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5.あらがい難い弟の溺愛

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 それ以来僕とヴィンセントは以前のように仲の良い兄弟に戻った。彼に冷たくしなくて良いのがとても嬉しくて、王子やレイアティーズと会っている間に彼の悲しげな顔を思い出すことも無くなった。王子も僕が元気を取り戻したことを喜んでくれ、結婚式に向けての準備に張り切っていた。
 立派な青年となったヴィンセントは以前にも増して優しく、王族との結婚を前にしてナーバスになりがちな僕を常に気遣ってサポートしてくれる。
――これできっと断罪エンドを回避できた。転生したかいがあった……。

 そう思っていた僕にまた違う展開が待っていた。
 ある日「兄さんが嫁いでしまう前にゆっくり昔話でもしよう」と言って弟が僕に紅茶を淹れてくれた。二人でおしゃべりしながら飲む紅茶は格別だ。

「この紅茶とても甘いんだね」
「わかりますか? 蜂蜜をたっぷり入れてあるんです。兄さん、最近喉が痛いとおっしゃってましたよね」

 ああ、なんてよく気がつくんだろう。こんなに優しい弟にこれまでどれだけつらく当たってしまったことか。今後マーカス王子の元へ嫁いだとしても、これまで冷たくしてきた分弟にはできる限りのことをしてあげたい。
 そう思って彼に感謝しつつ紅茶を飲み干した。すると、舌に妙な痺れを感じた。
――何だ……?
 その後、段々体が熱くなってきた。
「はぁっ、はぁっ……」
――く、苦しい……。
 僕は体を起こしていられずテーブルに突っ伏し、ヴィンセントに手を伸ばした。

「た、助けてヴィンセント……! 体が、熱い……」

 しかしヴィンセントは満足げに微笑みながら僕を見下ろしていた。
――なぜ? どうしてそんな目で僕を見るんだ……?

「エリック兄さんごめんね。僕はあなたがこのままマーカス王子と結婚するなんて耐えられないんです。兄さんは僕だけのものですよね。僕から離れないって約束してくれましたよね?」

 そんな。どういうことだ……? まさか、紅茶に毒を――?
 僕は結局弟を救うことはできなかったのか……。僕が何をしようと、ヴィンセントはマーカス王子の婚約者に手を下す運命なのだろうか。



 てっきり毒殺されたのかと思ったが、僕は目を覚ました。するとすぐ目の前にヴィンセントの整った顔が見えた。

「目が覚めましたか? 兄さん」
「ヴィンセント……? お前は一体……」

 僕は彼の部屋のベッドに寝かされていた。起き上がろうとしたけど全身がだるくて思うように動かないうえ、長身の弟が覆いかぶさっている。
――どうなってるんだ? やはりあれは毒……?
 ヴィンセントの顔がなぜか近づいてくる、そう思った瞬間彼に口づけされていた。

「ん……」

 はじめはついばむように軽く唇に触れてくる。僕が状況を飲み込めずにいるうちに彼は深く唇を重ね、開いた口から舌を潜り込ませてきた。ぬるりと異物が口内を這い回る感触に反射的にぞくっとする。

「ぅ……んっ、ん……ぁ……」

 さっきまで飲んでいた甘い紅茶の香りが僕と弟の唾液に溶けて喉の奥に絡みつく。
――なんで、キス……ヴィンセントが……?
 わけがわからない。だけど僕の体は美しい青年のキスに反応して、熱くなり始めていた。弟とのキスなんて今すぐやめなければいけない。なのに頭がぼんやりしていて、僕はされるがままに彼のキスを受け入れ唾液を飲み込んでしまう。甘くて喉が焼けそうだ。
 彼が身じろぎすると、彼の着ている洋服が僕の胸や太腿の皮膚に擦れてじんじんする。気持ちいい――そう思ってはじめて自分が何も身に着けていないことに気づいた。ハッとして彼の体を押しのけ、自分の体を見下ろす。

「え? 服が……」
「暑くて苦しそうだったので脱がせてさしあげました」
「ヴィンス、どういうことだ……? なんで、こんな……」
「言ったでしょう? あなたを王子に取られるのは我慢ならない。だから先に僕のものにしようと思ったんです」
「な――っ」
「さっきの紅茶に入っていたのは、毒ではありませんから安心してください。ただの媚薬ですよ」

 そう言ってヴィンセントは僕の抵抗を簡単に封じ込めた。身勝手な発言とは裏腹に全身にキスの雨を降らされ、壊れ物を扱うように優しく愛撫される。

「あなたが悪いんですよ。急にわけもなく僕に冷たくしたり優しくしたりするから」
「それは違う。理由があるんだ……!」

 僕は焦って自分の前世の話、そしてマーカス王子が僕ではなくレイアティーズと婚約していたら起こっていたであろう事件について説明した。するとヴィンセントが言う。

「それは本当ですか? つまり僕はあなたの本当の弟ではない、と?」
「そ、そうだ」

 すると彼がうつむいて肩を震わせた。僕と兄弟ではないと知ってショックを受けているのだと思ったが、彼が顔を上げたのを見てそれは違うとわかった。ヴィンセントは嬉しそうに目を輝かせていた。

「ヴィンス……?」
「あなたは僕の兄じゃない。それはつまり肉体的に交わってもかまわないということですね?」
「え……?」
「さすがに兄弟の仲ですから、最後までするのはよそうと思っていたんです。でも、そうじゃないなら話は別です」
「ま、待て。僕はそう言う意味でいったんじゃ――」

 ヴィンセントは嬉々として僕への愛撫を続けた。他人に体を触られたことのない僕は蕩けるような快感に喘ぐしかなかった。
 甘ったるい香りの潤滑剤で彼は僕の秘部を濡らし、迷いのない手付きで追い詰める。薬を盛られて熱くなった体は感じたことのない内側への刺激をすぐに快感だと覚えた。
 全身が汗なのか精液なのか潤滑剤なのかわからないもので濡れ、ヴィンセントの逞しい体がぶつかる音が室内に響く。盛られた薬のせいで僕は理性を失い「もっと」と催促しながら体をくねらせた。王子との結婚を控えた身で弟と淫らな行為に耽っている――そんなことが頭をよぎるが、今はただこの快感に身を任せていたかった。

「マーカス王子には黙っていてあげます。その代り、あなたは永遠に僕のもの」
「んっ……ヴィンス……ああ……」
 
 彼の美しい瞳。そこに映る自分の陶然とした顔を見て思った――大人になったヴィンセントの裸体を目にした時から、僕はこうされたかったのかもしれないと。
 
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