46 / 48
番外編
ドSのイケメンにいじめられる事でしか摂取できない栄養がある(2)
しおりを挟む
そして彼と暮らすようになって二度目のヒートが近づいてきた。
僕は「今回こそは」と勝手に身構えていた。しかし、そんな僕に蒼司はこう言った。
「蓉平、ヒート近いだろ。そろそろ実家に帰るか?」
「え……?」
今度こそ蒼司と出来ると思って期待していた僕はそれを聞いて愕然とした。
(なんで――? 僕としたくないってこと……?)
蒼司と婚約するまでに色々すれ違いがあった。だから思ったことはちゃんと伝えないと、と僕は勇気を振り絞った。
「……蒼司くん。僕、ヒート中も蒼司くんと一緒にいたいな。ダメ?」
恥ずかしくて顔から火が出そうだったけどちゃんと伝えた。すると、彼は少し困ったような顔をした後頷いた。
「わかった。蓉平がそう言うなら一緒に過ごそう」
(良かった――断られなかった……)
ホッとした反面、僕からそう言わなければヒート中一緒に過ごしてくれる気が無かったのだと思うと落ち込む。
(どうしたらいいの……)
別に婚約したからと言って、必ずしもセックスしないといけないというわけではない。だけど、自分に魅力が無いのかなとか、やっぱり年が離れすぎなのが嫌なのかなとか考えてしまう。
「はぁ……」
結局その後のヒート期間中はずっと蒼司はアルファ向けの抑制剤を飲んでいた。僕も抑制剤を飲むように言われ、断れずに服用した。
もちろん、エッチは無し。
お風呂あがりに平然と隣でテレビを見ている蒼司にイライラして、僕はリモコンを奪った。恥ずかしいのを堪え、パジャマの前をはだけさせて迫ってみる。向かい合わせになって彼の膝の上に座った。
「蒼司くん……薬飲んだけど、効かないみたい。すごく熱いんだ。お願い、助けて……」
「なに? 大丈夫か」
そう言ってやっと体を触ってくれた。だけど、介護? って思っちゃうくらい優しくて……一言で言うと物足りなかった。
「楽になったか? 具合悪くなったら呼べよ」
口と指で慰めてくれた後、僕をベッドに横たえた蒼司は部屋を出て行った。
自分の浅ましさが嫌になるけど、こんなんじゃなくて前みたいにちょっと強引にして欲しいのに――。桂木さんの匂いに怒って押し倒してきた時の勢いはどこへ……?
しかも、今回は彼の体には触らせてもらえなかった。
ヒート中の恋人を前にしながら一度も服を脱がなかった蒼司に、僕はすっかり自信を失ってしまった。
◇◇◇
僕はヒートが明けてすぐに我慢できず電話で訴えた。
「ずっとこんな調子でね、もうどうしたらいいかわかんなくて……」
『あのねえ、それでなんで私に電話してくるわけ? あんたと連絡取ってるのバレたらAoに怒られるの私なんだけど。もう切っていい?』
「そんなぁ、冷たいこと言わないでよアンジュちゃん!」
僕は悩んだ末、オメガ女子のアンジュに電話で相談することにした。
中西さんとはまた違う女子目線のアドバイスをくれるんじゃないかと思ったのだ。
『大体あんた、私に嫌な目に遭わされたのによくそっちから電話して来れるよね。変なヤツ』
「え、でもそれはもう解決したから……」
(それに僕、冷たくされるの全然なんともないし)
陰でコソコソ言われたりするのは対処のしようがない。むしろアンジュのように直接罵ってくれる相手の方が和解してしまえば後腐れがないのだ。学校もまともに通えなかったので、こんなことを相談できるオメガの友人は他にいなかった。
「アンジュちゃんは美人だし、アルファの人に人気でしょ? ねえ、それでも相手が乗り気じゃ無いときってある? そういう時でもその気にさせる方法って無いの?」
『ちょ、ちょっと落ち着いてよ。悪いけど、私はAoの事その気にさせられなかったから今ここでこんな目に遭ってるんだから!』
「こんな目って?」
『……菜々にめちゃくちゃにされてんの。逆に聞きたいくらいだよ。どうやったらヒート中でもアルファを手懐けて大人しくさせられるわけ?』
「手懐けてるんじゃないんだってば。僕は蒼司くんとエッチがしたいのにして貰えないから悩んでるんだよ」
『もう、そんなにやりたいならいっそのこと他の男にして貰えば?』
「な、何てこと言うんだよ。他の男の人とエッチするなんて有り得な――……」
そのとき、ソファに座っていた僕の手からスマホが突如奪われた。
びっくりして後ろを振り返ると蒼司が立っている。彼はスマホをタップして僕に返し、人差し指を口に当てた。
(え……? 黙ってろって?)
