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10.発症と原因
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「俺の母は、唯斗の実のお母さんと学生時代の先輩後輩の関係で、友人同士でもあったんだ」
「そうなの……?」
「二人はまるで姉妹のようだと言われるくらい仲が良かった。そして俺の母の結婚後も二人の友情は変わらなかった」
(じゃあなんで薫のお母さんはうちで使用人なんてしていたんだ?)
「俺の母は結婚して二年後に俺を身ごもったんだ。それと同じ年に君のお母さんも旦那様と結婚することになった」
旦那様というのは僕の父のことだ。家を出た今も薫は父をそう呼んでいる。
「そして唯斗のお母さんは結婚式のため、父親――つまり君のお祖父さんの会社で製造していたある美容内服薬を飲んでいた」
僕の母方の祖父は製薬会社の社長だったと聞いている。物心つく頃には既に亡くなっていたため、僕は祖父のことについてはそれくらいしか知らない。
「そして、その時妊娠中で肌の荒れを感じていた俺の母もその薬を一緒に飲んでいた。一応その薬は妊婦が飲んでも問題が無く、むしろつわりにも効くと言われていたんだ。その薬には体内の毒素を排出するという効果があるとされていた」
しかし、その製造過程で問題が起きたという。当時の工場は東南アジアにあり、今では考えられないようなずさんな管理体制だったらしい。
そしてある時点で製造された薬品の一部に本来使われるはずではない材料が混入していたことがわかった。
幸いにも、服用した購入者の中に体調を崩したと名乗り出る者はいなかった。
これで何も起きなければ話はここで終わっていた。混入した材料そのものは人体に悪影響を及ぼすものでは無かったからだ。しかし、それから数年経って国内である症例が報告され始めた。
「それが、ケーキ症とフォーク症だ」
「え――?」
「例の薬を飲んだ場合、飲んだ本人にはほとんど何も影響がなかった。しかし、この薬を飲んだ人間が妊娠中だった場合、胎児に影響を与えるものだったんだ」
「胎児に……?」
「ああ。母親からお腹の子どもへとね」
「でも、薬は回収されたんでしょ?」
「それが、その工場は閉鎖されたんだがその後も薬自体は再販されたんだ」
「え、な、なんで?」
「……すぐにはその薬と病気の因果関係が証明できなかったんだよ。一度認可された薬だから、その販売を止めるのはなかなか難しいものなんだ」
「そうなの……?」
「しかも、その薬が出回る前に審査し認可したのが……当時旦那様のいた省庁だった」
(なんだって――?)
「え、それって、どういうこと?」
「一度認可した薬に問題があって、それが原因で病気が広まったとわかったらどうなると思う?」
「……それは……」
(政府としては、そんな過ちを犯したと認めれば責任問題になるってこと?)
「薬を製造したのは君の母方のお祖父さん。そして、その薬を認可した国の機関で働いていた君のお父さん」
僕は恐ろしくて体が震えてきた。
「そして、お祖父さんの薬を飲んだ俺の母と君のお母さん。彼女は君を妊娠した時もこの薬を飲み続けていた。その時はまだ、ケーキ・フォーク症の存在が知られて間もなかった頃だからね。原因がその薬だなんて誰も知らなかった」
そして僕たちは薬の影響を受けた状態で生まれてしまったというわけだ。薬の影響を受けた子どもの全てが発症するわけではなく、6割ほどがケーキないしはフォークとなってしまうらしい。
「でもどうして? ケーキ症の原因がそんな薬だなんて一般には知られていないじゃないか」
「それは当然、事実が揉み消されたからね」
「え?」
「その薬が原因だとわかり、世間に知られる前にその内服薬は製造が中止された」
「そんな――!」
「そして、今は影響を受けた人間がこの世から全て居なくなるのを待っている状態だ」
祖父や父がそんなことに関わっていたなんて……。
「俺がどうしてケーキである君と一緒にいられるのか。それはつまり、俺がすべての秘密を知っているからなんだ」
「そうなの……?」
「二人はまるで姉妹のようだと言われるくらい仲が良かった。そして俺の母の結婚後も二人の友情は変わらなかった」
(じゃあなんで薫のお母さんはうちで使用人なんてしていたんだ?)
