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67.国王夫妻の帰還(2)

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その後エミールも含めて関係者たちに話を聞いた。グエルブの方はヨエルと宰相の狼獣人オリヴァーがイデオンの代わりに事後処理を行ってくれていた。そして衛兵の処分が終わるまでの間、エミールたちに城の護衛を頼んでいたそうだ。

彼らの報告によると、マリアーノを拘束した翌日にエミール率いるデーア大公国軍がグエルブ城を包囲。一時的に衛兵(とは名ばかりの、ヴァレンティ男爵の息がかかった過激派組織)とデーア大公国軍で睨み合いの状態になった。

しかしマリアーノが捕らえられて催眠術が解けてしまうと、衛兵の半分ほどは正気を取り戻した。過激派組織に本音で心酔している者も一部いることはいたが、大半は暗示にかけられていただけだった。なので2日とかからずほとんどの衛兵が戦意を喪失して城はすぐに明け渡された。

エミールが城に出入りするようになると、ミカルが彼を気に入ってよく話しかけるようになったそうだ。エミールはあちこちの国を旅していて、話題が豊富なうえに子どもの扱いが上手かった。それでミカルはこの状況の中でも明るさを取り戻し、兄とサーシャを待つ間不安になることもなく過ごせていたそうだ。

「ミカルくん、よかったですね。以前よりすっかり元気になったみたい」
「ああ本当だな。大変な目には遭ったが、結果的にお前も帰って来られたしミカルも元気になれてよかった」

サーシャはそこで気になっていたことをヨエルに尋ねた。

「それでさ、マリアーノはどうなったの?」

マリアーノは個人的にはグエルブ王国を乗っ取ることに興味がなかった。そのためこうなった以上はもう抵抗する気にはならなかったようだ。早々に降参の意思を示し、伯父に事態を報告することもなかった。
エミールが言う。

「グスタフ殿下のお考えでは、マリアーノはヴァレンティ男爵と一緒に建設作業員へ弟子入りをさせるのがよいのではないかと」

サーシャはびっくりして聞き返す。

「ええっ? それってまさか、あのヒグマ獣人やヘラジカ獣人の弟子になるってこと……?」
「はい。彼らは上下関係が厳しいですし、真面目に働かせて反省させるのが良いだろうと」
「なるほど……」
「昔一族を追放処分にした結果このような事態になりましたので、近くで厳しい監視下に置くべきだと僕も思います」

これを聞いたイデオンが笑い声を上げた。

「ははっ! それは傑作だな。ずるばかりしてきたあの呪い師一族は肉体労働で精神を鍛え直す必要がある。そうしようじゃないか」

マリアーノは絶対に嫌がるだろうと思ったが、意外にもあっさり処分を受け入れたそうだ。むしろ伯父を説得しようと「伯父様だってサーシャに相手にされなくて寂しかったんでしょう? お友達がたくさんできたと思って一緒にがんばりましょうよ」なんて言っているらしくてサーシャも驚いた。

その後マリアーノの指導者になったヒグマ獣人から聞いたところによると、彼は母親に愛されず伯父だけが頼りだったと話していたそうだ。それで悪事に加担させられていたのだとしたら、結構可哀想な生い立ちなのかもしれない。マリアーノは今はヒグマ獣人の言うことをよく聞いて技術を磨いているのだそうだ。

「あいつは体力はこれっぽっちもありませんが、手先は器用ですぜ」とヒグマ獣人が褒めていた。



サーシャはというと、ヴァレンティ男爵にかけられた妙な催眠術のせいで一旦記憶があやふやになったものの、最終的にむしろサーシャの子どもの頃の記憶を取り戻していた。
前世のミノルとしての記憶も残っているので、まるで二人分の記憶が合体して一つになったみたいだ。

「それにしても子どもの頃にイデオン様と出会ってたなんて、運命ってやつなんだべかね?」

サーシャの部屋に訪れたイデオンと共に蜂蜜酒を飲みながらサーシャはしみじみとつぶやいた。

「運命に決まっている。俺はお前のことを守る定めなんだ」
「なんか……そう言われるとちょっと照れるかも……」

嫁いできてすぐのときはとても冷たくてそっけなかったのに、ヴァレンティ男爵の屋敷から帰って来たらイデオンはすっかり優しくなっていた。

「イデオン様、優しすぎて変な感じするなぁ。また変な呪いにかかってるわけでないべね?」
「そんなわけがないだろう。――優しくされるのが嫌なのか?」

イデオンが耳をピクピクさせている。
こちらの反応を聞き漏らすまいと必死になっているのがわかってちょっと可愛いと思ってしまう。

「嫌なわけないべさ」

サーシャは首を傾げてイデオンを見上げた。彼の青い瞳と視線がぶつかる。

「じゃあ、このあとはベッドでもっと優しくするというのはどうだ――嫌か?」

サーシャはグラスをテーブルに置いてイデオンの首に腕を掛けた。

「もちろん、嫌じゃない……」
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