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1章.狂った一族

1.オメガと判定された公子

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 僕はリュカシオン公国の公子ルネ・バラデュール。父ジェルマン二世の三男だ。
 この日僕と異母弟のヘクターは十八歳の誕生日を目前に控え、ある検査の結果を知らされることになっていた。本来であれば僕と弟が医師から直接聞く筈なのだけど、何故か父と継母と二人の兄、それに宰相らまでがその場に同席していた。

 まず医師は弟と両親に向かって言った。
「ヘクター様の性別はアルファでございます。両殿下におかれましてはご子息の此度の判定結果、誠におめでとうございます」
 すると周りからは安堵の声と共に拍手が起こった。僕も拍手する。
 そして次に医師は僕に向き直って言った。それも、とても言いにくそうに。
「ルネ様の性別は……ええ、大変申し上げにくいのですが……その、誠に残念ながらオメガで御座いました」
 この発言に室内がどよめいた。僕も目を見開いて硬直してしまった。心臓が早鐘を打つ。
(え? 僕が……オメガ? 良くてアルファ、悪くてもベータだと思っていたのに。どうしよう……)

 この世界には男女の他にアルファ、ベータ、オメガの三種類の性別がある。これは第二の性と呼ばれている。
 アルファ性の者は知力体力共に優れ、リーダーシップを発揮する特徴がある。逆にオメガはそういった能力には劣り、生殖機能が発達していて男性でも妊娠可能だ。
 ここリュカシオン公国では特にアルファの権力が強く、要職に就いている者のほとんどがアルファ性だ。君主一族であるバラデュール家の者たち、特に男子にはアルファ性であることが当然のように強く求められている。
(ああ、この後何と言われるか……)
 僕がしばし呆然としていたら、公妃――つまり僕の継母が叫び声を上げて立ち上がった。
「オメガですって!?」
 その声に一同が注目する。
「このバラデュール家の男子にオメガ性だなんて不吉だわ。おぞましいわ!」
 僕は継母の言葉に黙って俯いてつま先を見た。こういう時は言い返さない方が良い。継母の金切声は続く。
「殿下、オメガ性の者には公位継承権はありませんわね?」
 父は困惑しつつ頷いた。
「ああ……そうなるな」
「これでわたくしの可愛い坊やの公位継承順位は三番目に繰り上げですわね。ああ、良かった。薄汚いオメガ女の子共はやっぱりオメガだったのねぇ! オホホ!」
 すると太った弟が顎の肉を揺らし唾を飛ばしながら言う。
「母上、たった二日誕生日が遅いだけで僕の継承順位の方が下なのがずっと納得いきませんでしたが、今日はとても気分が良いです!」
「そうよね、わかるわ可愛い私の坊や。それに引き換えルネ、お前ときたら。こんな状況でも表情一つ変えないなんてふてぶてしいこと! さぁ、あんなオメガの顔なんて見たくも無いわ。行きましょうヘクター」
「はい、母上!」  

 現在の公妃には連れ子が一人いて、それが今アルファ判定を受けたヘクター。ただし彼は連れ子と言っても父が当時愛人だった現公妃に産ませた子だから血の繋がりはある。彼の誕生日が僕の二日後だったから僕の公位継承順位が三位で、彼が四位だった。
 継母は僕が表情一つ変えないと怒っていたが、僕だって本当は内心すごく動揺している。だけど、表情に出にくいだけなのだ。

 彼女たちが部屋を出ていきそっとため息を付くと、長兄が僕の肩を叩いた。
「気落ちすることはないさ。オメガであってもお前は俺たちの弟であることに変わりはない」
「お兄様……ありがとうございます」
 僕は兄弟の中でも長男のアランが一番好きだった。優しくて頭が良く、剣術の得意な自慢の兄だ。端正な顔立ちで国民の人気も高く父の後を継いで立派な君主となるだろう。
 一方僕は勉強は好きだけど剣術はイマイチで、兄に相手をして貰って頑張っているけどなかなか上達しない。それでも兄は根気強く僕に指導してくれるのだ。
 僕を慰める兄を見て父も僕に声を掛けた。
「お前は母親によく似ているからこうなるかもしれないとは思っていた。残念ではあるが仕方あるまい。今後のことはまたゆっくり話し合うとしよう」
「はい、ありがとうございます……お父様」
(父をがっかりさせてしまったな。でも、父にまで怒鳴られなくてよかった)
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