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第七章 フロマージュ
51.新しい仕事
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新しい仕事を始めて最初の一ヶ月の試用期間中、夕希はなんとか慣れないなりに言われた仕事をこなしていた。編集長は五十代男性。ライフスタイル誌だということと、名前が塩田安美だと聞いていたので最初は女性なのかと思っていた。しかし、会ってみると小柄で人の良さそうな顎髭のおじさんだった。
基本的に在宅での仕事が多いけど、最初の一ヶ月は覚えることが多いからと、週に二日くらいのペースで会社に出向くように言われていた。
「早瀬くん、飲み込みが早くて助かるよ。もう来週で一ヶ月だけど、このままお願いできるかな?」
「はい! ありがとうございます。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
仕事を続けさせて貰えるのが嬉しくて、夕希は思い切り頭を下げた。塩田編集長はにこにこと笑っていた。
「元気でいいねぇ」
その後、夕希は正式にこのコラムを担当することになった。そこからしばらくは比較的順調にやれていた。北山はあまりいい顔をしてくれなかったけど、そこまで忙しいわけじゃないので諦めて黙認してくれている。
コラムの記事を書く作業は文字数も少ないし隔月誌なのですぐに終わってしまう。なので、その他にウェブメディアのライティングや校正の作業等を頼まれて自宅でできることを行っていた。それも一ヶ月を過ぎて結構慣れてきた実感があった。しかし、こういうときこそ油断からミスをしがちだ。ちょっとした間違いだったけど、夕希のせいで他の社員に迷惑をかけてしまったことがあった。
「本当に申し訳ありませんでした!」
夕希は編集長に頭を下げながら、こうやって謝罪するのは前の職場以来久しぶりだと気がついた。でも、今回の職場では下げた頭に追い打ちで罵声を浴びるということはなかった。
「まあ、まだ始めたばかりだから仕方がないよ。今後気をつけてね」
「はい。本当にご迷惑おかけしました」
「頭上げて。なんとかなったから、ね?」
――よかった、怖い人じゃなくて……。
「そうだ。この件も片付いたからささやかながら歓迎会をかねて明後日の金曜は飲みに行こうか」
失敗したのに飲みに誘ってくれるなんて優しいなと夕希は思った。
◇
飲み会の当日自宅で作業をしていた夕希は、待ち合わせ時刻少し前に指定の場所に着いた。そしてしばらく待っていると、編集長が現れた。
「さあ、行こうか」
「あれ、皆さんは……?」
「今夜は二人でじっくり話そうよ」
てっきり編集部のメンバーで飲みに行くのかと思っていたので少し驚いた。だけど他の社員にはお子さんがいたりして飲みに行けないのだろう。だから夕希は深く考えずにそのまま編集長に着いて行った。
連れて行かれたお店はなぜか横並びで座るタイプのボックス席。仕切りがちゃんとあって、周りからの目隠しになっていた。
――こういう所ってカップル向けなんじゃ……?
しかも、お酒が入ると編集長は恋愛の話ばかりしてくる。夕希は仕事の悩みや相談を聞いてくれるつもりなのかと思っていたので、段々もやもやし始めた。
過去の恋人の数や、経験人数を根掘り葉掘り聞かれて気分が悪くなる。しかも自分が過去はモテて何十人と付き合ったという自慢話までされた。
「オメガの発情ってすごいんでしょ? 俺はベータだからわかんないけど、やっぱりアルファとするのってベータの男と違う? 俺、こう見えて結構精力旺盛なんだけどどう?」
段々話がおかしな方向に進み始めた。
「どうって……そんなのわかりません……」
「え? わからないなら試してみる? なんてね、あっはは」
ニヤニヤしながら至近距離で酒臭い息をかけられて気持ちが悪い。だけど、仕事を始めたばかりで、最近ミスをしてしまった立場としては笑って受け流すしかなかった。
「はは……」
基本的に在宅での仕事が多いけど、最初の一ヶ月は覚えることが多いからと、週に二日くらいのペースで会社に出向くように言われていた。
「早瀬くん、飲み込みが早くて助かるよ。もう来週で一ヶ月だけど、このままお願いできるかな?」
「はい! ありがとうございます。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
仕事を続けさせて貰えるのが嬉しくて、夕希は思い切り頭を下げた。塩田編集長はにこにこと笑っていた。
「元気でいいねぇ」
その後、夕希は正式にこのコラムを担当することになった。そこからしばらくは比較的順調にやれていた。北山はあまりいい顔をしてくれなかったけど、そこまで忙しいわけじゃないので諦めて黙認してくれている。
コラムの記事を書く作業は文字数も少ないし隔月誌なのですぐに終わってしまう。なので、その他にウェブメディアのライティングや校正の作業等を頼まれて自宅でできることを行っていた。それも一ヶ月を過ぎて結構慣れてきた実感があった。しかし、こういうときこそ油断からミスをしがちだ。ちょっとした間違いだったけど、夕希のせいで他の社員に迷惑をかけてしまったことがあった。
「本当に申し訳ありませんでした!」
夕希は編集長に頭を下げながら、こうやって謝罪するのは前の職場以来久しぶりだと気がついた。でも、今回の職場では下げた頭に追い打ちで罵声を浴びるということはなかった。
「まあ、まだ始めたばかりだから仕方がないよ。今後気をつけてね」
「はい。本当にご迷惑おかけしました」
「頭上げて。なんとかなったから、ね?」
――よかった、怖い人じゃなくて……。
「そうだ。この件も片付いたからささやかながら歓迎会をかねて明後日の金曜は飲みに行こうか」
失敗したのに飲みに誘ってくれるなんて優しいなと夕希は思った。
◇
飲み会の当日自宅で作業をしていた夕希は、待ち合わせ時刻少し前に指定の場所に着いた。そしてしばらく待っていると、編集長が現れた。
「さあ、行こうか」
「あれ、皆さんは……?」
「今夜は二人でじっくり話そうよ」
てっきり編集部のメンバーで飲みに行くのかと思っていたので少し驚いた。だけど他の社員にはお子さんがいたりして飲みに行けないのだろう。だから夕希は深く考えずにそのまま編集長に着いて行った。
連れて行かれたお店はなぜか横並びで座るタイプのボックス席。仕切りがちゃんとあって、周りからの目隠しになっていた。
――こういう所ってカップル向けなんじゃ……?
しかも、お酒が入ると編集長は恋愛の話ばかりしてくる。夕希は仕事の悩みや相談を聞いてくれるつもりなのかと思っていたので、段々もやもやし始めた。
過去の恋人の数や、経験人数を根掘り葉掘り聞かれて気分が悪くなる。しかも自分が過去はモテて何十人と付き合ったという自慢話までされた。
「オメガの発情ってすごいんでしょ? 俺はベータだからわかんないけど、やっぱりアルファとするのってベータの男と違う? 俺、こう見えて結構精力旺盛なんだけどどう?」
段々話がおかしな方向に進み始めた。
「どうって……そんなのわかりません……」
「え? わからないなら試してみる? なんてね、あっはは」
ニヤニヤしながら至近距離で酒臭い息をかけられて気持ちが悪い。だけど、仕事を始めたばかりで、最近ミスをしてしまった立場としては笑って受け流すしかなかった。
「はは……」
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