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妊娠・出産編
11.産後 母子同室で育児スタート
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手術当夜はただうとうとしたくらいでろくに眠れぬまま朝になってしまった。
朝食で重湯が出た。やっと食べ物を食べられて嬉しい。
そして驚いたことに、午前中のうちに尿道カテーテルを抜かれて、フットポンプを外すと「もう立ってみましょう」と言われた。
ーーーー立つ…?この痛さで…?
寝返りを打つだけで悶えるほど痛いのに、立って歩くのだという。
看護師さんの説明によると、元々ホルモンの関係で妊婦の血液は固まりにくいのだそうだ。
しかも帝王切開は前日から絶飲食になって体内の水分が足りない。
そこへ、術後の安静とくるので血栓症になる確率が経膣分娩よりも10倍高いらしい。
なので、無理にでも立って歩いて血液を循環させないといけないんだそうだ。
しかしこわごわやってみると、少しクラクラと目眩がしたものの意外と歩けてホッとした。
看護師さんによると、男性なので女性とは骨盤や靭帯、筋肉量などが違うため産後の体調の戻りは良い方なのだそうだ。
それにしても、痛いものは痛かったが。
「新生児室まで歩けますか?赤ちゃんに会いに行ってみましょう」
と言われて、俄然やる気が出た。
男性看護師さんに支えてもらいながらよろよろと歩いて新生児室に着いた。
ガラス張りの窓から「文月美耶さんベビー」とネームプレートがかかっている透明のコットが見えた。
中には産後すぐに見たときとは違い綺麗に顔を拭いてもらって白い産着を着せられたフクちゃんが眠っていた。
「フクちゃん…」
お猿さんみたいな赤い顔をしているけど、鼻が高くて礼央似の天使だった。
なんて可愛いんだろう!
出産時は何もかもがはじめてのことでゆっくり感動を味わえなかったけど、ガラス越しでも愛しい我が子を見るだけで笑顔になれた。
とはいえ立っているのすら辛い産後の痛みで、抱っこしてみたいけど俺はこんなんで大丈夫なのか?と不安にもなった。
世のお母さんって、このまま赤ちゃんのお世話もするんだよな…
「さあ、病室に戻りましょう」
看護師さんがそう言ったので俺はちょっとほっとした気持ちで病室へ戻った。
お昼ご飯前には礼央が来てくれた。
「美耶さん、その後どうですか?」
「うん…すっごく痛かったけど歩いて新生児室まで見に行ったよ」
「え!もう歩けるんですか?!」
「うん。なるべく早く歩かないといけないんだって。すっごく痛かった…」
「そうなんですね。フクちゃんはどんな様子でした?」
「寝てた。礼央に似てると思ったよ。見に行くなら窓の傍にフクちゃんを連れてきてもらえるから看護師さんに言ってね」
「わかりました。美耶さんのご飯が終わったら行ってみます」
そう話していたが、食後に看護師さんがコットに入ったフクちゃんを部屋に連れてきてくれた。
「わぁ…寝てる…すごい可愛い…」
礼央は術後にもフクちゃんと対面してるけど、ちゃんと触れるのは初めてで感動していた。
「抱っこして良いって言ってたよ、してみようよ」
礼央は慎重に抱き上げたが、なんだか慣れなくて不自然なポーズで抱っこしていて笑ってしまった。
「だ、だって、人形と違ってふにゃふにゃなんですよ!なんか壊れそうで怖いです~」
両親学級で習ったことは、一応覚えてはいるけどやはりリアルな赤ちゃんだと全然違って俺も礼央も最初は戸惑うことが多かった。
オムツ替えも、このクリニックは布おむつなので初めてやったけど何とか数回やれば慣れることができた。
授乳に関しては男性Ωはおっぱいが出ないので完全にミルクとなる。
