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第三章 ポワソン

24.SNSのアカウントが婚約者にバレる

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 それから数日後、金曜日に夕希はいつもどおり隼一の迎えを待っていた。その間にSNSを開いてみて、ダイレクトメッセージが届いている事に気づいた。まさかアンチコメントの人からだろうかと身構えたが、知らないアカウント名からで少しホッとする。しかし、内容を読んでみて別の意味で夕希は青ざめた。

『こんにちは。北山友宏です。早瀬夕希くんのアカウントだよね? このアプリで君のことをたまたま見つけたのでフォローしました。フォローバックお願いね。ところで、僕以外の男性と随分頻繁に食事に行っているようだね。遊び過ぎは心配だな。君は僕の婚約者なんだということをもっと自覚して欲しいです。ネックガードは使ってくれているかな? 早く会いたいです。』

 まさかこのアカウントが北山に見つかるとは思いもしなかった。
 面倒なことになった、と夕希は頭を抱えた。結婚を控えた身で別のアルファ男性と二人で食事するどころか、その男性の自宅に入り浸っていることが知れたらただでは済まないだろう。たとえ夕希と隼一の間に仕事以上の関係が無かったとしても、事前にネックガードを送りつけてくるような相手が許すとは思えない。
 どうしたらよいかと思案しながら自分の投稿した画像を見ると、またアンチコメントが付いていた。

「こっちもしつこいな……」

 しかも今回は、頭文字ではなくちゃんと「鷲尾隼一」と名前まで書かれていた。

『前のコメント消したのは図星だから? パパ活オメガはとっとと消えろ。鷲尾隼一のイメージが悪くなる』

――この人、なんで僕がオメガだと決めつけてるんだ?
 そこでふと夕希の頭をある考えがよぎった。
――まさか、北山さん……?
 彼なら夕希がオメガだと知っている。それに、さっきのメッセージで他の男と食事してることを指摘されたばかりだ。 

「まさかね……」

 犯人が誰にせよ、名前を出された以上隼一にこの件を黙っていることはできない。一旦削除するのは思い留まって、彼の迎えを待った。耳慣れたエンジン音が聞こえて、すぐに黒いスポーツカーが姿を現す。夕希は助手席に乗り込んだ。

「こんばんは。いつも迎えに来てもらってすみません」
「気にしないで。お腹は空いてる?」
「えっと……」

 SNSに気を取られていて、あまり空腹を感じていなかった夕希は返答に詰まった。それを見逃さず隼一はいぶかしげな顔をした。

「どうした? 顔色も悪いね。何かあった?」
「実は……」

 夕希はこれまでの経緯を一通り全て隼一に話した。すると彼はフロントガラスを睨みながら、低く唸った。

「うーん、そうか。そんなことを言う人がいるんだ」
「はい。僕もちょっとびっくりしてます」
「元々俺のアカウントにもたまに変な人は現れたりするんだけどね。でも、俺のことに関して君のアカウントに嫌がらせのメッセージが来るのは許せないな」

 隼一は眉間にシワを寄せた。しかし何かを思いついたように表情を和らげた。

「そうだ。いっそのこと『俺たち恋人です』って言ってやろうか」
「え?」
「隠されてるから気になるんだ。『俺たち付き合ってます。お相手は一般のベータの方なのでそっとしておいて下さい!』とでも言っておけば騒がれたりもしないだろう」

 確かにそれは一理あるけど、そんなことをしたら北山に何を言われるかわからない。夕希は慌てた。

「えっと、それが実はそうもいかなくて……」
「どうして?」

 北山とのことは知られたくなかったので、それを伏せて説明する。

「会社の同僚もこのアカウントを見ているんです。なので隼一さんと付き合っているっていうのはちょっと……」
「そう? なんだ、つまらないな。俺としては嘘がそのまま本当になったらいいなって思ったんだけどね」
「え?」
 隼一は楽しげな様子でこちらをちらっと見た。夕希は視線をそらす。

「ひとまずこの相手はブロックします」
「そうだな。この一人だけなんだろう?」
「今のところは……」
「俺としてはつまらないけど、それじゃブロックで対応してくれ」

 しかしこのアカウントをブロックしても、また別の捨てアカウントで同じ嫌がらせが繰り返された。
 その都度コメントを消し、相手をブロックしたけれど段々そのコメントを見た別の人からも反応が出始めるようになってしまった。
 夕希が一緒に食事している相手が鷲尾隼一であると気づいた彼のファンが大勢コメントしてくるようになり、夕希は自分のアカウント削除を余儀なくされたのだった。 
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