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7.犯行現場を目撃する
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その後、また彼が夜中に出掛けて行くのに気付いた。僕は追いかけることはせず、ベッドに横になったままスマホで彼の位置情報を見ていた。
前回同様に車で移動するものとばかり思っていたけれど、今回は徒歩のスピードで移動していく。
(今日はあそこに行くんじゃないの……?)
どうせまたあの店に行くと思っていたので、尾行するつもりはなかった。しかし別の場所に行くなら――と僕はベッドを抜け出した。
アプリの示す方向へと小走りで追いかける。すると、ある場所で薫の動きが止まった。
(こっちにあるのは公園だけだよね……なんの用だろう)
アプリ上で示された彼の現在地は公園の中だった。
僕は物陰に隠れつつ、薫に見つからないように近づいて行く。
(――いた!)
公園の奥にある暗い林の中に薫の姿が見えた。ちょうどこちらに背を向けていて好都合だ。暗くてよく見えないけれど、彼の向かいには小太りの男性がいるようだ。
(知り合いなのかな? こんな時間に、こんな場所で会うなんてどういうこと?)
そのままこっそり眺めていると、男性が薫の腕を掴んでもみ合いになった。そして、次の瞬間、薫が男性を殴りつけて馬乗りになった。
(え! 何してるの!?)
つい声を出しそうになり、僕は手で口を覆った。そのまま視線をそらせずにいると、殴られた男性は動かなくなった。薫はすっと立ち上がり、ポケットから取り出したハンカチで手を拭いている。
僕は恐怖で体が震え始めた。逃げないと……と思うのにうまく足が動かない。
すると、さっきまで男を見下ろしていた薫がふいに顔を上げ、キョロキョロと辺りを見回しだした。そしてあろうことかこちらへ向かって歩いてくるではないか。
(やばい、こっちに来る……!)
僕はもっとちゃんと隠れられる場所がないかと必死で左右を見たが、その前に彼が僕を見つけてしまった。
「唯斗? なんでここに――」
「あ……」
薫はおそらく男の返り血を浴びているだろうが、全身黒尽くめの服を着ているので夜目にはわからない。
「薫こそ……何やってるんだよ、こんなところで」
震える声で僕が問うと、彼はため息をついた。
「俺のことをつけて来たんだね。まさかこんなところを見られるとは思わなかった」
「か、薫……」
「危ないじゃないか。こんな場所に一人で歩いてきて。誰かに襲われたらどうするんだ?」
今しがた男性を殴り倒した薫にそんなことを言われても説得力が無かった。
「薫、そんなことよりあの人は……」
「安心して。ちゃんと息の根は止めたから」
「えっ? い、息……え!?」
(まさか死んだの? 薫が殺した――?)
僕は彼が平然と口にする言葉に動揺し、息が苦しくなってきた。
「ああ、唯斗落ち着いて。今薬は持ってないんだ。参ったな、ちょっと待って」
そう言って薫はスマホで誰かに電話を掛けた。通話を終えると、彼は僕の身体を支えながら歩き始めた。
「どこ行くの?」
「家に帰ろう」
「だって、あの人! 救急車呼ばないと……薫……」
「大丈夫。ちゃんと処理してくれるから」
僕たちが自宅の方へ歩いていると、黒いバンがゆっくりと近づいてきた。バンの進行方向にはさっきの男が倒れているというのに、薫は気にもとめていない様子だ。すれ違いざまに運転席の若い男が薫に向かって頭を下げたように見えた。
僕が背後を振り返ると、バンは男が倒れている近くの通路で停車していた。薫がこちらをなだめるように言う。
「安心して。大丈夫だから」
「何が大丈夫なの? あの男の人死んじゃったの?」
「死んでるからもう大丈夫だよ。安全だ。帰ったら説明するから」
(死んでるから大丈夫って、安全って、なんだよ?)
前回同様に車で移動するものとばかり思っていたけれど、今回は徒歩のスピードで移動していく。
(今日はあそこに行くんじゃないの……?)
どうせまたあの店に行くと思っていたので、尾行するつもりはなかった。しかし別の場所に行くなら――と僕はベッドを抜け出した。
アプリの示す方向へと小走りで追いかける。すると、ある場所で薫の動きが止まった。
(こっちにあるのは公園だけだよね……なんの用だろう)
アプリ上で示された彼の現在地は公園の中だった。
僕は物陰に隠れつつ、薫に見つからないように近づいて行く。
(――いた!)
公園の奥にある暗い林の中に薫の姿が見えた。ちょうどこちらに背を向けていて好都合だ。暗くてよく見えないけれど、彼の向かいには小太りの男性がいるようだ。
(知り合いなのかな? こんな時間に、こんな場所で会うなんてどういうこと?)
そのままこっそり眺めていると、男性が薫の腕を掴んでもみ合いになった。そして、次の瞬間、薫が男性を殴りつけて馬乗りになった。
(え! 何してるの!?)
つい声を出しそうになり、僕は手で口を覆った。そのまま視線をそらせずにいると、殴られた男性は動かなくなった。薫はすっと立ち上がり、ポケットから取り出したハンカチで手を拭いている。
僕は恐怖で体が震え始めた。逃げないと……と思うのにうまく足が動かない。
すると、さっきまで男を見下ろしていた薫がふいに顔を上げ、キョロキョロと辺りを見回しだした。そしてあろうことかこちらへ向かって歩いてくるではないか。
(やばい、こっちに来る……!)
僕はもっとちゃんと隠れられる場所がないかと必死で左右を見たが、その前に彼が僕を見つけてしまった。
「唯斗? なんでここに――」
「あ……」
薫はおそらく男の返り血を浴びているだろうが、全身黒尽くめの服を着ているので夜目にはわからない。
「薫こそ……何やってるんだよ、こんなところで」
震える声で僕が問うと、彼はため息をついた。
「俺のことをつけて来たんだね。まさかこんなところを見られるとは思わなかった」
「か、薫……」
「危ないじゃないか。こんな場所に一人で歩いてきて。誰かに襲われたらどうするんだ?」
今しがた男性を殴り倒した薫にそんなことを言われても説得力が無かった。
「薫、そんなことよりあの人は……」
「安心して。ちゃんと息の根は止めたから」
「えっ? い、息……え!?」
(まさか死んだの? 薫が殺した――?)
僕は彼が平然と口にする言葉に動揺し、息が苦しくなってきた。
「ああ、唯斗落ち着いて。今薬は持ってないんだ。参ったな、ちょっと待って」
そう言って薫はスマホで誰かに電話を掛けた。通話を終えると、彼は僕の身体を支えながら歩き始めた。
「どこ行くの?」
「家に帰ろう」
「だって、あの人! 救急車呼ばないと……薫……」
「大丈夫。ちゃんと処理してくれるから」
僕たちが自宅の方へ歩いていると、黒いバンがゆっくりと近づいてきた。バンの進行方向にはさっきの男が倒れているというのに、薫は気にもとめていない様子だ。すれ違いざまに運転席の若い男が薫に向かって頭を下げたように見えた。
僕が背後を振り返ると、バンは男が倒れている近くの通路で停車していた。薫がこちらをなだめるように言う。
「安心して。大丈夫だから」
「何が大丈夫なの? あの男の人死んじゃったの?」
「死んでるからもう大丈夫だよ。安全だ。帰ったら説明するから」
(死んでるから大丈夫って、安全って、なんだよ?)
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