最初は哺乳瓶を咥えさせるのも苦労したし、何がいけないのか全然飲まずに吐き出してしまったり、ほとんど飲まずに寝てしまったり…
でも看護師さんがやると飲むんだよなぁ。
授乳室は男女別になっていて、男性Ωは少ないのでたまに他に人がいるとお互い励まし合っていた。
こうして何人かと話してみると、やはり男性Ωの方が全体的に産後の身体の戻りが早い印象だった。
さて、この後も激痛に耐えながらの数日を過ごし、その後は一気に痛みが引いた。
傷自体が2~3日で塞がるらしく、術後に貼ってもらっていたテープも3日目からは外されてしまった。でもそのテープを外してしまうと、ちょっと動いたりお腹に力を入れるだけですごく痛むのだ。
そこで礼央が調べてくれて、傷の治りを良くするテープを買ってきてくれた。
そして嬉しいことに3日目の夜にやっとシャワーが許可された。
汗だくで痛みに苦しんで数日、汗を流せなかったのが辛かった。一応身体は拭いてもらえていたけど、シャワーの爽快感はまた格別だった。
さっぱりしたのは良かったが、今度は足の浮腫に悩まされた。着圧ソックスを履いても足が象みたいに腫れて足首が無いみたいになっていた。パンパンで歩きにくい。
研修に来ていた看護師見習いの子が2名交代で様子を見に来てくれたんだけど、浮腫がひどいと言ったら1人がお湯を汲んできてくれて足湯のようにしてマッサージをしてくれた。
すごく気持ちよくて、やってもらってすぐは少し改善した。
不思議なことに、浮腫は退院直前に嘘みたいに治った。
フクちゃんは3日目からは母子同室となり、3時間おきにミルクをあげ、汚れたらオムツを替え…とお世話が始まった。
睡眠時間や授乳などはメモして看護師さんに毎日提出するようになっていた。
自分の身体も大変だし、最初はちょっと辛かったけど5日目くらいにはようやく慣れてきた。
しかし、夜中も授乳するためぐっすりは眠れない。
傷は治っていくけど、それとは別に育児の疲れが段々溜まっていく感じがした。
とはいえ、俺自身の身の回りのことは食事にせよ洗濯にせよ看護師さん達が全てやってくれている。
しかもフクちゃんのことで困ったらすぐ呼べば助けてもらえるので後から思えばまだ入院中は楽だったのだ。
朝食で重湯が出た。やっと食べ物を食べられて嬉しい。
そして驚いたことに、午前中のうちに尿道カテーテルを抜かれて、フットポンプを外すと「もう立ってみましょう」と言われた。
ーーーー立つ…?この痛さで…?
寝返りを打つだけで悶えるほど痛いのに、立って歩くのだという。
看護師さんの説明によると、元々ホルモンの関係で妊婦の血液は固まりにくいのだそうだ。
しかも帝王切開は前日から絶飲食になって体内の水分が足りない。
そこへ、術後の安静とくるので血栓症になる確率が経膣分娩よりも10倍高いらしい。
なので、無理にでも立って歩いて血液を循環させないといけないんだそうだ。
しかしこわごわやってみると、少しクラクラと目眩がしたものの意外と歩けてホッとした。
看護師さんによると、男性なので女性とは骨盤や靭帯、筋肉量などが違うため産後の体調の戻りは良い方なのだそうだ。
それにしても、痛いものは痛かったが。
「新生児室まで歩けますか?赤ちゃんに会いに行ってみましょう」
と言われて、俄然やる気が出た。
男性看護師さんに支えてもらいながらよろよろと歩いて新生児室に着いた。
ガラス張りの窓から「文月美耶さんベビー」とネームプレートがかかっている透明のコットが見えた。
中には産後すぐに見たときとは違い綺麗に顔を拭いてもらって白い産着を着せられたフクちゃんが眠っていた。
「フクちゃん…」
お猿さんみたいな赤い顔をしているけど、鼻が高くて礼央似の天使だった。
なんて可愛いんだろう!
