45 / 48
番外編
ドSのイケメンにいじめられる事でしか摂取できない栄養がある(1)
しおりを挟む
「私では君を満足させてあげられない」
蒼司が迎えにくるのを待っている間、桂木は僕にそう言った。
たしかに、桂木さんは優しすぎて蒼司のように僕を雑に扱ってくれない。
(そんなふうに考えていた時期が僕にもありました……)
「蓉平」
「あ、何? 蒼司くん」
ソファで考え事をしていた僕に蒼司が話し掛けてきた。
「今夜少し遅くなるから、晩飯先に食べていいよ」
「あ、そうなんだ」
「俺が居なくてもちゃんと食えよ? 作業に集中してたらたまに飯食ってないことあるだろ」
「うん。わかった」
「じゃあ、帰る時連絡する」
蒼司が大学に行くのを玄関まで見送る。
「行ってらっしゃい、勉強頑張ってね」
「なあ」
「え?」
手を振る僕に向かって、彼が無言で自分の頬を指差した。
「あ、はい……」
僕は蒼司の頬にキスをする。いつもされてばかりじゃなくて見送るときくらいキスしろ、と言われたのだ。
今までは見送りに出るだけでも「うっとうしいからやめろ」と怒られていた。
(婚約することになって急に習慣を変えようとしても――こういうのってなんだか慣れないんだよね)
僕の戸惑いをよそに、蒼司は満足げに微笑んだ。
「行ってくる」
閉まるドアを見つめながら僕はため息をつく。
「はぁ~……かっこいい……」
いつ見ても惚れ惚れしてしまうのは相変わらずだ。一定の距離を保って生きていきたかったのに、なぜか父と義母の策略により蒼司と結婚することになってしまった。
(嬉しいよ、そりゃ。嬉しいけど……蒼司くんが最近僕に甘すぎてなんだか調子狂っちゃうな)
そう、彼は近頃以前よりずっと優しくなった。
以前は基本的に僕が話し掛けても何も答えないか、「ああ」とか「ふん」とかそんな気のない返事しかしてくれなかった。それが、最近は話し掛けたらちゃんとこっちを見て返事をしてくれるし、なんなら微笑みかけてもくれる。
最近学部を変更して勉強も忙しいはずなのに僕の体調のことまで心配してくれるし、休日は外に連れ出してくれる。
ああやってキスを求められ、帰宅した時は抱きしめてくれる。
冷たかった彼が、精一杯愛情表現してくれているのだ。
(嬉しい……だけど、ちょっと物足りない気もしたりして)
僕はたまには前みたいにちょっとキツめに睨まれたい――率直に言えば「いじめられたい」という願望を胸の内にくすぶらせていたのだった。
◇◇◇
僕は中西のサロンを訪れてこれまであった出来事を全て話した。
「……ということになりまして……」
「え~! 本当に蒼司くんと結婚するんだ!?」
「はい」
「いやあ、どうなることかと思っちゃったよ。蒼司くんからの電話で蓉平くんがうちに来てないってバラしたのまずかったかな~って」
「いえ、いいんです。僕の言葉が足りなかったんです」
「そっかぁ、でもよかったね。大好きな蒼司くんとちゃんとうまくいって!」
「ええ。そうなんですけど……」
「ん? どうしたの。何か問題でも?」
「それが……」
僕は最近蒼司が優しすぎて怖いという話をした。
そして、何より気になっていることがもう一つ……。
「ええっ!? 待って、まだエッチしてないの?」
「な、中西さん。声大きいですって」
「いいじゃん、誰も居ないんだもん。そんなことより、どういうこと? あれからもう1ヶ月近く経つけど!?」
「そうなんです……」
僕たちは婚約することになった。これは両親も認めている。いつ籍を入れようか、結婚式はどうしようかという話もしているくらいだ。
それなのに……。
「僕はしたいって思ってるんですけど、そういう雰囲気になってもうやむやにされちゃうっていうか……」
「え? え? 意味わかんない。どいういうこと?」
「手とか、口ではしてくれるんですけど……」
中西はうんうん、と頷く。
「入れてくれないんです」
僕は恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じながらも打ち明けた。
中西はそれを聞いて唸った。
「うーん、それは……そうかぁ、まあ、わからないでも無い」
「え? わかるんですか?」
「蒼司くんはさ、蓉平くんのことが大事なんだよ」
「そ、そうでしょうか」
「いやー、そうなっちゃったか。、うーん」
「中西さん、僕どうしたらいいでしょう?」
百戦錬磨の中西なら解決策を伝授してくれるんじゃないかと思って恥を偲んで相談したのだ。
「蓉平くん。ここは、年上の君がリードしないと」
「ええ~! そんなの無理ですよ。僕、恋愛したことすらないんですから」
「そうだよなぁ……。まあ、次のヒートもうすぐでしょ? それを気長に待ってなよ。もしかしたら蒼司くんも初めてするのはヒートの時がいいって思ってるのかも」
「え?」
「ほら、蓉平くん初めてでしょ? 怖がらないように、君がヒートで理性飛ばしてる時にした方が安心すると思ってるのかもよ」
「ああ、なるほど……」
(たしかにそうかも! 蒼司くんの大きさのが入るのってちょっと怖いし)
「ありがとうございます! 心配しないで次のヒートを待ちます」
蒼司が迎えにくるのを待っている間、桂木は僕にそう言った。
たしかに、桂木さんは優しすぎて蒼司のように僕を雑に扱ってくれない。
(そんなふうに考えていた時期が僕にもありました……)
「蓉平」
「あ、何? 蒼司くん」
ソファで考え事をしていた僕に蒼司が話し掛けてきた。
「今夜少し遅くなるから、晩飯先に食べていいよ」
「あ、そうなんだ」
