11 / 46
9.生還と再会
しおりを挟む
目が覚めた。
俺は死んだはずなのでここは天国だろうか。
それにしては全身が痛かった。
「生きてる…」
声は出せた。
口の他は指先以外全身動かなかったが、これだけ痛いならきっと生きてるんだろう。
左の瞼が腫れていて目が開かないので片目しか見えない。
固定されていて首を回すことも出来ないのであまり良く周りが見えないが、淡いブルーの壁に白い天井の部屋だ。
おそらく病院だろう。
死にたかった。
なんで生きてるんだ?誰だよ見つけたの。
こんなに痛いのに生きていたくない。
あんな目にあったのにもう呼吸もしたくなかった。
涙が滲んできた。
それを自分で拭うことすらできないのになんで生きてるんだ。
しばらくして室内に人が入ってきた気配がした。
しかし音のする方を向くことができず誰なのかわからない。
「目が覚めましたね、よかった…神崎先輩」
先輩というからには後輩の1人だろう。
高校か、大学か、会社の人間か…?
聞き覚えのない声なのであまり親しい人間ではない。
「誰…?」
「すみません。見えませんよね」
背が高く肩幅の広い男が俺を覗き込んできた。
ミルクティー色の髪に優しそうな目をした美男子だ。
いかにもαというオーラを感じる。
知らない…誰だ…?
見知らぬ人物に先輩呼ばわりされて薄気味悪くなる。
「どなたですか?」
男は俺の言葉にちょっと悲しげな顔をした。
でもまたすぐに笑顔を見せた。
ころころ表情の変わる男だな。
「文月です。文月礼央。大学のサークルで一緒でした」
記憶を辿る。俺は大学時代映画研究会に所属していた。
サークルと言ってもたまに映画を見るくらいでこれといった活動もしていないゆるいサークルだった。
そして、その中にそんな名前の奴がいたような気もする。
だけどこんな美男子のαなら覚えていそうなものだが記憶があやふやだ。
「当時は眼鏡で髪の毛ももっとモサモサしてたのでわからないかもしれないです。学部も違いましたし」
「あれ…」
そう言われれば、眼鏡を掛けた長身の後輩がいたような気がしてきた。
「あ、思い出した。医学部のガリ勉くんだ!」
「そうです」
文月は俺の言い方に苦笑した。
「ごめん…失礼な言い方だった」
「良いんです、覚えていてくれて嬉しいです」
しかも結構懐かれてたような?そんな相手を忘れているなんて我ながら薄情だな。
でも当時文月のことをαだと思ったことはなかったけどな。
大体なんでこいつがここに現れたんだろう。
「それより、ここはどこ?なんで俺はここにいるのかな」
「ここは俺の伯父の病院です。先輩のことは大迫さんが見つけました」
「え!大迫が?イテテ…」
思わず身体に力が入って、あちこちに激痛が走った。
「あ、肩脱臼してるから力入れないでくださいね。肋骨もヒビが入っていますし」
「そうか…」
どうりで肩も肋も痛いはずだ。
それよりなんで文月が大迫を知ってるんだ?
何がどうなってる…?
「色々説明したいんですけど、先輩は今休むのが先なのでちょっとお薬で眠っていただきますね」
「え、薬………?あ…やだ。薬はいや…」
ここに運ばれる前の記憶が頭をよぎって薬という言葉に過剰に反応してしまう。
とにかく薬はもう嫌だ。
「大丈夫です。変な薬ではないですよ。鎮静剤です」
「やだ…やめて!文月、いや、いやだ!」
身体は動かせないので、目で訴えるしかなかった。
しかしそれも無駄に終わった。
「すみません、ごめんね先輩…」
文月の背後に控えていた医師らしき人物に注射を打たれて俺はすぐに意識を手放した。
俺は死んだはずなのでここは天国だろうか。
それにしては全身が痛かった。
「生きてる…」
声は出せた。
口の他は指先以外全身動かなかったが、これだけ痛いならきっと生きてるんだろう。
左の瞼が腫れていて目が開かないので片目しか見えない。
固定されていて首を回すことも出来ないのであまり良く周りが見えないが、淡いブルーの壁に白い天井の部屋だ。
おそらく病院だろう。
死にたかった。
なんで生きてるんだ?誰だよ見つけたの。
こんなに痛いのに生きていたくない。
あんな目にあったのにもう呼吸もしたくなかった。
涙が滲んできた。
それを自分で拭うことすらできないのになんで生きてるんだ。
しばらくして室内に人が入ってきた気配がした。
しかし音のする方を向くことができず誰なのかわからない。
「目が覚めましたね、よかった…神崎先輩」
先輩というからには後輩の1人だろう。
高校か、大学か、会社の人間か…?
聞き覚えのない声なのであまり親しい人間ではない。
「誰…?」
「すみません。見えませんよね」
背が高く肩幅の広い男が俺を覗き込んできた。
ミルクティー色の髪に優しそうな目をした美男子だ。
いかにもαというオーラを感じる。
知らない…誰だ…?
見知らぬ人物に先輩呼ばわりされて薄気味悪くなる。
「どなたですか?」
男は俺の言葉にちょっと悲しげな顔をした。
でもまたすぐに笑顔を見せた。
ころころ表情の変わる男だな。
「文月です。文月礼央。大学のサークルで一緒でした」
記憶を辿る。俺は大学時代映画研究会に所属していた。
サークルと言ってもたまに映画を見るくらいでこれといった活動もしていないゆるいサークルだった。
そして、その中にそんな名前の奴がいたような気もする。
だけどこんな美男子のαなら覚えていそうなものだが記憶があやふやだ。
「当時は眼鏡で髪の毛ももっとモサモサしてたのでわからないかもしれないです。学部も違いましたし」
「あれ…」
そう言われれば、眼鏡を掛けた長身の後輩がいたような気がしてきた。
「あ、思い出した。医学部のガリ勉くんだ!」
「そうです」
文月は俺の言い方に苦笑した。
「ごめん…失礼な言い方だった」
「良いんです、覚えていてくれて嬉しいです」
しかも結構懐かれてたような?そんな相手を忘れているなんて我ながら薄情だな。
でも当時文月のことをαだと思ったことはなかったけどな。
大体なんでこいつがここに現れたんだろう。
「それより、ここはどこ?なんで俺はここにいるのかな」
「ここは俺の伯父の病院です。先輩のことは大迫さんが見つけました」
「え!大迫が?イテテ…」
思わず身体に力が入って、あちこちに激痛が走った。
「あ、肩脱臼してるから力入れないでくださいね。肋骨もヒビが入っていますし」
「そうか…」
どうりで肩も肋も痛いはずだ。
それよりなんで文月が大迫を知ってるんだ?
何がどうなってる…?
「色々説明したいんですけど、先輩は今休むのが先なのでちょっとお薬で眠っていただきますね」
「え、薬………?あ…やだ。薬はいや…」
ここに運ばれる前の記憶が頭をよぎって薬という言葉に過剰に反応してしまう。
とにかく薬はもう嫌だ。
「大丈夫です。変な薬ではないですよ。鎮静剤です」
「やだ…やめて!文月、いや、いやだ!」
身体は動かせないので、目で訴えるしかなかった。
しかしそれも無駄に終わった。
「すみません、ごめんね先輩…」
文月の背後に控えていた医師らしき人物に注射を打たれて俺はすぐに意識を手放した。
46
お気に入りに追加
2,800
あなたにおすすめの小説
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる