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8.問い詰める

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倒れた男性のことが気になりながらも、さっき見た光景が恐ろしくて薫に逆らうことはできなかった。彼に従って自宅に帰ると、玄関に入るなり彼が言う。

「ごめんね、汚れたからシャワーで流してくるよ。薬飲んで先に寝ていて」

薫はそう言ってバスルームに入ってしまった。僕は納得がいかずに脱衣所で立ちすくんだ。

(寝ていてって、まさかこのままうやむやにする気?)

そんなことはさせない――と僕は浴室のドアを開けた。

「唯斗? どうしたんだ」
「ちゃんと説明してよ」

僕が一歩足を踏み入れると彼が言う。

「だから、シャワーが終わったら話すよ。濡れちゃうから出ていて」
「嫌だ」
「唯斗……」

薫が困った顔をしてこちらを見ている。そこで僕は彼の脇腹から血が出ていることに気付いた。

「あれ、薫……怪我してるの!?」
「ああ、大丈夫。大した傷じゃない」
「で、でも……血が出てるじゃないか」
「さっきの男がナイフを持ってたんだ」
「嘘……!」

(一体どうなってるの? なんであの人は薫を切りつけたりしたんだ?)

僕はシャワーで服が濡れるのにも構わず彼へ近づき床に膝をつく。目を凝らして傷を見ると、そこまで深くはないようだった。
ほっとしたのもつかの間、薫に腕を捕まれ立たされる。

「唯斗、俺の言うことを聞かないからびしょ濡れだ。ほら服を脱いで」
「うん……」

濡れて身体に貼り付いた洋服は重たく、脱ぎにくかった。薫は無言で手伝ってくれる。
すべて脱ぎ終えてから僕は薫に尋ねた。

「夜中に出掛けたのは今日だけじゃないよね」

僕の言葉に薫が目を見張った。

「――何?」
「先週も薫が夜中に出掛けていったのに気付いて後をつけたんだ」
「先週も?」

僕は頷いて言う。

「ねえ、あの建物は何? ドアの前に居た男の人が、フォークとかケーキの新人がどうとかって言ってた。悪いことしてるお店なんじゃないの? 薫は……もしかしてあそこでケーキの人を買っているの?」

彼は息を吐きながら天を仰いだ。

「――油断した。まさかあんなところまでついて来るなんて」

ブツブツ一人で言ってから、薫が僕の両肩を掴む。

「なあ、唯斗。俺はいつも言ってるよね。日中であっても一人で出歩いちゃいけないんだって」
「うん、でも――」
「本当に危険なんだ。唯斗は一人で出掛けちゃだめなんだよ。俺がついてないと」
「ねえ、いつも思ってたんだけどいくら僕が病弱だからってそれは過保護すぎだよ」
「病弱? そんなものじゃない。だって唯斗は――」

そこで薫は一呼吸置いて言う。

「君はケーキなんだから」

(は――……?)
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