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再会
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開業したクリニックも二年目に入り軌道に乗ってきたある日、弟の咲真からパーティ出席の依頼が来た。
本当なら絶対そんなもの出ないのだが、父がどうしても出ろと言っていると聞いて出席しないわけにはいかなくなった。
結局このクリニックの資金もマンション購入費用も父の懐から出ているのだ。
僕は嫌々参加することにしたが、父に久々に会えるのだけは嬉しかった。
昔母から聞いた、新婚旅行で両親が訪れたヴェネチアの話が僕は好きだった。それで、パーティの際付けるネクタイピンにはヴェネチアからの輸入品を選んだ。
しかし当日パーティ会場に行ってみると父は不在だった。咲真は屈託なく笑って「父さんが出られないから代わりに兄さんに来てもらったんだよ」と言った。
やっぱりこんなところへ来なければ良かった。
そう思いながら、話しかけてくる人物を適当にあしらっていた。そろそろ役目も終わったし勝手に帰ろうとドアに向かいかけたとき、見覚えのある人物が目に留まった。
「東郷……」
あの、高校時代に僕の噂を切って捨てた東郷雅貴だった。
あの当時から人目を惹く容姿をしていたが、益々磨きがかかって32歳の青年は文句なしの美丈夫になっていた。
僕はその姿を見た瞬間、沸いた湯を飲み込んだかのように鳩尾の辺りがカッと熱くなるのを感じた。
男に代わる代わる抱かれるようになってから、忘れていたあの感覚。僕が持っていない物全てを持っている男に対する嫉妬や羨望――。
張り合えるようなステージに立ってすらいないのに、無駄に沸き上がる対抗心のようなもの……。
――馬鹿げている。
東郷は昨年グループ会社の最高経営責任者に就いたほどの天上人だ。西園寺の当主にすらなれず細々とクリニックを開業しているような自分が何をもって彼に対抗するというのか?
高校時代ですら、向こうがこちらを認識しているかもわからない相手だったのだ。
今更何を彼に期待してるんだ。まさか、東郷が自分に興味を持つとでも?
この不快な呪いの連鎖にあの男を引きずり込もうとでもいうのか。
「そうか……」
僕はじっと東郷を見つめた。すると一瞬だけ彼が視線ををこちらに向けた。
目が合ったような気がする。
「――試してみよう」
そう、試してみるんだ。あの男は僕を抱けるか? ちょっとしたゲームをしてみよう。
そう考えると不思議な高揚感に包まれ、僕は東郷のいる方に歩み寄った。
「久しぶり、東郷くん」
偶然見つけた同級生に話しかけた、という体だ。おかしくないよね?
東郷はこちらを見下ろして一瞬記憶を辿るような目をした。
「ああ、久しぶり。西園寺だよな」
「うん」
僕はさりげなく握手のために手を出した。東郷は自然にこちらの手を握る。
東郷の手は大きくて温かく、少々カサついていた。
「クリニックを開業したと聞いてる。おめでとう」
「え、あ……ああ。そうなんだ。カウンセリングも受けてるから何かあれば気軽にどうぞ」
――何故知ってるんだ?
国内有数のグループ企業のCEOから、小さなクリニックのことを話題に出され急に恥ずかしくなって顔が熱くなった。
東郷はすぐに別の人物に話し掛けられ、こちらに挨拶代わりのビジネススマイルを向けると立ち去っていった。
なんでわざわざ話しかけたりしたんだろう――やめておけばよかった。
元を辿れば東郷家と西園寺家は日露戦争後に海運業を始めた頃からの付き合いがある。今はお互い異なる業界にいるものの、家同士の付き合いは健在だった。だから東郷が僕のクリニックのことを知っていても不思議はないのだった。
だめだ――そもそも東郷の当主を巻き込めるわけないだろ。今や西園寺をしのぐ名家だ。
相手を選ぶなら良家の次男以下が条件。これは絶対だ。
本当なら絶対そんなもの出ないのだが、父がどうしても出ろと言っていると聞いて出席しないわけにはいかなくなった。
結局このクリニックの資金もマンション購入費用も父の懐から出ているのだ。
僕は嫌々参加することにしたが、父に久々に会えるのだけは嬉しかった。
昔母から聞いた、新婚旅行で両親が訪れたヴェネチアの話が僕は好きだった。それで、パーティの際付けるネクタイピンにはヴェネチアからの輸入品を選んだ。
しかし当日パーティ会場に行ってみると父は不在だった。咲真は屈託なく笑って「父さんが出られないから代わりに兄さんに来てもらったんだよ」と言った。
やっぱりこんなところへ来なければ良かった。
そう思いながら、話しかけてくる人物を適当にあしらっていた。そろそろ役目も終わったし勝手に帰ろうとドアに向かいかけたとき、見覚えのある人物が目に留まった。
「東郷……」
あの、高校時代に僕の噂を切って捨てた東郷雅貴だった。
あの当時から人目を惹く容姿をしていたが、益々磨きがかかって32歳の青年は文句なしの美丈夫になっていた。
僕はその姿を見た瞬間、沸いた湯を飲み込んだかのように鳩尾の辺りがカッと熱くなるのを感じた。
男に代わる代わる抱かれるようになってから、忘れていたあの感覚。僕が持っていない物全てを持っている男に対する嫉妬や羨望――。
張り合えるようなステージに立ってすらいないのに、無駄に沸き上がる対抗心のようなもの……。
――馬鹿げている。
東郷は昨年グループ会社の最高経営責任者に就いたほどの天上人だ。西園寺の当主にすらなれず細々とクリニックを開業しているような自分が何をもって彼に対抗するというのか?
高校時代ですら、向こうがこちらを認識しているかもわからない相手だったのだ。
今更何を彼に期待してるんだ。まさか、東郷が自分に興味を持つとでも?
この不快な呪いの連鎖にあの男を引きずり込もうとでもいうのか。
「そうか……」
僕はじっと東郷を見つめた。すると一瞬だけ彼が視線ををこちらに向けた。
目が合ったような気がする。
「――試してみよう」
そう、試してみるんだ。あの男は僕を抱けるか? ちょっとしたゲームをしてみよう。
そう考えると不思議な高揚感に包まれ、僕は東郷のいる方に歩み寄った。
「久しぶり、東郷くん」
偶然見つけた同級生に話しかけた、という体だ。おかしくないよね?
東郷はこちらを見下ろして一瞬記憶を辿るような目をした。
「ああ、久しぶり。西園寺だよな」
「うん」
僕はさりげなく握手のために手を出した。東郷は自然にこちらの手を握る。
東郷の手は大きくて温かく、少々カサついていた。
「クリニックを開業したと聞いてる。おめでとう」
「え、あ……ああ。そうなんだ。カウンセリングも受けてるから何かあれば気軽にどうぞ」
――何故知ってるんだ?
国内有数のグループ企業のCEOから、小さなクリニックのことを話題に出され急に恥ずかしくなって顔が熱くなった。
東郷はすぐに別の人物に話し掛けられ、こちらに挨拶代わりのビジネススマイルを向けると立ち去っていった。
なんでわざわざ話しかけたりしたんだろう――やめておけばよかった。
元を辿れば東郷家と西園寺家は日露戦争後に海運業を始めた頃からの付き合いがある。今はお互い異なる業界にいるものの、家同士の付き合いは健在だった。だから東郷が僕のクリニックのことを知っていても不思議はないのだった。
だめだ――そもそも東郷の当主を巻き込めるわけないだろ。今や西園寺をしのぐ名家だ。
相手を選ぶなら良家の次男以下が条件。これは絶対だ。
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