『だーかーら、それもダメなら諦めなよ。あ! もしかしてAo、最近学部変わったりして疲れてるからEDになっちゃったんじゃない?』
スピーカーからアンジュの甲高い声が大音量で響いた。
(うわ、蒼司くんスピーカーにしたの!?)
僕はアンジュの言葉にサーっと血の気がひいた。
蒼司も聞いているのだ。早く彼女を黙らせなければまずい。
「そ、そんなことはないと思うな~! うん、違う違う」
『そーお? わかんないじゃん。あ、それならこれは? 蓉平のフェロモン普段からアレじゃん。だからヒートのときはキツすぎてもう、めちゃくちゃ臭いとか! きっとそうじゃない? あはは!』
アンジュは自分の発言にケラケラと笑っている。
ED呼ばわりされた上に婚約者である僕のことを臭いと言われ、蒼司の目は完全に座ってしまっていた。
僕は恐怖に凍りついてアンジュに返事が出来なかった。
『いやー笑った。ねえ、そんなことより聞いて! こっちは大変なんだよ。菜々って絶倫なの――って、もしもし蓉平? ねえ聞いてる?』
僕は「今回こそは」と勝手に身構えていた。しかし、そんな僕に蒼司はこう言った。
「蓉平、ヒート近いだろ。そろそろ実家に帰るか?」
「え……?」
今度こそ蒼司と出来ると思って期待していた僕はそれを聞いて愕然とした。
(なんで――? 僕としたくないってこと……?)
蒼司と婚約するまでに色々すれ違いがあった。だから思ったことはちゃんと伝えないと、と僕は勇気を振り絞った。
「……蒼司くん。僕、ヒート中も蒼司くんと一緒にいたいな。ダメ?」
恥ずかしくて顔から火が出そうだったけどちゃんと伝えた。すると、彼は少し困ったような顔をした後頷いた。
「わかった。蓉平がそう言うなら一緒に過ごそう」
(良かった――断られなかった……)
ホッとした反面、僕からそう言わなければヒート中一緒に過ごしてくれる気が無かったのだと思うと落ち込む。
(どうしたらいいの……)
別に婚約したからと言って、必ずしもセックスしないといけないというわけではない。だけど、自分に魅力が無いのかなとか、やっぱり年が離れすぎなのが嫌なのかなとか考えてしまう。
「はぁ……」
結局その後のヒート期間中はずっと蒼司はアルファ向けの抑制剤を飲んでいた。僕も抑制剤を飲むように言われ、断れずに服用した。
もちろん、エッチは無し。
お風呂あがりに平然と隣でテレビを見ている蒼司にイライラして、僕はリモコンを奪った。恥ずかしいのを堪え、パジャマの前をはだけさせて迫ってみる。向かい合わせになって彼の膝の上に座った。
「蒼司くん……薬飲んだけど、効かないみたい。すごく熱いんだ。お願い、助けて……」
「なに? 大丈夫か」
そう言ってやっと体を触ってくれた。だけど、介護? って思っちゃうくらい優しくて……一言で言うと物足りなかった。
「楽になったか? 具合悪くなったら呼べよ」
口と指で慰めてくれた後、僕をベッドに横たえた蒼司は部屋を出て行った。
自分の浅ましさが嫌になるけど、こんなんじゃなくて前みたいにちょっと強引にして欲しいのに――。桂木さんの匂いに怒って押し倒してきた時の勢いはどこへ……?