出産時は何もかもがはじめてのことでゆっくり感動を味わえなかったけど、ガラス越しでも愛しい我が子を見るだけで笑顔になれた。
とはいえ立っているのすら辛い産後の痛みで、抱っこしてみたいけど俺はこんなんで大丈夫なのか?と不安にもなった。
世のお母さんって、このまま赤ちゃんのお世話もするんだよな…
「さあ、病室に戻りましょう」
看護師さんがそう言ったので俺はちょっとほっとした気持ちで病室へ戻った。
お昼ご飯前には礼央が来てくれた。
「美耶さん、その後どうですか?」
「うん…すっごく痛かったけど歩いて新生児室まで見に行ったよ」
「え!もう歩けるんですか?!」
「うん。なるべく早く歩かないといけないんだって。すっごく痛かった…」
「そうなんですね。フクちゃんはどんな様子でした?」
「寝てた。礼央に似てると思ったよ。見に行くなら窓の傍にフクちゃんを連れてきてもらえるから看護師さんに言ってね」
「わかりました。美耶さんのご飯が終わったら行ってみます」
そう話していたが、食後に看護師さんがコットに入ったフクちゃんを部屋に連れてきてくれた。
「わぁ…寝てる…すごい可愛い…」
礼央は術後にもフクちゃんと対面してるけど、ちゃんと触れるのは初めてで感動していた。
「抱っこして良いって言ってたよ、してみようよ」
礼央は慎重に抱き上げたが、なんだか慣れなくて不自然なポーズで抱っこしていて笑ってしまった。
「だ、だって、人形と違ってふにゃふにゃなんですよ!なんか壊れそうで怖いです~」
両親学級で習ったことは、一応覚えてはいるけどやはりリアルな赤ちゃんだと全然違って俺も礼央も最初は戸惑うことが多かった。
オムツ替えも、このクリニックは布おむつなので初めてやったけど何とか数回やれば慣れることができた。
授乳に関しては男性Ωはおっぱいが出ないので完全にミルクとなる。
最初は哺乳瓶を咥えさせるのも苦労したし、何がいけないのか全然飲まずに吐き出してしまったり、ほとんど飲まずに寝てしまったり…
でも看護師さんがやると飲むんだよなぁ。
授乳室は男女別になっていて、男性Ωは少ないのでたまに他に人がいるとお互い励まし合っていた。
こうして何人かと話してみると、やはり男性Ωの方が全体的に産後の身体の戻りが早い印象だった。
さて、この後も激痛に耐えながらの数日を過ごし、その後は一気に痛みが引いた。
傷自体が2~3日で塞がるらしく、術後に貼ってもらっていたテープも3日目からは外されてしまった。でもそのテープを外してしまうと、ちょっと動いたりお腹に力を入れるだけですごく痛むのだ。
そこで礼央が調べてくれて、傷の治りを良くするテープを買ってきてくれた。
そして嬉しいことに3日目の夜にやっとシャワーが許可された。
汗だくで痛みに苦しんで数日、汗を流せなかったのが辛かった。一応身体は拭いてもらえていたけど、シャワーの爽快感はまた格別だった。
さっぱりしたのは良かったが、今度は足の浮腫に悩まされた。着圧ソックスを履いても足が象みたいに腫れて足首が無いみたいになっていた。パンパンで歩きにくい。
研修に来ていた看護師見習いの子が2名交代で様子を見に来てくれたんだけど、浮腫がひどいと言ったら1人がお湯を汲んできてくれて足湯のようにしてマッサージをしてくれた。
すごく気持ちよくて、やってもらってすぐは少し改善した。
不思議なことに、浮腫は退院直前に嘘みたいに治った。
フクちゃんは3日目からは母子同室となり、3時間おきにミルクをあげ、汚れたらオムツを替え…とお世話が始まった。
睡眠時間や授乳などはメモして看護師さんに毎日提出するようになっていた。
自分の身体も大変だし、最初はちょっと辛かったけど5日目くらいにはようやく慣れてきた。
しかし、夜中も授乳するためぐっすりは眠れない。
傷は治っていくけど、それとは別に育児の疲れが段々溜まっていく感じがした。
とはいえ、俺自身の身の回りのことは食事にせよ洗濯にせよ看護師さん達が全てやってくれている。
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