【完結】僕の匂いだけがわかるイケメン美食家αにおいしく頂かれてしまいそうです

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第五章 ヴィアンド

31.スイーツ男子の泥酔

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 預かったお酒の瓶を二人でリビングテーブルに並べ、それぞれ番号を振って一通り飲んでみた。その後順番に飲んで味や匂いの違いをメモしていく。
 それを何周も繰り返しているうちに段々夕希は頭がぼんやりしてきた。

「五番は、六番よりも丸みがある味で、六番の方は香りはツンと尖った爽やかな感じがして……」
「おい、ここは順番逆じゃないか?」
「え!? あ、本当だ! あ~もう、頭がごちゃごちゃ……」

 お菓子やアイスの食べ比べならどんなに大量でも大歓迎なのになぁ、と思いながら夕希は苦手なお酒をちびちびと舐めて香りと味を説明していく。一応隼一も口をつけながら、夕希の言葉をノートにメモしてくれた。

「夕希、ちょっと休憩しよう。顔が真っ赤だ」
「ええ? そんなに飲んでないんですけどねぇ……舐めてるだけだし」

 彼に指摘されて頬を手で撫でるとたしかにちょっと熱い。

「日本酒は飲みやすいから慣れてないとすぐ酔っ払うんだ。度数が結構あるから、油断すると危ないぞ」
「え~、隼一さんって心配性ですね?」

 夕希が頬杖をついたまま上目遣いに見ると、彼はちょっと困ったように眉をひそめた。

「そんなことはない、普通だ」
「だってぇ、テレビで見ると怖そうなのに、僕のこといーっつも心配してくれるじゃないですかぁ?」
「あのなぁ、君ちょっと水を飲んで頭を冷やせよ」

 水の入ったグラスを渡されて仕方なく飲む。勢いよくグラスを傾けたから、水が口の端から溢れてしまった。

「わぁっ」
「おい……何してるんだ、仕方ないな」

 隼一がタオルを持ってきて口元を拭いてくれる。首筋を伝ってシャツが濡れたので、ボタンを外そうとするけどそれがうまくいかない。

「ん~? できないぞ……」

 酔っ払って指先がちゃんと思うように動かない。夕希がいらいらしながら苦戦しているのを見た隼一が代わってくれる。

「まったく。子どもじゃないんだからしっかりしてくれ」

 彼はシャツのボタンを外して胸の辺りまで濡れた肌をタオルで拭いてくれる。ごしごし擦られたせいで胸の先端にタオルが当たって変な声が出た。

「んっ」
「ごめん、痛かった?」

 手を止めた隼一が夕希の顔を見た。優しいし良い匂いするしやっぱり好きだなぁと思って見つめ返したら彼が目をそらした。

「あー、服結構濡れてるな。着替え持ってくる」

 そう言って立ち上がりかけた彼の手を夕希は掴んだ。

「ねぇ、隼一さん。隼一さんて誰に対してもこんなに優しいんですか?」
「おい、大丈夫か? 目が座ってるぞ」
「ねぇねぇ、なんで答えないの? 僕にするみたいに、誰にでも腕枕しちゃうんですか?」
「なにを……くだらないことを聞くな」

 彼がため息をつく。はっきり答えないのが答えということだろうか。夕希はなんだか面白くなくて、目の前の空いたグラスに、八番の酒をなみなみと注いだ。

「あ、おい! こぼれたじゃないか。しかも次は七番だろう」
「え? 僕七番入れましたよ?」
「違う、八番だった」

 なんだか無性に腹が立って夕希は歯向かった。

「僕が間違ってるって言うんですか? オメガだから、アルファより記憶が劣っていると?」
「はぁ? いい加減にしろ。もういい、これじゃ仕事にならないからシャワーを浴びて頭をすっきりさせて来てくれ」
「なっ――」

 急に突き放され、普段とは違う厳しい口調で命令されて夕希は急に不安になった。

「怒ってるの……?」
「怒ってない。君がそんな態度だから――いや、いいから早く行きなさい」
「やっぱり怒ってる。ごめんなさい、謝るから怒らないで」
「夕希? どうしたんだ。別に怒ってなんて……」

 不安な気持ちで胸がどす黒く塗りつぶされたのと同時に、耳鳴りがした。視界がグラグラと揺れて、彼の顔が歪む。
――僕に早くどこかへ行けって言った。高校あのの時と同じだ。僕は邪魔な存在なんだ。隼一さんにも嫌われる? 彼に嫌われたら、僕は――。
 夕希は喉から声を絞り出した。

「僕に転校しろって言うの……?」
「なんだって? 転校って何の話だ?」
「……僕を騙したんだ……」
「夕希、落ち着け。おい、大丈夫か?」
「アルファはオメガのことなんて人間だと思ってない」

 夕希は両手で顔を覆った。目の前にいるのが高校の同級生ではないとわかっているのに頭が混乱して自分でも何を言っているのかわからなくなっていた。

「くそ、飲ませすぎた。吐きそうか? 待ってろ、今ゴミ箱持ってくるから」
「ち、ちが……違う。行かないで、僕から離れないで……」
「何?」

 彼が自分の傍から離れようとするのがどうしても我慢ならない。全身悪寒が走るみたいにぞくぞくして、自分で身体を支えていられなかった。隼一の腕にすがる。

「僕のこと嫌いじゃないなら抱きしめて」
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