「俺の母は結婚して二年後に俺を身ごもったんだ。それと同じ年に君のお母さんも旦那様と結婚することになった」
旦那様というのは僕の父のことだ。家を出た今も薫は父をそう呼んでいる。
「そして唯斗のお母さんは結婚式のため、父親――つまり君のお祖父さんの会社で製造していたある美容内服薬を飲んでいた」
僕の母方の祖父は製薬会社の社長だったと聞いている。物心つく頃には既に亡くなっていたため、僕は祖父のことについてはそれくらいしか知らない。
「そして、その時妊娠中で肌の荒れを感じていた俺の母もその薬を一緒に飲んでいた。一応その薬は妊婦が飲んでも問題が無く、むしろつわりにも効くと言われていたんだ。その薬には体内の毒素を排出するという効果があるとされていた」
しかし、その製造過程で問題が起きたという。当時の工場は東南アジアにあり、今では考えられないようなずさんな管理体制だったらしい。
そしてある時点で製造された薬品の一部に本来使われるはずではない材料が混入していたことがわかった。
幸いにも、服用した購入者の中に体調を崩したと名乗り出る者はいなかった。
これで何も起きなければ話はここで終わっていた。混入した材料そのものは人体に悪影響を及ぼすものでは無かったからだ。しかし、それから数年経って国内である症例が報告され始めた。
「それが、ケーキ症とフォーク症だ」
「え――?」
「例の薬を飲んだ場合、飲んだ本人にはほとんど何も影響がなかった。しかし、この薬を飲んだ人間が妊娠中だった場合、胎児に影響を与えるものだったんだ」
「胎児に……?」
「ああ。母親からお腹の子どもへとね」
「でも、薬は回収されたんでしょ?」
「それが、その工場は閉鎖されたんだがその後も薬自体は再販されたんだ」
「え、な、なんで?」
「……すぐにはその薬と病気の因果関係が証明できなかったんだよ。一度認可された薬だから、その販売を止めるのはなかなか難しいものなんだ」
「そうなの……?」
「しかも、その薬が出回る前に審査し認可したのが……当時旦那様のいた省庁だった」
(なんだって――?)
「え、それって、どういうこと?」
「一度認可した薬に問題があって、それが原因で病気が広まったとわかったらどうなると思う?」
「……それは……」
(政府としては、そんな過ちを犯したと認めれば責任問題になるってこと?)
「薬を製造したのは君の母方のお祖父さん。そして、その薬を認可した国の機関で働いていた君のお父さん」
僕は恐ろしくて体が震えてきた。
「そして、お祖父さんの薬を飲んだ俺の母と君のお母さん。彼女は君を妊娠した時もこの薬を飲み続けていた。その時はまだ、ケーキ・フォーク症の存在が知られて間もなかった頃だからね。原因がその薬だなんて誰も知らなかった」
そして僕たちは薬の影響を受けた状態で生まれてしまったというわけだ。薬の影響を受けた子どもの全てが発症するわけではなく、6割ほどがケーキないしはフォークとなってしまうらしい。
「でもどうして? ケーキ症の原因がそんな薬だなんて一般には知られていないじゃないか」
「それは当然、事実が揉み消されたからね」
「え?」
「その薬が原因だとわかり、世間に知られる前にその内服薬は製造が中止された」
「そんな――!」
「そして、今は影響を受けた人間がこの世から全て居なくなるのを待っている状態だ」
祖父や父がそんなことに関わっていたなんて……。
「俺がどうしてケーキである君と一緒にいられるのか。それはつまり、俺がすべての秘密を知っているからなんだ」
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