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7.後輩の指摘と煌星の動揺
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ここ数日凪は自宅に帰って来ていない。既読無視されてもしつこく連絡し続けて、今朝ようやく凪から返事が来た。
『今夜飲み会終わったら帰る』
僕が何十通もメッセージを送って、ようやく返ってきたのがたった一言これだけ。それでも僕は会社で思わず声をあげそうになるくらい嬉しかった。
――今夜は久々に甘やかしてやろう。きっと疲れて帰ってくるから。
翌日食べられるように料理をして愛しいSubの帰りを待つ。もしかしたら、夜食としてお茶漬けを食べたいって言うかもしれない。もしそう言われた時のために出汁をとっておこう。梅干しが無くなってたからちゃんと買ってきた。
料理や洗濯をして待てども、一向に帰ってこない。もう終電間近という時間に何度か電話してみたけど出なかった。
「まさか今夜も会社に泊まるなんてことはないよね」
いい加減そろそろ僕としても凪を摂取しないとイライラしてしまいそうだ。
――足りない。凪が全然足りない……。早く帰ってきてよ、凪。
とうとう終電の時刻も回ってしまった。凪は会社の飲み会に参加しても二次会三次会と残ることは稀だ。心配になってもう何度目になるかわからない電話を掛けた。
『あ、もしもし! すいません』
――凪の声じゃない。誰だ?
「あの、こちら西岡のスマホでは?」
『あ、はい。これ西岡さんのスマホなんですけど、先輩お酒に酔って潰れてしまって――コウセイさんのお名前をずっと呼んでたので着信の名前見て勝手に出ました」
「――そうですか。今どちらにいらっしゃいます? 迎えに行きます」
『助かります! ご自宅がわからず困ってましたので……』
◇
教えられた店にタクシーで向かう。
到着した僕を店の前で待っていたのは、一人で立てないほど酔った凪とそれを支えているいかにも体育会系という見た目のサラリーマンだった。僕は凪のために頭を下げる。
「どうもすみません、ご迷惑お掛けして」
「いいえ、来てくださって助かりました」
ぐったりした凪を受け取る。彼はこちらの首に腕を巻き付け頭を擦り付けてくる。ぞくっとするほど甘えた声で凪は僕の名前を呼んだ。
「煌星……」
――どういうことだよ。酔っただけでこうなるわけがない。僕が催眠を掛けた時みたいになってるじゃないか。
イラつきを抑えられずにムッとした声で凪の後輩だという男に尋ねる。
「かなり飲まされたようですね?」
「あー、そんなにたくさん飲んだわけじゃないんですけど……疲れてるところにアルコール入ったんで、悪酔いしちゃったんすかね。はは……」
「体調悪いときに飲み過ぎないように言っておきます」
僕は「飲ませすぎるな」という意味を込めてそう言った。
「あ、そうっすね。ところで失礼ですが、あなたは西岡先輩のパートナーの方ですか?」
人の良さそうな男だが、僕の威圧を込めた眼差しから視線をそらさずに笑顔で聞いてくる。なんとなく嫌な感じがした。
「それがどうかしたんですか?」
「いえ、ちょっと危ないなと思っただけなんです」
「危ない?」
「ええ。俺Domなんですけど、先輩パートナーから変なこと教えられてるんじゃないかなって」
彼の不躾な物言いにますますいらついて、自然と眉間に力がこもる。Subやニュートラルの人間だと若干不安を覚える程度にはグレアが放出されていた。しかし向かいの男は平然としている。Domの中でも僕と同じように上位ランクの人間なのかもしれない。
「変なこととは――どういう意味です?」
「俺の見てた限り、勘違いかもしれないっすけど先輩カルーアミルク飲んだら急にふにゃけて妙なこと言い始めたんすよ」
「妙なこととは――?」
「”抱っこして、お願いします”って」
そう言って彼は僕の目を正面から見つめた。何かを見透かそうとするような視線は実に不快だった。
――こいつは何が言いたいんだ? 僕と凪がパートナーとしてプレイしているなら他人にとやかく言われる筋合いはないはずだ。
「ただ単にDomであるあなたを僕と勘違いしたんでしょう。いけませんか? 抱っこしてとねだるように躾けることが何か罪にあたるとでも?」
「いいえ。ただ、意識がはっきりしない状態でプレイが始まったと勘違いしていたようなので危ないと思ったんです。明確な言葉掛けやお互いの確認も無しに、ですよ。俺は先輩と信頼関係があるから当然我慢できます。だけど俺が見ず知らずの悪人だったらどうです?」
「それは――……」
「妙な暗示を掛けてしまうと、危ない目に遭うのは先輩ですよって言いたかっただけです。初対面なのに不躾なこと言って申し訳ありません」
そう言って彼は親しげな笑みを浮かべた。
「いえ……とんでもないです。失礼、タクシーを待たせているので僕たちはこれで」
自分が凪にしていることをさりげなく言い当てられ、僕の心は穏やかではなかった。
『今夜飲み会終わったら帰る』
僕が何十通もメッセージを送って、ようやく返ってきたのがたった一言これだけ。それでも僕は会社で思わず声をあげそうになるくらい嬉しかった。
――今夜は久々に甘やかしてやろう。きっと疲れて帰ってくるから。
翌日食べられるように料理をして愛しいSubの帰りを待つ。もしかしたら、夜食としてお茶漬けを食べたいって言うかもしれない。もしそう言われた時のために出汁をとっておこう。梅干しが無くなってたからちゃんと買ってきた。
料理や洗濯をして待てども、一向に帰ってこない。もう終電間近という時間に何度か電話してみたけど出なかった。
「まさか今夜も会社に泊まるなんてことはないよね」
いい加減そろそろ僕としても凪を摂取しないとイライラしてしまいそうだ。
――足りない。凪が全然足りない……。早く帰ってきてよ、凪。
とうとう終電の時刻も回ってしまった。凪は会社の飲み会に参加しても二次会三次会と残ることは稀だ。心配になってもう何度目になるかわからない電話を掛けた。
『あ、もしもし! すいません』
――凪の声じゃない。誰だ?