しかも、今回は彼の体には触らせてもらえなかった。
ヒート中の恋人を前にしながら一度も服を脱がなかった蒼司に、僕はすっかり自信を失ってしまった。
◇◇◇
僕はヒートが明けてすぐに我慢できず電話で訴えた。
「ずっとこんな調子でね、もうどうしたらいいかわかんなくて……」
『あのねえ、それでなんで私に電話してくるわけ? あんたと連絡取ってるのバレたらAoに怒られるの私なんだけど。もう切っていい?』
「そんなぁ、冷たいこと言わないでよアンジュちゃん!」
僕は悩んだ末、オメガ女子のアンジュに電話で相談することにした。
中西さんとはまた違う女子目線のアドバイスをくれるんじゃないかと思ったのだ。
『大体あんた、私に嫌な目に遭わされたのによくそっちから電話して来れるよね。変なヤツ』
「え、でもそれはもう解決したから……」
(それに僕、冷たくされるの全然なんともないし)
陰でコソコソ言われたりするのは対処のしようがない。むしろアンジュのように直接罵ってくれる相手の方が和解してしまえば後腐れがないのだ。学校もまともに通えなかったので、こんなことを相談できるオメガの友人は他にいなかった。
「アンジュちゃんは美人だし、アルファの人に人気でしょ? ねえ、それでも相手が乗り気じゃ無いときってある? そういう時でもその気にさせる方法って無いの?」
『ちょ、ちょっと落ち着いてよ。悪いけど、私はAoの事その気にさせられなかったから今ここでこんな目に遭ってるんだから!』
「こんな目って?」
『……菜々にめちゃくちゃにされてんの。逆に聞きたいくらいだよ。どうやったらヒート中でもアルファを手懐けて大人しくさせられるわけ?』
「手懐けてるんじゃないんだってば。僕は蒼司くんとエッチがしたいのにして貰えないから悩んでるんだよ」
『もう、そんなにやりたいならいっそのこと他の男にして貰えば?』
「な、何てこと言うんだよ。他の男の人とエッチするなんて有り得な――……」
そのとき、ソファに座っていた僕の手からスマホが突如奪われた。
びっくりして後ろを振り返ると蒼司が立っている。彼はスマホをタップして僕に返し、人差し指を口に当てた。
(え……? 黙ってろって?)
『だーかーら、それもダメなら諦めなよ。あ! もしかしてAo、最近学部変わったりして疲れてるからEDになっちゃったんじゃない?』
スピーカーからアンジュの甲高い声が大音量で響いた。
(うわ、蒼司くんスピーカーにしたの!?)
僕はアンジュの言葉にサーっと血の気がひいた。
蒼司も聞いているのだ。早く彼女を黙らせなければまずい。
「そ、そんなことはないと思うな~! うん、違う違う」
『そーお? わかんないじゃん。あ、それならこれは? 蓉平のフェロモン普段からアレじゃん。だからヒートのときはキツすぎてもう、めちゃくちゃ臭いとか! きっとそうじゃない? あはは!』
アンジュは自分の発言にケラケラと笑っている。
ED呼ばわりされた上に婚約者である僕のことを臭いと言われ、蒼司の目は完全に座ってしまっていた。
僕は恐怖に凍りついてアンジュに返事が出来なかった。
『いやー笑った。ねえ、そんなことより聞いて! こっちは大変なんだよ。菜々って絶倫なの――って、もしもし蓉平? ねえ聞いてる?』
16
お気に入りに追加
1,727
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない
潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。
いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。
そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。
一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。
たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。
アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー
出世したいので愛は要りません
ふじの
BL
オメガのガブリエルはオメガらしい人生を歩む事が不満だった。出世を目論みオメガ初の官僚としてバリバリと働いていたは良いものの、些細な事で体調を崩す様になってしまう。それがきっかけで五年程前に利害の一致から愛の無い結婚をしたアルファである夫、フェリックスとの関係性が徐々に変わっていくのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
運命はいつもその手の中に
みこと
BL
子どもの頃運命だと思っていたオメガと離れ離れになったアルファの亮平。周りのアルファやオメガを見るうちに運命なんて迷信だと思うようになる。自分の前から居なくなったオメガを恨みながら過ごしてきたが、数年後にそのオメガと再会する。
本当に運命はあるのだろうか?あるならばそれを手に入れるには…。
オメガバースものです。オメガバースの説明はありません。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
番を持ちたがらないはずのアルファは、何故かいつも距離が近い【オメガバース】
さか【傘路さか】
BL
全10話。距離感のおかしい貴族の次男アルファ×家族を支えるため屋敷で働く魔術師オメガ。
オメガであるロシュは、ジール家の屋敷で魔術師として働いている。母は病気のため入院中、自宅は貸しに出し、住み込みでの仕事である。
屋敷の次男でアルファでもあるリカルドは、普段から誰に対しても物怖じせず、人との距離の近い男だ。
リカルドは特殊な石や宝石の収集を仕事の一つとしており、ある日、そんな彼から仕事で収集した雷管石が魔力の干渉を受けない、と相談を受けた。
自国の神殿へ神が生み出した雷管石に魔力を込めて預ければ、神殿所属の鑑定士が魔力相性の良いアルファを探してくれる。
貴族達の間では大振りの雷管石は番との縁を繋ぐ品として高額で取引されており、折角の石も、魔力を込められないことにより、価値を著しく落としてしまっていた。
ロシュは調査の協力を承諾し、リカルドの私室に出入りするようになる。
※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。
無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。
自サイト:
https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/
誤字脱字報告フォーム:
https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる