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顔合わせ
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家に帰って渡された釣り書きを見てみた。
六条准一 41歳
父の取引先の経営者。
要するに、仕事の関係上僕は売られるようなものか?
それはそれで、父にとって利用価値があるならこちらとしてもやる意味があるというものだ。
東郷が婚約して、僕も縁談が持ち上がって、ちょうど良いタイミングじゃないか。こうなる運命だったのかもしれない。
もし、僕の縁談が先だったら……?
答えはわかりきっていた。一秒も考えずに断っていたろう。
でも――話を聞いたらほんの少しくらいは、東郷も嫉妬してくれたかな?
「ははっ。無いかぁ……」
そして僕は六条氏との縁談を受けることにした。健斗がもう少し調べたいことがあるから返事は待ってくれと言ってきていたが、調べるも何も、父の仕事関係ならもう何も調べるような事など無いではないか。
今日はその六条氏と初の顔合わせの日だった。本当の男女の縁談のように形式張ってやる必要はないので、実家の応接間でごく簡単に行われた。
僕は父にスーツが似合わないと言われていて、こういった席で何を着ていいかわからなかったので、弟に相談した。
弟は、ジャケットを着ないのは不自然だからリクルートスーツみたいのじゃなく、淡い色の麻のジャケットにしたらいいと勧めてくれた。よくわからないが店員も、僕の肌の色なら白っぽいのがいいでしょうと言って生成りのものを勧めてきたからそれにした。
顔合わせの直前に父の前に立ったら、全身をパッと眺めて頷いていたので、及第点だったらしい。
そして六条氏が現れた。スラっとして背の高い、瀟洒な男だった。にこやかだが何となく目は笑っていない――そんな印象を受けた。
誰かに似てるような、どこかで見たような顔。特にこれと言って気にいるとも気に入らないとも思わなかった。末永く添い遂げるには丁度良いのかもしれない。
その後は軽い自己紹介と、六条氏がどういう理由で僕のことを求めているのかを話してくれた。
父の前だったから少し気まずかったけど、六条氏は同性愛者で女性の妻を持つ気は無く、子どももいないためこれまでにも二人養子縁組をして育てているそうだ。そこへ、大人の僕を縁組して母親がわりになって欲しいということだった。
養子縁組だけでもびっくりしていたのに、子どももいるのか……と更に驚かされた。でも、子どもと言ってももう中学生と高校生だというから、子育ての手が必要というわけでもなさそうだった。
東郷との件ですっかり意気消沈していた僕には、これくらいの刺激が必要なのかもしれない。
結局僕は断らなかった。
そして、健斗の言うことを聞かなかったのを後から悔やむことになる。
六条准一 41歳
父の取引先の経営者。
要するに、仕事の関係上僕は売られるようなものか?
それはそれで、父にとって利用価値があるならこちらとしてもやる意味があるというものだ。
東郷が婚約して、僕も縁談が持ち上がって、ちょうど良いタイミングじゃないか。こうなる運命だったのかもしれない。
もし、僕の縁談が先だったら……?
答えはわかりきっていた。一秒も考えずに断っていたろう。
でも――話を聞いたらほんの少しくらいは、東郷も嫉妬してくれたかな?
「ははっ。無いかぁ……」
そして僕は六条氏との縁談を受けることにした。健斗がもう少し調べたいことがあるから返事は待ってくれと言ってきていたが、調べるも何も、父の仕事関係ならもう何も調べるような事など無いではないか。
今日はその六条氏と初の顔合わせの日だった。本当の男女の縁談のように形式張ってやる必要はないので、実家の応接間でごく簡単に行われた。
僕は父にスーツが似合わないと言われていて、こういった席で何を着ていいかわからなかったので、弟に相談した。
弟は、ジャケットを着ないのは不自然だからリクルートスーツみたいのじゃなく、淡い色の麻のジャケットにしたらいいと勧めてくれた。よくわからないが店員も、僕の肌の色なら白っぽいのがいいでしょうと言って生成りのものを勧めてきたからそれにした。
顔合わせの直前に父の前に立ったら、全身をパッと眺めて頷いていたので、及第点だったらしい。
そして六条氏が現れた。スラっとして背の高い、瀟洒な男だった。にこやかだが何となく目は笑っていない――そんな印象を受けた。
誰かに似てるような、どこかで見たような顔。特にこれと言って気にいるとも気に入らないとも思わなかった。末永く添い遂げるには丁度良いのかもしれない。
その後は軽い自己紹介と、六条氏がどういう理由で僕のことを求めているのかを話してくれた。
父の前だったから少し気まずかったけど、六条氏は同性愛者で女性の妻を持つ気は無く、子どももいないためこれまでにも二人養子縁組をして育てているそうだ。そこへ、大人の僕を縁組して母親がわりになって欲しいということだった。
養子縁組だけでもびっくりしていたのに、子どももいるのか……と更に驚かされた。でも、子どもと言ってももう中学生と高校生だというから、子育ての手が必要というわけでもなさそうだった。
東郷との件ですっかり意気消沈していた僕には、これくらいの刺激が必要なのかもしれない。
結局僕は断らなかった。
そして、健斗の言うことを聞かなかったのを後から悔やむことになる。
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