「あの、こちら西岡のスマホでは?」
『あ、はい。これ西岡さんのスマホなんですけど、先輩お酒に酔って潰れてしまって――コウセイさんのお名前をずっと呼んでたので着信の名前見て勝手に出ました」
「――そうですか。今どちらにいらっしゃいます? 迎えに行きます」
『助かります! ご自宅がわからず困ってましたので……』
◇
教えられた店にタクシーで向かう。
到着した僕を店の前で待っていたのは、一人で立てないほど酔った凪とそれを支えているいかにも体育会系という見た目のサラリーマンだった。僕は凪のために頭を下げる。
「どうもすみません、ご迷惑お掛けして」
「いいえ、来てくださって助かりました」
ぐったりした凪を受け取る。彼はこちらの首に腕を巻き付け頭を擦り付けてくる。ぞくっとするほど甘えた声で凪は僕の名前を呼んだ。
「煌星……」
――どういうことだよ。酔っただけでこうなるわけがない。僕が催眠を掛けた時みたいになってるじゃないか。
イラつきを抑えられずにムッとした声で凪の後輩だという男に尋ねる。
「かなり飲まされたようですね?」
「あー、そんなにたくさん飲んだわけじゃないんですけど……疲れてるところにアルコール入ったんで、悪酔いしちゃったんすかね。はは……」
「体調悪いときに飲み過ぎないように言っておきます」
僕は「飲ませすぎるな」という意味を込めてそう言った。
「あ、そうっすね。ところで失礼ですが、あなたは西岡先輩のパートナーの方ですか?」
人の良さそうな男だが、僕の威圧を込めた眼差しから視線をそらさずに笑顔で聞いてくる。なんとなく嫌な感じがした。
「それがどうかしたんですか?」
「いえ、ちょっと危ないなと思っただけなんです」
「危ない?」
「ええ。俺Domなんですけど、先輩パートナーから変なこと教えられてるんじゃないかなって」
彼の不躾な物言いにますますいらついて、自然と眉間に力がこもる。Subやニュートラルの人間だと若干不安を覚える程度にはグレアが放出されていた。しかし向かいの男は平然としている。Domの中でも僕と同じように上位ランクの人間なのかもしれない。
「変なこととは――どういう意味です?」
「俺の見てた限り、勘違いかもしれないっすけど先輩カルーアミルク飲んだら急にふにゃけて妙なこと言い始めたんすよ」
「妙なこととは――?」
「”抱っこして、お願いします”って」
そう言って彼は僕の目を正面から見つめた。何かを見透かそうとするような視線は実に不快だった。
――こいつは何が言いたいんだ? 僕と凪がパートナーとしてプレイしているなら他人にとやかく言われる筋合いはないはずだ。
「ただ単にDomであるあなたを僕と勘違いしたんでしょう。いけませんか? 抱っこしてとねだるように躾けることが何か罪にあたるとでも?」
「いいえ。ただ、意識がはっきりしない状態でプレイが始まったと勘違いしていたようなので危ないと思ったんです。明確な言葉掛けやお互いの確認も無しに、ですよ。俺は先輩と信頼関係があるから当然我慢できます。だけど俺が見ず知らずの悪人だったらどうです?」
「それは――……」
「妙な暗示を掛けてしまうと、危ない目に遭うのは先輩ですよって言いたかっただけです。初対面なのに不躾なこと言って申し訳ありません」
そう言って彼は親しげな笑みを浮かべた。
「いえ……とんでもないです。失礼、タクシーを待たせているので僕たちはこれで」
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