25 / 48
25.トラブルの火種
しおりを挟む
こうして僕はヒートを上手く乗り切れた嬉しさでしばらくの間浮かれた日々を過ごしていた。
蒼司と撮影に出掛けるのも段々慣れてきたし、嫌なことがあったら彼に言えば大抵のことはなんとかしてくれる。
(兄弟っていいものだな。元々弟がほしいって子供の時思っていたよりも、実際すごくいい)
この歳になって、美容師や従兄弟以外にまともな友人すらいない僕には、蒼司のような存在はとても貴重だった。
恥ずかしいところを見られても見捨てられることなく、安心して頼れる相手。それは今まで父だけだったけど、彼と兄弟になったことで信頼できる相手が増えたのだ。
蒼司にとっては僕はお荷物かもしれないけど、一緒に居て最近は笑ってくれることも増えてきた。だから、嫌われているといっても憎まれる程じゃないと思う。
(兄弟ってそういうものだよね? きっと)
喧嘩したりしながらずっと仲良くできたらいいな、と思う。僕が彼に頼るだけじゃなくて、ちゃんと社会に適応できるようになって彼のことを助けられるようになれれば……。
しかし、自分が思っているほど世の中は甘くなかった。
彼を助けるどころか迷惑をかける事態になってしまうとは、僕にはこのとき全く想像もできなかった。
◇◇◇
その日、いつものように蒼司は大学に行き、僕は家で受注した作業を淡々とこなしていた。
そろそろお昼ご飯の支度でもしようかと立ち上がったところでインターホンが鳴った。
(あれ、今日指定で何か頼んでたかな)
大体の買い物は未だにネットでしてしまう。なので、我が家には頻繁に宅配便が届く。僕は何を頼んだか記憶を辿りながらインターホンの通話ボタンを押した。
「はい」
そしてエントランスの映像がモニターに映るのを見て僕は息を呑んだ。
(え……アンジュちゃん……?)
『私よ、アンジュ』
「あ、こんにちは……?」
(どうしよう。蒼司くんを尋ねてきたんだよね――今僕しかいないんだけど……)
『開けてくれない?』
「でも、今蒼司くんは不在なんですけど……」
『いいの。あんたヨウヘイでしょ? 今日はあんたに用事だから』
「え、僕に?」
(僕が誰だかわかってて来たの? 蒼司くんに僕と一緒に住んでること聞いたのかな)
彼女が僕に何の用があって来たのかわからないが、ロックを解除し彼女を招き入れた。
アンジュはキョロキョロと部屋を見渡しながら僕の案内に従ってリビングのソファに腰掛けた。
「アイスティーでいいかな?」
「紅茶ならホットで」
「あ、はい」
真夏なので外は暑いはずだけど、体を冷やさないようにしているのだそうだ。
「それで、僕に用って一体何ですか……?」
「本当にあんたここに住んでるの?」
アンジュが鋭い目で僕を睨んだ。
「うん、そうだけど」
「わかった。じゃあ要件を率直に言うけど」
何を言われるのかと僕は身構えた。
「ここから出てって。Aoの前から消えて」
「え――?」
蒼司と撮影に出掛けるのも段々慣れてきたし、嫌なことがあったら彼に言えば大抵のことはなんとかしてくれる。
(兄弟っていいものだな。元々弟がほしいって子供の時思っていたよりも、実際すごくいい)
この歳になって、美容師や従兄弟以外にまともな友人すらいない僕には、蒼司のような存在はとても貴重だった。
恥ずかしいところを見られても見捨てられることなく、安心して頼れる相手。それは今まで父だけだったけど、彼と兄弟になったことで信頼できる相手が増えたのだ。
蒼司にとっては僕はお荷物かもしれないけど、一緒に居て最近は笑ってくれることも増えてきた。だから、嫌われているといっても憎まれる程じゃないと思う。
(兄弟ってそういうものだよね? きっと)
喧嘩したりしながらずっと仲良くできたらいいな、と思う。僕が彼に頼るだけじゃなくて、ちゃんと社会に適応できるようになって彼のことを助けられるようになれれば……。
しかし、自分が思っているほど世の中は甘くなかった。
彼を助けるどころか迷惑をかける事態になってしまうとは、僕にはこのとき全く想像もできなかった。
◇◇◇
その日、いつものように蒼司は大学に行き、僕は家で受注した作業を淡々とこなしていた。
そろそろお昼ご飯の支度でもしようかと立ち上がったところでインターホンが鳴った。
(あれ、今日指定で何か頼んでたかな)
大体の買い物は未だにネットでしてしまう。なので、我が家には頻繁に宅配便が届く。僕は何を頼んだか記憶を辿りながらインターホンの通話ボタンを押した。
「はい」
そしてエントランスの映像がモニターに映るのを見て僕は息を呑んだ。
(え……アンジュちゃん……?)
『私よ、アンジュ』
「あ、こんにちは……?」
(どうしよう。蒼司くんを尋ねてきたんだよね――今僕しかいないんだけど……)
『開けてくれない?』
「でも、今蒼司くんは不在なんですけど……」
『いいの。あんたヨウヘイでしょ? 今日はあんたに用事だから』
「え、僕に?」
(僕が誰だかわかってて来たの? 蒼司くんに僕と一緒に住んでること聞いたのかな)
彼女が僕に何の用があって来たのかわからないが、ロックを解除し彼女を招き入れた。
アンジュはキョロキョロと部屋を見渡しながら僕の案内に従ってリビングのソファに腰掛けた。
「アイスティーでいいかな?」
「紅茶ならホットで」
「あ、はい」
真夏なので外は暑いはずだけど、体を冷やさないようにしているのだそうだ。
「それで、僕に用って一体何ですか……?」
「本当にあんたここに住んでるの?」
アンジュが鋭い目で僕を睨んだ。
「うん、そうだけど」
「わかった。じゃあ要件を率直に言うけど」
何を言われるのかと僕は身構えた。
「ここから出てって。Aoの前から消えて」
「え――?」
16
お気に入りに追加
1,727
あなたにおすすめの小説
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない
潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。
いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。
そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。
一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。
たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。
アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
出来損ないΩの猫獣人、スパダリαの愛に溺れる
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
旧題:オメガの猫獣人
「後1年、か……」
レオンの口から漏れたのは大きなため息だった。手の中には家族から送られてきた一通の手紙。家族とはもう8年近く顔を合わせていない。決して仲が悪いとかではない。むしろレオンは両親や兄弟を大事にしており、部屋にはいくつもの家族写真を置いているほど。けれど村の風習によって強制的に村を出された村人は『とあること』を成し遂げるか期限を過ぎるまでは村の敷地に足を踏み入れてはならないのである。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
運命はいつもその手の中に
みこと
BL
子どもの頃運命だと思っていたオメガと離れ離れになったアルファの亮平。周りのアルファやオメガを見るうちに運命なんて迷信だと思うようになる。自分の前から居なくなったオメガを恨みながら過ごしてきたが、数年後にそのオメガと再会する。
本当に運命はあるのだろうか?あるならばそれを手に入れるには…。
オメガバースものです。オメガバースの説明はありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる