【完結】転生花嫁と雪豹α王の人質婚〜北海道民の記憶持ちΩは寒さに強くてもふもふ好き〜

grotta

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50.マリアーノの要求(2)

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先ほどダンスパーティーでサーシャにウィンクしていた虎獣人のフーゴ。彼は年の近い友人の一人で、その父親は衛兵隊の幹部だ。

(上層部まで既に向こうの手の内ということか……)

「試しにあなたの衛兵を呼んでみてはいかがです? 駆けつけてくれるかどうか」
「……おい! 誰か! 誰かいないのか!?」

イデオンが大声をあげたのに、辺りはしんとしたままで誰一人やってこなかった。国王の呼びかけに誰も応じないなどということは平時には絶対ありえないことだ。

(くそ……ヨエルはどうした? さっきはミカルのところにいて――そうだ、今夜はデーア大公国の特使に伝言を頼んだから城内にはいないのか)

「ほら、言ったでしょ。だーれも来てくれませんね」
「こんなばかなことが……。大体どうやって貴様はサーシャと入れ替わった? さっきまで匂いも見た目もたしかにサーシャだったのに――」

(この俺がサーシャの匂いを間違うはずがない。こいつは奇術師か何かなのか?)

「あはは、最初はうまく騙されてくれましたよね。これならいけるって思ったんだけど、サーシャが口紅を拭いてしまったせいか催眠術のかかり方が微妙だったなぁ。途中で解けちゃいました」
「催眠術……? 口紅……?」
「サーシャに塗った口紅には、僕の暗示がかかりやすくなる薬が混ぜてあったんです。それとサーシャの唾液からフェロモンを拝借して本物そっくりになりきってました」
「なりきるだと? そんなことができるわけが――」
「この部屋には意識を混濁させ鼻をダメにする香を焚きしめてあるんです――それも獣人に効果てきめんのやつをね。人間相手ならここまでしなくていいんだけど、獣人は鼻がきくから下準備が大変で」

マリアーノはこちらに笑みを向ける。

「あなたはまだ気づいてないみたいですけど、僕は人間じゃないんですよ」
「人間じゃない――だと?」

予想外のことばかり言われてイデオンは動揺を隠せなかった。これまで全て順調だと思っていたのに、マリアーノにこうまで足をすくわれるとは――。

「僕も伯父も、爬虫類の一族なんです」
「貴様が……爬虫類だと?」
「はい。僕たち爬虫類なので得意なんですよ、他人に擬態するのが」

マリアーノが人間にはありえない長さの舌を出して見せる。

(――それで俺はこいつのことをサーシャだと思い込まされていたのか)

マリアーノのことを人間だと思っていたから完全に油断していた。

「聞いたことありあません? 元々は僕たちの一族はこの国であなた達獣人と一緒に暮らしていたんですよ」

当然ながらイデオンもグエルブ王国の歴史として伝え聞いていた。

(それがマリアーノの一族だというのか……)

そこでようやくイデオンはあることに気が付いた。
昨年両親を暗殺した首謀者は人間ではない可能性が高いとデーア大公国から報告を受けていた。しかしイデオンは獣人の仕業だとはどうしても思えず、その証拠を隣国から手に入れてもらおうとしていたところだった。

(犯人は人間でも獣人でもない――つまり爬虫類の一族ということか。マリアーノの伯父が両親を殺めた犯人で、しかも今サーシャをさらおうとしている――?)

イデオンの呆然とした表情を見たマリアーノが嬉しそうに言う。

「あ、ようやくピンと来たようですね。そうです。あなたのご両親の暗殺も、全て伯父の企てたことですよ」

イデオンは歯を食いしばった。全身が怒りで震え、抑えようとすればするほど喉がグルグルと音をたてる。

「待ってくださいよ。僕に当たらないでくださいね。やったのは伯父です。僕は好きでこんなところに来たんじゃない。寒いのは苦手だし、本当は獣人のお妃になんてなりたいわけじゃないからね」
「じゃあ、なんだと言うんだ」
「伯父のためですよ。伯父は一族代々の恨みを晴らしたいみたいです」
「――恨みだと?」
「はい。昔あなたたち雪豹の王族にこの地を追放された恨みです。僕があなたとの子を産んで、その子が王位継承者になる。そうすれば僕たち爬虫類一族がこの国の王族の血を共に受け継ぐことになるわけです」

どうやら過激派組織の目的は人間との同盟反対だけではなかったようだ。裏では爬虫類一族と繋がっていた――。

(サーシャが人間の花嫁だから不満だったんじゃない。そもそも過激派組織は我がヘレニウス王家の転覆と乗っ取りが目的で動いていたのか――)

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