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40.義父からの連絡(2)(蒼司視点)
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アンジュについさっき自信たっぷりに「蓉平と婚約してる」なんて言い切った自分があまりにも滑稽だった。
(あいつが俺に惚れてるのは間違いないだなんて、どうして思い込むことができたんだ?)
蓉平はモデルのAoのファンなだけで、リアルな人間としての俺には愛想を尽かしていた。そう思うと胸が押しつぶされそうになる。
(あいつは俺を選ばなかった――。俺みたいなガキじゃなくて、年上の分別ある大人を選んだんだ)
当然だろう。過去にトラウマを抱え、長らく引きこもっていたのだ。俺のような、気紛れで冷たくしたり甘やかしたりする男と一緒になったとして何のメリットがある?
頭ではそう理解していた。だが、俺だってあいつを好きだと自覚したからこそ将来の覚悟を決めたんじゃなかったのか。
先程アンジュに見せられた二人の写真を思い出す。俺に笑いかけていた彼のあの顔が、演技だったとは思えない。
(チャンスさえ与えてもらえたら、俺は――またあいつを笑顔にしてやりたい)
ここで怖気付いて諦めるわけにはいかない。桂木という男に、黙って蓉平を渡したりするものか。せめて、蓉平に好きだと伝えたい。その上であいつが俺を選ばないなら諦めよう。しかしまだ、俺は蓉平に謝ることさえ出来ていない。
相談所の桂木のファイルには、住所や電話番号も記載されていた。
(勝手に見たこの情報を元に押しかけるのはルール違反だ……。少し大人になれ)
今までの俺なら、怒りに任せてすぐに乗り込んでいただろう。だけど、そんなことをしたらまた蓉平を怯えさせるだけだ。
俺からの電話に出てくれるかはわからないが、居場所だけでも確認しようと彼に電話を掛ける。コール音は鳴ったが、繋がらなかった。
(出るわけないよな――。こんなこと、親に頼むのはめちゃくちゃ恥ずかしいが……そんなことは言ってられない。まずは安否だけでも確認しなければ)
蓉平の身に何かあった場合、彼の父に報告する約束だ。これまでも彼と一緒に出掛けたことなどを逐一報告していた。
義父に電話を掛けると、こちらはすぐに繋がった。
「お父さん、今話せますか?」
『ああ、どうした? さっきのことかな』
「いいえ。蓉平くんのことで――お詫びと、お願いしたいことがあります」
厳しい叱責を受ける覚悟で、俺はつまらないプライドを捨てて義父に昨日の話をした。その反応は意外にも寛容なものだった。
『蒼司くん。話しにくかっただろうに、ちゃんと教えてくれてありがとう。この件については私にも責任があるようだ』
「……というと?」
『実は蓉平には君が相談所の紹介相手だとは話していなかったんだ』
「え――?」
『どうやら私のせいで君たちの関係を拗れさせてしまったみたいだ。だから君を責めることはできない』
(あんなに過保護に見えたのに、俺がしたことを怒らないのか……?)
『蓉平がどこでこの相談所のことを知ったのかわからない。だが、これまでの話を聞く限り蓉平は蒼司くんにすごく心を開いていたと思うんだ』
「それはどうでしょう……」
『私はてっきりこのまま上手く行くと思っていたんだが、家出するとは参ったねえ。蓉平がこんなに活動的になっていたとは、誤算だったよ』
義父は参ったと言いながら、声音には少し嬉しさが滲んでいた。息子が一人で行動しているのが彼にとっては喜ばしいことなのかもしれない。
『中西くんに口止めの連絡をしているくらいだから、身の危険は無いと考えていいだろう。蓉平の居場所は私が確認するから心配しなくていい。その上でこの先どうするかは、君たち二人で話し合って決めるんだ。いいね?』
義父は蓉平の居場所がわかったらまた連絡すると言って電話を切った。
(――つまり蓉平は最初から俺のことを婚約相手だと思っていなかった。俺のことをただの義弟と思ってたってことか……)
ということは、蓉平は俺を捨てて別の男を選んだわけではないのかもしれない。
いずれにせよ、義父が最後のチャンスを与えてくれた。
蓉平本人がもう二度と会いたくないと言えばそれまでだが、首の皮一枚で繋がったような気がした。
(あいつが俺に惚れてるのは間違いないだなんて、どうして思い込むことができたんだ?)
蓉平はモデルのAoのファンなだけで、リアルな人間としての俺には愛想を尽かしていた。そう思うと胸が押しつぶされそうになる。
(あいつは俺を選ばなかった――。俺みたいなガキじゃなくて、年上の分別ある大人を選んだんだ)
当然だろう。過去にトラウマを抱え、長らく引きこもっていたのだ。俺のような、気紛れで冷たくしたり甘やかしたりする男と一緒になったとして何のメリットがある?
頭ではそう理解していた。だが、俺だってあいつを好きだと自覚したからこそ将来の覚悟を決めたんじゃなかったのか。
先程アンジュに見せられた二人の写真を思い出す。俺に笑いかけていた彼のあの顔が、演技だったとは思えない。
(チャンスさえ与えてもらえたら、俺は――またあいつを笑顔にしてやりたい)
ここで怖気付いて諦めるわけにはいかない。桂木という男に、黙って蓉平を渡したりするものか。せめて、蓉平に好きだと伝えたい。その上であいつが俺を選ばないなら諦めよう。しかしまだ、俺は蓉平に謝ることさえ出来ていない。
相談所の桂木のファイルには、住所や電話番号も記載されていた。
(勝手に見たこの情報を元に押しかけるのはルール違反だ……。少し大人になれ)
今までの俺なら、怒りに任せてすぐに乗り込んでいただろう。だけど、そんなことをしたらまた蓉平を怯えさせるだけだ。
俺からの電話に出てくれるかはわからないが、居場所だけでも確認しようと彼に電話を掛ける。コール音は鳴ったが、繋がらなかった。
(出るわけないよな――。こんなこと、親に頼むのはめちゃくちゃ恥ずかしいが……そんなことは言ってられない。まずは安否だけでも確認しなければ)
蓉平の身に何かあった場合、彼の父に報告する約束だ。これまでも彼と一緒に出掛けたことなどを逐一報告していた。
義父に電話を掛けると、こちらはすぐに繋がった。
「お父さん、今話せますか?」
『ああ、どうした? さっきのことかな』
「いいえ。蓉平くんのことで――お詫びと、お願いしたいことがあります」
厳しい叱責を受ける覚悟で、俺はつまらないプライドを捨てて義父に昨日の話をした。その反応は意外にも寛容なものだった。
『蒼司くん。話しにくかっただろうに、ちゃんと教えてくれてありがとう。この件については私にも責任があるようだ』
「……というと?」
『実は蓉平には君が相談所の紹介相手だとは話していなかったんだ』
「え――?」
『どうやら私のせいで君たちの関係を拗れさせてしまったみたいだ。だから君を責めることはできない』
(あんなに過保護に見えたのに、俺がしたことを怒らないのか……?)
『蓉平がどこでこの相談所のことを知ったのかわからない。だが、これまでの話を聞く限り蓉平は蒼司くんにすごく心を開いていたと思うんだ』
「それはどうでしょう……」
『私はてっきりこのまま上手く行くと思っていたんだが、家出するとは参ったねえ。蓉平がこんなに活動的になっていたとは、誤算だったよ』
義父は参ったと言いながら、声音には少し嬉しさが滲んでいた。息子が一人で行動しているのが彼にとっては喜ばしいことなのかもしれない。
『中西くんに口止めの連絡をしているくらいだから、身の危険は無いと考えていいだろう。蓉平の居場所は私が確認するから心配しなくていい。その上でこの先どうするかは、君たち二人で話し合って決めるんだ。いいね?』
義父は蓉平の居場所がわかったらまた連絡すると言って電話を切った。
(――つまり蓉平は最初から俺のことを婚約相手だと思っていなかった。俺のことをただの義弟と思ってたってことか……)
ということは、蓉平は俺を捨てて別の男を選んだわけではないのかもしれない。
いずれにせよ、義父が最後のチャンスを与えてくれた。
蓉平本人がもう二度と会いたくないと言えばそれまでだが、首の皮一枚で繋がったような気がした。
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