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番外編【薫視点】俺が恋人を甘やかす理由
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俺と唯斗の間で起きたことは誰にも秘密のはずだった。しかし旦那様はなんでもお見通しだった。
それ以来俺と唯斗は様々な検査を受けさせられ、代わる代わる得体の知れない薬を飲まされた。
しかしそれにも関わらず、唯斗の甘い匂いは俺を惹きつけてやまなかった。
母の死をきっかけに今度は唯斗の母親まで体調を崩し、そのまま次の年に病をこじらせて亡くなってしまった。
不幸中の幸いとでも言おうか、その当時唯斗も体調が優れなかった。お陰で始終意識がぼんやりしていて、母の死もよくわかっていないようだった。彼はこのとき11歳で、第二次性徴の発現が見られた。俺は自分と唯斗の度重なる検査とその結果を旦那様から直接聞かされていた。
なぜ旦那様が俺にそんなことを話したのか。それは、彼が俺を唯斗のお守り役として認めたからだった。
彼には全てわかっていた。俺には唯斗を捕食するチャンスがこれまでに幾度となくあった。しかし唯斗が噛み傷を腕に生じさせながらも、俺が我慢したことを彼は知っていた。
「君はフォークだが、唯斗を食べることはないだろう?」
そう言って彼はケーキとフォークの症状の原因について全て話してくれた。両親の口論により、ある程度の事情は察していた。しかし唯斗の祖父がその原因となる薬を製造・販売していたとは――。
これにより、俺が抱いていた千堂夫人への不審感は払拭された。俺と唯斗がこうなってしまったのは俺たちのせいでも、千堂夫人のせいでもなかった。
憎むべきは唯斗の祖父、そしてある意味では旦那様なのだろう。しかし、唯斗を守るために尽力している旦那様を見ていると憎みきれないものがあった。それに、彼の地位と財力がなければ唯斗も俺もこの先まともに生きていくことはできないだろう。俺は善悪はともかく彼に提案された条件をのみ、彼と協力することで生涯唯斗を守ることに決めた。
旦那様はその後間を置かずに再婚した。選挙にどうしても必要な票を得るため、ある地方有力者の娘と結婚することに決めたのだ。
俺はそれに対してもなんの感情も抱かなかった。ただ、唯斗が寂しげにしているのは気の毒に思った。
問題は、新しくやってきた奥様が唯斗に対して嫌がらせ行為を始めたことだった。
彼女は先妻の面影を色濃く残す唯斗のことを快く思っていなかった。同時に、唯斗の面倒を見ている俺のことも目障りだと思っていた。それは当然だろう、俺は千堂家とは血の繋がりもない。
はじめのうち彼女の嫌がらせは唯斗のことを無視したり、旦那様の見ていないところできつい物言いをするくらいで済んでいた。しかし彼女が妊娠してから段々とエスカレートしていった。
生まれたのが男の子だったのもその原因の一つだ。彼女は長男である唯斗を押しのけて自分の息子を旦那様の後継者にしたいと考えたのだ。
この件については旦那様から直接話を聞いた。そして、旦那様は唯斗を後継者にするつもりがないということも――。
それは以前から俺にもわかっていたことだ。唯斗が政治の世界に飛び込むなど到底無理だ。それは服用している薬のせいでもあったし、俺のせいでもあった。
俺は唯斗にはあえて何もさせないようにしていた。
彼は何もできなくていい。
そうして俺に頼って生きるしかないように仕向けてきたのだ。
彼は卵を割ることすらできない。だが、なんでもできるようになって俺の元から離れて行ってしまっては困るのだ。
それに関して旦那様は気付いていながら何も言いはしなかった。彼としても、ケーキ症の息子が外に出ていくよりは目の届く範囲でおとなしくしている方が好都合だったのだ。
それ以来俺と唯斗は様々な検査を受けさせられ、代わる代わる得体の知れない薬を飲まされた。
しかしそれにも関わらず、唯斗の甘い匂いは俺を惹きつけてやまなかった。
母の死をきっかけに今度は唯斗の母親まで体調を崩し、そのまま次の年に病をこじらせて亡くなってしまった。
不幸中の幸いとでも言おうか、その当時唯斗も体調が優れなかった。お陰で始終意識がぼんやりしていて、母の死もよくわかっていないようだった。彼はこのとき11歳で、第二次性徴の発現が見られた。俺は自分と唯斗の度重なる検査とその結果を旦那様から直接聞かされていた。
なぜ旦那様が俺にそんなことを話したのか。それは、彼が俺を唯斗のお守り役として認めたからだった。
彼には全てわかっていた。俺には唯斗を捕食するチャンスがこれまでに幾度となくあった。しかし唯斗が噛み傷を腕に生じさせながらも、俺が我慢したことを彼は知っていた。
「君はフォークだが、唯斗を食べることはないだろう?」
そう言って彼はケーキとフォークの症状の原因について全て話してくれた。両親の口論により、ある程度の事情は察していた。しかし唯斗の祖父がその原因となる薬を製造・販売していたとは――。
これにより、俺が抱いていた千堂夫人への不審感は払拭された。俺と唯斗がこうなってしまったのは俺たちのせいでも、千堂夫人のせいでもなかった。
憎むべきは唯斗の祖父、そしてある意味では旦那様なのだろう。しかし、唯斗を守るために尽力している旦那様を見ていると憎みきれないものがあった。それに、彼の地位と財力がなければ唯斗も俺もこの先まともに生きていくことはできないだろう。俺は善悪はともかく彼に提案された条件をのみ、彼と協力することで生涯唯斗を守ることに決めた。
旦那様はその後間を置かずに再婚した。選挙にどうしても必要な票を得るため、ある地方有力者の娘と結婚することに決めたのだ。
俺はそれに対してもなんの感情も抱かなかった。ただ、唯斗が寂しげにしているのは気の毒に思った。
問題は、新しくやってきた奥様が唯斗に対して嫌がらせ行為を始めたことだった。
彼女は先妻の面影を色濃く残す唯斗のことを快く思っていなかった。同時に、唯斗の面倒を見ている俺のことも目障りだと思っていた。それは当然だろう、俺は千堂家とは血の繋がりもない。
はじめのうち彼女の嫌がらせは唯斗のことを無視したり、旦那様の見ていないところできつい物言いをするくらいで済んでいた。しかし彼女が妊娠してから段々とエスカレートしていった。
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この件については旦那様から直接話を聞いた。そして、旦那様は唯斗を後継者にするつもりがないということも――。
それは以前から俺にもわかっていたことだ。唯斗が政治の世界に飛び込むなど到底無理だ。それは服用している薬のせいでもあったし、俺のせいでもあった。
俺は唯斗にはあえて何もさせないようにしていた。
彼は何もできなくていい。
そうして俺に頼って生きるしかないように仕向けてきたのだ。
彼は卵を割ることすらできない。だが、なんでもできるようになって俺の元から離れて行ってしまっては困るのだ。
それに関して旦那様は気付いていながら何も言いはしなかった。彼としても、ケーキ症の息子が外に出ていくよりは目の届く範囲でおとなしくしている方が好都合だったのだ。
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