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59.弟と共に立ち上がる雪豹王(2)
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「マリアーノわるいひとなの。だからおねがいお兄さま、マリアーノと結婚しないで。サーシャをおむかえに行こう?」
ミカルがそう言ってイデオンに抱きついてきた。
(ずっとしゃべることも触れられることも拒否していたミカルが、サーシャのために必死になって――)
イデオンは幼い弟の頭をそっと撫でる。白い毛に覆われた耳が兄の返事を待って震えていた。
「ミカル顔を上げてくれ。大丈夫だ、俺はマリアーノを妻にするつもりなどない。サーシャを助け出して、またここで皆と一緒に暮らそう」
「ほんと……?」
ミカルは大きな琥珀色の瞳でこちらを見上げた。
「本当だ。それでお前に聞きたいのだが、これはいつどこで手に入れた?」
イデオンは鹿の角のペンダントをミカルに示す。
「これ、3日前にヨエルがお部屋にもってきてくれたの。マリアーノがいてなかなか持ってこられなくて……」
「そうかヨエルは無事なんだな! 3日前か……。ならばまたすぐに手紙を持って来てくれるかもしれぬ。ミカル、くれぐれもこのことは誰にも知られぬようにな」
「はい、お兄さま」
ミカルはマリアーノとよく話をしているというイタチ獣人のことも教えてくれた。おそらくそのイタチがヴァレンティ男爵との連絡役を果たしているのだろう。
(ミカルのお陰で勝機がみえてきたぞ……!)
◇
後日ミカルはヨエルからの手紙と一緒に、チョコレートの箱を受け取ってイデオンの元へ持ってきた。
「これは……?」
「ヨエルが、これをマリアーノにって」
「これをマリアーノに?」
「うん。中に眠くなるおくすりが入ってるの」
ミカルが鹿角のペンダントから手紙を渡してくれた。そこにはヨエルの字でこう書かれていた。
『デーア大公国からの援軍来たれり。
マリアーノを薬で眠らせ、その間に動かれたし。
明日の日没頃、マリアーノ捕獲のため我王宮に馳せ参じ候』
「そうか……これを明日マリアーノに食べさせて眠らせるということだな。マリアーノさえ黙らせれば、ヴァレンティ男爵への報告もしばらく遅らせることができる。その間に俺はサーシャを助けに行こう」
「お兄さま、ミカルもサーシャをおむかえに行きたい」
「だめだ。お前は危ないからヨエルと一緒に待っていてくれ」
「でも……」
不満そうな表情を見せるミカルの顔をイデオンは覗き込んだ。
「それよりもお前には大事なことを頼みたいんだ」
「なあに?」
「俺がチョコレートをマリアーノに渡そうとすればきっと怪しまれる。そこでお前からこのチョコレートをマリアーノへ渡してほしいんだ。できるか?」
「……できる!」
ミカルは自分が大事な役目を任されたので目を輝かせた。
「危ないから、くれぐれも気をつけるんだぞ」
「はい、お兄さま!」
ミカルがそう言ってイデオンに抱きついてきた。
(ずっとしゃべることも触れられることも拒否していたミカルが、サーシャのために必死になって――)
イデオンは幼い弟の頭をそっと撫でる。白い毛に覆われた耳が兄の返事を待って震えていた。
「ミカル顔を上げてくれ。大丈夫だ、俺はマリアーノを妻にするつもりなどない。サーシャを助け出して、またここで皆と一緒に暮らそう」
「ほんと……?」
ミカルは大きな琥珀色の瞳でこちらを見上げた。
「本当だ。それでお前に聞きたいのだが、これはいつどこで手に入れた?」
イデオンは鹿の角のペンダントをミカルに示す。
「これ、3日前にヨエルがお部屋にもってきてくれたの。マリアーノがいてなかなか持ってこられなくて……」
「そうかヨエルは無事なんだな! 3日前か……。ならばまたすぐに手紙を持って来てくれるかもしれぬ。ミカル、くれぐれもこのことは誰にも知られぬようにな」
「はい、お兄さま」
ミカルはマリアーノとよく話をしているというイタチ獣人のことも教えてくれた。おそらくそのイタチがヴァレンティ男爵との連絡役を果たしているのだろう。
(ミカルのお陰で勝機がみえてきたぞ……!)
◇
後日ミカルはヨエルからの手紙と一緒に、チョコレートの箱を受け取ってイデオンの元へ持ってきた。
「これは……?」
「ヨエルが、これをマリアーノにって」
「これをマリアーノに?」
「うん。中に眠くなるおくすりが入ってるの」
ミカルが鹿角のペンダントから手紙を渡してくれた。そこにはヨエルの字でこう書かれていた。
『デーア大公国からの援軍来たれり。
マリアーノを薬で眠らせ、その間に動かれたし。
明日の日没頃、マリアーノ捕獲のため我王宮に馳せ参じ候』
「そうか……これを明日マリアーノに食べさせて眠らせるということだな。マリアーノさえ黙らせれば、ヴァレンティ男爵への報告もしばらく遅らせることができる。その間に俺はサーシャを助けに行こう」
「お兄さま、ミカルもサーシャをおむかえに行きたい」
「だめだ。お前は危ないからヨエルと一緒に待っていてくれ」
「でも……」
不満そうな表情を見せるミカルの顔をイデオンは覗き込んだ。
「それよりもお前には大事なことを頼みたいんだ」
「なあに?」
「俺がチョコレートをマリアーノに渡そうとすればきっと怪しまれる。そこでお前からこのチョコレートをマリアーノへ渡してほしいんだ。できるか?」
「……できる!」
ミカルは自分が大事な役目を任されたので目を輝かせた。
「危ないから、くれぐれも気をつけるんだぞ」
「はい、お兄さま!」
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