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3.謝罪と仲直り

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「なんでこうなった……?」

 パーティーを終えて自室に戻った僕は緊張がとけてふらふらとベッドに倒れ込んだ。左手の薬指の指輪を眺める。
――どこをどう間違えたんだ? このままだとどうなるんだろう……?

 僕は二十歳の誕生日を迎えた今も相変わらず弟に冷たく当たっていた。でも僕が失恋しないことになったなら、もうそんな必要は無いのでは?

「そうだ。そうだよ……もう弟を抱きしめても良いんだ!」

 そう思いついた僕は、急に元気が湧いてきてベッドから起き上がった。
――レイアティーズには申し訳ないけれど、王子と婚約できたんだ。もうヴィンセントがレイアティーズに毒を盛る理由は無くなった! 長いこと辛い思いをしてきたけどもうヴィンセントに冷たくしなくてもいいんだ……。

 僕は嬉しくて嬉しくて、部屋を飛び出した。さっきもパーティーの最中に誕生日プレゼントとしてヴィンセントから渡された絹の靴下とアメジストを散りばめた靴に文句をつけて突き返したところだった。

「まずはちゃんと謝って、あのプレゼントを貰えないかってお願いしてみよう。それで、これからはまた前みたいに仲良くしようって言うんだ」

 子どもの頃はよく、ヴィンセントの部屋を訪れていた。怖がりだった彼が「悪魔が来るかも」と怯えて僕と一緒に寝たがることがあったから添い寝してあげたものだ。それももう過去のことで、この部屋を訪れるのは何年ぶりになるだろう。
 ノックをして昔のように返事も待たずに僕はドアを開けた。

「ヴィンセント、さっきはごめん――」

 すると部屋の中に上半身裸のヴィンセントが立っていた。着替えの途中だったらしい。

「あ、失礼!」

 咄嗟にドアを締めて廊下を戻ろうとしたら、内側からドアが開いてヴィンセントが追いかけてきた。腕を掴まれる。

「待ってください」

 そのまま部屋の中に引っぱり込まれる。

「あなたの方から僕の部屋にいらして下さるなんて、何か大事な用があったんですよね?」
「え、あ、うん……」

 僕は弟の裸から目をそらす。小さな頃は一緒に水浴びをしたし、着替えも同じ部屋で何度もした記憶は残っている。だけど、何年か見ないうちに彼の体つきは随分変わっていた。服を着ていると細身に見えるが、上半身にはしっかりと筋肉が付いていて薄っぺらい僕の体とは全然違ったのだ。
 前世の記憶を取り戻したお陰で弟が半ば自分の弟ではないと認識している今、同性が恋愛対象の僕はその姿にドキドキしてしまう。

 「ごめん、着替えの途中に突然ドアを開けて。出直すよ」

 気まずくなって再度部屋を出ようとする僕の腕をヴィンセントはグッと握った。少し痛いほどに。

「いえ、帰しません。あなたがここに来てくださるなんていつ以来です? どんな用であれ僕は歓迎します。お願いだから帰らないで」

 彼の方がもうかなり背が高い。上から見下ろされているというのに、彼の目は僕にすがるような色を浮かべている。まるで頼りない幼な子のようだった。
 
「すまない。謝りに来たんだ――これまでお前につらく当たってしまったことを心から謝りたい」
「兄さん……?」
「その、ちょっとした勘違いだったというか……なんというか」

 僕は彼に謝るつもりだったけど、何も考えずに飛び出してきてしまったのでしどろもどろになりながら言い訳する。

「と、とにかく。冷たくしてごめんヴィンス――これからまた昔みたいに僕と仲良くしてくれるか?」
「エリック兄さん……もちろんです。信じられない……あなたがまた僕に歩み寄ってくれるだなんて」

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