「俺が居なくてもちゃんと食えよ? 作業に集中してたらたまに飯食ってないことあるだろ」
「うん。わかった」
「じゃあ、帰る時連絡する」
蒼司が大学に行くのを玄関まで見送る。
「行ってらっしゃい、勉強頑張ってね」
「なあ」
「え?」
手を振る僕に向かって、彼が無言で自分の頬を指差した。
「あ、はい……」
僕は蒼司の頬にキスをする。いつもされてばかりじゃなくて見送るときくらいキスしろ、と言われたのだ。
今までは見送りに出るだけでも「うっとうしいからやめろ」と怒られていた。
(婚約することになって急に習慣を変えようとしても――こういうのってなんだか慣れないんだよね)
僕の戸惑いをよそに、蒼司は満足げに微笑んだ。
「行ってくる」
閉まるドアを見つめながら僕はため息をつく。
「はぁ~……かっこいい……」
いつ見ても惚れ惚れしてしまうのは相変わらずだ。一定の距離を保って生きていきたかったのに、なぜか父と義母の策略により蒼司と結婚することになってしまった。
(嬉しいよ、そりゃ。嬉しいけど……蒼司くんが最近僕に甘すぎてなんだか調子狂っちゃうな)
そう、彼は近頃以前よりずっと優しくなった。
以前は基本的に僕が話し掛けても何も答えないか、「ああ」とか「ふん」とかそんな気のない返事しかしてくれなかった。それが、最近は話し掛けたらちゃんとこっちを見て返事をしてくれるし、なんなら微笑みかけてもくれる。
最近学部を変更して勉強も忙しいはずなのに僕の体調のことまで心配してくれるし、休日は外に連れ出してくれる。
ああやってキスを求められ、帰宅した時は抱きしめてくれる。
冷たかった彼が、精一杯愛情表現してくれているのだ。
(嬉しい……だけど、ちょっと物足りない気もしたりして)
僕はたまには前みたいにちょっとキツめに睨まれたい――率直に言えば「いじめられたい」という願望を胸の内にくすぶらせていたのだった。
◇◇◇
僕は中西のサロンを訪れてこれまであった出来事を全て話した。
「……ということになりまして……」
「え~! 本当に蒼司くんと結婚するんだ!?」
「はい」
「いやあ、どうなることかと思っちゃったよ。蒼司くんからの電話で蓉平くんがうちに来てないってバラしたのまずかったかな~って」
「いえ、いいんです。僕の言葉が足りなかったんです」
「そっかぁ、でもよかったね。大好きな蒼司くんとちゃんとうまくいって!」
「ええ。そうなんですけど……」
「ん? どうしたの。何か問題でも?」
「それが……」
僕は最近蒼司が優しすぎて怖いという話をした。
そして、何より気になっていることがもう一つ……。
「ええっ!? 待って、まだエッチしてないの?」
「な、中西さん。声大きいですって」
「いいじゃん、誰も居ないんだもん。そんなことより、どういうこと? あれからもう1ヶ月近く経つけど!?」
「そうなんです……」
僕たちは婚約することになった。これは両親も認めている。いつ籍を入れようか、結婚式はどうしようかという話もしているくらいだ。
それなのに……。
「僕はしたいって思ってるんですけど、そういう雰囲気になってもうやむやにされちゃうっていうか……」
「え? え? 意味わかんない。どいういうこと?」
「手とか、口ではしてくれるんですけど……」
中西はうんうん、と頷く。
「入れてくれないんです」
僕は恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じながらも打ち明けた。
中西はそれを聞いて唸った。
「うーん、それは……そうかぁ、まあ、わからないでも無い」
「え? わかるんですか?」
「蒼司くんはさ、蓉平くんのことが大事なんだよ」
「そ、そうでしょうか」
「いやー、そうなっちゃったか。、うーん」
「中西さん、僕どうしたらいいでしょう?」
百戦錬磨の中西なら解決策を伝授してくれるんじゃないかと思って恥を偲んで相談したのだ。
「蓉平くん。ここは、年上の君がリードしないと」
「ええ~! そんなの無理ですよ。僕、恋愛したことすらないんですから」
「そうだよなぁ……。まあ、次のヒートもうすぐでしょ? それを気長に待ってなよ。もしかしたら蒼司くんも初めてするのはヒートの時がいいって思ってるのかも」
「え?」
「ほら、蓉平くん初めてでしょ? 怖がらないように、君がヒートで理性飛ばしてる時にした方が安心すると思ってるのかもよ」
「ああ、なるほど……」
(たしかにそうかも! 蒼司くんの大きさのが入るのってちょっと怖いし)
「ありがとうございます! 心配しないで次のヒートを待ちます」
14
お気に入りに追加
1,727
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない
潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。
いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。
そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。
一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。
たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。
アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる