【完結】僕の匂いだけがわかるイケメン美食家αにおいしく頂かれてしまいそうです

grotta

文字の大きさ
上 下
52 / 62
第七章 フロマージュ

52.編集長のハラスメント

しおりを挟む
 夕希はこの仕事を始めるにあたってオメガであることは隠していなかった。結婚を控えており、基本在宅での仕事になると伝えねばならなかったからだ。なので会社に出向くときも北山から貰った指輪とネックガードは付けたままだった。もちろん、香水もやめた。相手がいるオメガに声を掛けてくるアルファはいないので必要が無いと思っていたのだ。

――まさかベータの編集長が言い寄ってくるなんて。
 彼はいよいよ酔っ払って、スキンシップが激しくなってきた。「君は本当に頑張ってるね、えらいよ」と頭を撫でられ、「これからもよろしくね」と手を握られる。さすがにこれ以上は――とその手を振りほどくと彼は耳元でこう言った。

「ねえ、身体の相性も確かめてみない?」

 夕希はあまりの発言にゾッとした。それでも怒りを抑えて冷静に言い返す。

「編集長、僕婚約しているんですよ。ほら」

 婚約指輪をした手を彼の目の前に突きつける。まさかこれが役に立つことがあるとは思わなかった。しかし彼にとってそんなものは効果がなく、夕希の手を握りしめて更に言う。

「いいじゃない~、人生経験が大事だよ? 俺が色々教えてあげるからちょっとだけ休憩しに行こう?」

――教えるって何をだよ!
 夕希は彼の手を思い切り振り払った。

「やめてください」
「おいおい、今更断れると思ってるの?」

 さっきまでニヤニヤしていた編集長は、冷たい目で夕希を見た。

「君はこの仕事ができないと困るからなんでも言うこと聞くって笹原ちゃんから聞いてるよ? ワケありオメガは大変だよねぇ」
――え? 笹原さんが……なんでそんなことを?

「あ、その怯えた目がいいね。人妻ってパターンは始めてだから興奮するなぁ」
「は……?」
「しかし、こんなおじさんに身体を売らないと仕事もできないなんてオメガって可哀想な生き物だね」

――なんだって?
 彼の手が夕希の膝を撫でた瞬間、我慢の限界に達した。たしかに夕希は結婚後も仕事をしたくて必死だった。だけどこんな男に身体を売ってまで仕事を得たかったわけじゃない。

「何を勘違いしているのか知りませんが、僕はあなたとそんなことするつもりはありません!」
「おい、声がデカいよ。ちょっと落ち着けって」

 編集長が猫なで声で言った。だけど夕希はもう我慢するつもりはなかった。

「帰ります」
「おい! 実力もないのに情けで使ってやったんだぞ。どうなるかわかってるのか?」
「こんなことしないといけないような仕事なら、こちらからお断りです」
「オメガのくせに生意気だぞ! 笹原の言ってた話と違うじゃないか」

 夕希はお釣りがくるくらいのお札をテーブルに置いてお店を出た。
 こんなことして、仕事は台無しだ。だけどそれより大事なことに気がついたのだ。
――僕が間違ってた――。
 仕事を得たくて夢中になって、判断を誤った。隼一が「あの男はだめだ」と編集長のことを言っていたのはこのことだったんだ。
 自分の早とちりな性格が嫌になる。兄が夕希に対して感情の起伏が激しいと言ったのは本当の話だ。普段は優柔不断な割にすぐカッとなって、焦って間違った判断をしてしまう。
――隼一さんは僕を思い通りに操りたいとかそんなんじゃなくて、単に心配してくれてたんだ……なんて馬鹿だったんだ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜

白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。 しかし、1つだけ欠点がある。 彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。 俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。 彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。 どうしたら誤解は解けるんだ…? シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。 書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

処理中です...