【完結】セックス依存症の精神科医がスパダリCEOと結ばれるまで

grotta

文字の大きさ
上 下
3 / 40

銀木犀

しおりを挟む
幼少期のことはあまり覚えていない。ただ、女物の服を着せられていたから途中までは自分が女だと思っていたような気はする。だからなのか、痣のせいなのかはわからないが、僕が惹かれる相手は常に男だった。

小学校に上がる頃には自分が男だとわかっていた。名前が女性的で見た目も中性的なのも理解していた。

「病持ち」の人間には見た目が美しいという特徴がある。僕もその例に漏れず、白い顔に淡い髪色、長いまつ毛の大きな目が特徴的で、幼い頃から人形のようだと言われてきた。
まずその見た目が男を惹き付ける。小学生であっても、同級生の男子からは異質な存在だと見なされがちだった。名家の子息ということもあって、いじめに合うようなことはなかったが、仲良くもしてもらえなかった。
そんなわけで、僕は孤独な子ども時代を過ごした。

家でも、常に優先されるのは弟の咲真の方だった。
咲真の機嫌が良ければ一家は明るい雰囲気に包まれたし、咲真が泣けば家の者たちがこぞってご機嫌取りをした。
つまらないことだが、咲真の方がお菓子の量が多かったり、おもちゃも咲真がねだればすぐに買い与えられた。でも僕が何か欲しがっても、聞き入れられることはほとんどなかった。母ですら、父に遠慮して僕にあまり優しくしてくれることはなかった。
咲真は家族の愛も、将来の地位も、明るくて健やかな性格も全て手にしていた。対する僕は痣があるというだけで一族のお荷物、はみ出し者、厄介者として誰にも相手にされなかった。

ただし、僕の一族に取り入りたい一心で集まってくる大人の中には、長男である僕に胡麻をすっておこうという人間もいた。そういう人間が、僕のためではなく自分の利益のために贈り物をしてくることはよくあった。
でも、そんな物はただ虚しいだけだった。

幼少期のことはあまり覚えていないと言ったが、一つだけ強く記憶に残っていることがある。
あれは4歳くらいの頃だろうか。何があったのかは忘れたが、僕は庭の片隅でうずくまって泣いていた。
そこに、同年代の見知らぬ男の子が現れた。おそらく親戚か、父の仕事関係の人間が連れてきた子どもだと思う。
その男の子は泣いている僕を見て、「大丈夫?」と心配そうに声を掛けてきた。僕は友達もいなかったし、泣いていようが笑っていようが家の者は誰一人気にもとめないのが当然だったので、そんなふうに話しかけられてびっくりした。
目を見開いて男の子を見つめていると、その子はちょっと考えてから走り去った。
そのまま僕がそこにしゃがんでいると、しばらくして男の子が戻ってきた。
手に花を持っていて、それを僕に差し出した。

「これあげる」
「え……くれるの?」
「うん。だから泣かないで」

それだけ言って走り去っていった。
渡されたのは黄白色の銀木犀の枝だった。
僕に何かくれる大人は、決まって僕のことなんて何も考えてもいなかった。
ただ自分の都合で物を押し付けてくるだけだ。だから、に贈り物をしてくれたのはその男の子が初めてだった。
すぐに立ち去ってしまったので、お礼も言えなかったけど嬉しかった。

僕はその記憶だけ、幼少期の綺麗な思い出として大事に胸にしまってある。
銀木犀の花言葉が「初恋」だと知ったのは大人になってからだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

視線の先

茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。 「セーラー服着た写真撮らせて?」 ……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

処理中です...