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14.◆やりすぎた?

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 真面目で、少し子どもっぽいくらい純粋な感性を持つ柊一。その彼が「キスの続きを教えて」と言ってきた時の艶っぽい表情はたまらなかった。

 女性に対して気を遣うタイプの彼が一緒に居てリラックスできる相手でありたい、と京介は思っていた。それは成功していたように思う。
 しかし、それだけではやはり物足りない。彼の肉体的な欲望も引き出してみたい。この手で彼のベールを一枚ずつ剥ぎ取ってみたいという気持ちは日に日に強くなっていった。そして、今夜彼の紅潮した肌を見てもう黙っていられなくなった。もちろん無理矢理するつもりはなく、あくまでも彼の意志で体を許す気になれば――の話だ。

 柊一は京介の施す愛撫に面白いくらい反応してくれた。彼は童貞ではないが男相手のセックス経験が無い。恥じらう姿は初々しく、それは京介に嫌でもかつて失恋した相手を思い出させた。
 一人の相手に執着するのは危険だとわかっている。それなのに、柊一といると知らぬ間にのめり込んで理性を失いそうになるのだ。
 快感で我を忘れながらこちらの腕にしがみついてくる彼が愛しくて、キスをした。柊一は京介とのキスが気に入ったようで、すぐに手のひらに彼の温かいものが放たれた。

 京介は彼の秘められた一面を暴いたという達成感を味わいつつ、羞恥から両手で顔を隠してしまった柊一の顔を覗き込んだ。

「ぅう……っ、ひっく……」
「柊一? 大丈夫か?」

 まさか泣いてしまうとは思わず焦った。柔らかいダークブラウンの髪の毛を撫でて落ち着かせようとするが、彼の動揺は収まらない。

「も……無理……無理です、ごめんなさい――」

 彼は泣きながら言った。京介はようやく彼が本気でやめてほしいのだと理解した。

「すまない、もうしない。大丈夫だよ柊一。もうしない」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい……」

 彼は何度も謝った。何かから身を守るように体を丸め、こちらを見ない。

「謝る必要はないよ。無理しなくていい。この先は君の気持ちの準備ができてからにしよう」

 柊一はしゃくりあげながら頷いた。可哀想に、どうやら彼の精神的なキャパを超えてしまったようだ。
(――というより男同士ということに拒否感が強いか……)
 好奇心はあるのかもしれない。肉体的には男相手に感じる素質もある。しかし、それを受け入れられるほど彼の精神は成熟していない。
 自分は別の部屋で寝るから柊一にベッドで寝ていいと伝える。しかし彼は首を振り、京介の貸した服を着て帰っていった。

 やりすぎた――いや、彼がしてほしいと言ったのだ。だが、まだ早すぎた。もしくは、やはり彼は男相手ではだめなのかもしれない。
 柊一が帰った後、どうしても寝付けなくてブランデーを飲みながら呆然としていた。思ったよりショックを受けている。彼が自分に気を許しているのを感じ、ベッドでも良い関係になれるんじゃないかとどこかで自惚れていた。しかしやはり柊一のような繊細な人物に中途半端な気持ちで手を出すなんて間違いだった。
(完全に嫌われたかな。こんなことになるくらいなら、最初から手を出そうとしなければよかった……)

 あの後柊一からの連絡はぱったり来なくなった。これまでなら帰宅したら必ずメッセージをくれていたのに、だ。こちらから様子をうかがうメッセージを送ると、最低限の返事はしてくれた。しかし、これまでの態度とは違ってこちらに一線引いているのは明らかだった。

 柊一が置いていったシャツはクリーニングから戻ってきていた。しかし、彼との繋がりがこのシャツ一枚とは、あまりにも心もとなかった。
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