がおかしいのかも知れない。こうなったのは結局自分が悪いからなのか、もうよくわからない。
それでもまだ僕は薬指に口付けをして、絶対にこの苦難を乗り越えようと心に誓った。お腹の子のためにもとにかく身体を休めなければならない。
(神様どうか罪のないこの子だけはお守り下さい……)
そして僕がフェリックスをこれ以上誘惑しないようにと、夜には部屋の前に見張りを置くと言われた。そこまでしなくてももう妊娠してしまっているのだから僕は発情もしないし、フェリックスもわざわざ忍んで来るわけもないというのに――。
しかしそれはただの見張り番ではなかったと後になってわかった。
フェリックスは相変わらず僕にたまに思い出したように贈り物をしてくる。アルファとして、一度抱いたオメガに対する所有欲が湧くものらしく自分のお気に入りを大事にしようという気持ちが芽生えているようだ。これも最近読んだオメガに関する本に書いてあった。だから発情期の後に彼の態度が急変したのかと僕は初めて合点がいった。
そして、そういった贈り物を貰って身につけているのを姉が見るとものすごい目で睨んでくる。
ある夜、僕が眠りに就いた後のことだ。眠っている最中に息苦しくて目が覚めた。
「んん……?!」
喋ることができないように、誰かが手で僕の口を塞いでいる。僕は恐怖で身体がすくんで身動きができなくなった。
(何……誰? 泥棒……!? でも、部屋の外には見張り番がいたはずなのに)
男が僕の上にのしかかってきて、耳元で囁いた。
「声をあげても無駄だ。この部屋は奥まっていて誰にも聞こえやしない」
(どうしよう……殺される――?)
恐怖で身体がガタガタと震えた。男は口から手を離して僕の服を脱がせ始めた。
「や……なにを……」
「わかるだろう? いちいち聞くな」
男は乱暴に僕の服を脱がせて、うつ伏せにさせると後ろからいきなり犯し始めた。
「痛い、やめて! お願い助けて!」
「黙れ。誰も来ないと言っている。暴れると腕をへし折るぞ。」
「ひっ……」
(どうして? 見張りがいたはずなのに、どこへ行ったの?)
「へへっ、悪いな。恨むなら自分の姉貴を恨むんだな」
「え……?」
男に犯される痛みより、今の言葉を聞いた衝撃の方が大きかった。
(この男、まさかお姉様が雇って……!?)
暗くて顔は見えなかったけど、この声に聞き覚えがあった。
(あの見張りの男が僕を……?)
僕は泣きながら乱暴されて、男はさっさと用事を済ませると部屋を出ていった。僕は怖くて怖くて、その後も眠れずに泣いて夜を明かした。
◇◇◇
翌朝、僕は朝食を辞退した。ベッドに横になったまま考える。
(オメガに生まれたというだけで、こんな目に遭わないといけないものなの……?)
あの日オメガ判定を受けてからというものの、あまりに酷い目に遭いすぎていてこの先の希望もやる気も失いそうだった。
(バラデュールの一族から追放されてやっと自由になれたとほっとしたのに――)
やはり姉も一族の人間だったということか。でもそれを言うなら僕だってその一員だ。僕も頭がおかしいのかも知れない。こうなったのは結局自分が悪いからなのか、もうよくわからない。
それでもまだ僕は薬指に口付けをして、絶対にこの苦難を乗り越えようと心に誓った。お腹の子のためにもとにかく身体を休めなければならない。
(神様どうか罪のないこの子だけはお守り下さい……)
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