【完結】僕の匂いだけがわかるイケメン美食家αにおいしく頂かれてしまいそうです

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第四章 ソルベ

30.急ぎの仕事

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 着替えを終えて部屋を出ようとしたら、隼一と笹原の声が聞こえてきた。用事が終わって彼女は帰るらしく、玄関に向かっているようだ。

「早朝に申し訳ありませんでした。しかも、こんな面倒なことになってしまって……」
「仕方ないよ。なんとかするから」
「ありがとうございます。昨夜お電話したんですが連絡がつかなかったものですから」
「あー、ごめんごめん。腕枕してたからスマホを取りに行けなくてね。そのまま俺も眠ってた」

 ドアノブに手を掛けてもう開けようかというときに隼一の発言を聞いて思いとどまった。腕枕って、なんでそういう余計なこと言うんだ。これじゃ出ていけないじゃないか。

「やだ、私ったらお邪魔してしまって! それじゃあごゆっくり……じゃないですね。せっかく恋人とおくつろぎのところ仕事を持ち込んで恐縮ですが、何卒よろしくお願いします」
「ああ。出来たらすぐにメールするから」
「あの、もしお手伝いできそうなら、私も残りましょうか?」
「いや結構だ。二人きりで過ごしたいんでね」
「そうですよね! 度々失礼致しました。それじゃあ、メールお待ちしております!」

 そして玄関のドアが閉まる音がした。夕希はホッとして部屋から出た。すると隼一が着替えを済ませた夕希の姿を見て「せっかく二度寝しようと思ったのに」とがっかりした声を出した。

「笹原さん、何の用だったんですか? こんな早い時間に」
「急ぎの仕事だ。あっちで説明するよ」

 それにしても、内側から鍵を開けなかったのに彼女が入ってきたということは――。

「笹原さん、ここの鍵持ってるんですね」
「え? ああ。原稿を出したつもりでそのまま海外に出掛けて連絡が取れなくなってしまったことがあってね。それ以来何かあったら勝手に入ってくれって鍵を渡してあるんだ。使われたのは今回が初めてだけどね」

 リビングルームのテーブルの上には大きな紙袋が二つ置いてあった。

「これは?」
「これが今回の仕事」
「なんなんですか?」

 袋を覗いてみると、ガラスの瓶がたくさん入っている。

「日本酒だよ。飲み比べの記事の依頼なんだ」
「え、こんなに……?」

 小さめの瓶だけど、全部で十五本くらいある。

「隼一さん、日本酒も詳しいんですか?」
「いや、正直そこまででもない。ワイン以外は普通に食事に合わせて飲む程度だな。だけど、どうしても俺に頼みたいって先方の要望でね」
「そうですか。でも、どうしてこんな朝早くに?」
「それがこの記事の締切、明日の夜までなんだ」
「ええっ! 明日!?」

――こんなに量があるのに、明日までに全部飲んでしかも記事も書き上げないといけないの?

「先方に提出するのは月曜まで。だけど、笹原さんに校正してもらって直す所は直さないといけないからね」
「それにしてもなんでこんなにギリギリに?」
「彼女、この仕事は他の兼ね合いで締切が厳しそうだから断わるつもりだったらしいんだ。だけど、どうも忙しくて連絡し忘れていたみたいでね」

 先方は先方で、隼一の記事を掲載するつもりでいたから今更他の記事で埋めることもできないと主張しているそうだ。

「それじゃあ二度寝どころじゃないじゃないですか!」
「焦っても仕方ないだろ? しかも君は体調が悪いから無理させられないし」
「何言ってるんです。匂いがわからなかったら飲み比べなんて不可能でしょう。僕がやらなくてどうするんです?」
「しかし――」
「僕の体調ならもうすっかり良くなりましたから、大丈夫です」

 よかった。もし発情期が来ていたら頭痛で日本酒飲み比べなんて出来ないところだった。

「さっそくやりましょうよ」
「いや、待てよ。君は昨夜から何も食べてないだろ。空腹にお酒を流し込むのはまずい」
「あ……そういえば、お腹空きました」
 
 二人は近所のベーカリーカフェで朝食を食べ、日本酒の飲み比べに取り掛かった。
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