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48.甘く香る罠(2)
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イデオンとの口づけの合間にサーシャは言う。
「……ん……はぁ、イデオン様。後ろは準備しましたからもう……挿れてください」
「何? 自分で後ろをいじったのか」
恥ずかしそうに頷く妻に少々驚きながらイデオンは手で後孔を探る。確かにそこは濡れており、ほぐした形跡があった。これくらいゆるんでいれば、今夜は無理なく入るかもしれない。
「あの、恥ずかしいので後ろからしてください」
「――そうか?」
イデオンはなぜか少し違和感を覚えた。
(夜は長い。なぜこんなに焦ってことを進めようとするんだ? いや――俺が今まで散々焦らしたせいか……)
「イデオン様?」
「なんでもない」
サーシャが不思議そうに見つめてくるのでイデオンは頭を振る。どうも頭にもやがかかっているようで、すっきりしない。
(俺はいつからこんなに酔いやすくなったんだ……?)
妙に鼓動も速く、息苦しさもある。
さっきはコンサバトリーで偉そうなことを言ったのに、いざとなったら酔っ払ってできないなどとは言えない。
オメガのフェロモンによってアルファの本能が過剰に刺激されているのだろうと思い、イデオンはそのままサーシャの体をうつ伏せにした。
(いや、待て。何かおかしい――だめだ。今夜は……)
「挿れてください。イデオン様……」
「サーシャ、今日は――」
「お願いです。イデオン様」
サーシャの催促する声が頭に反響する。
(めまいが酷い――……どうなっているんだ?)
イデオンは頭を振った。マントを引き剥がしてサーシャの腰を掴み、猛り立ったものを局部に押し付ける。
(いや、挿れてはだめだ――このまま続ければ誤ってサーシャの体を傷つけかねない)
イデオンは自らの性器をサーシャの尻から離した。
「え、イデオン様? そこで良いのですよ、陛下!」
(一度このもやもやから抜け出さなければ――)
「イデオン様お願いです。ではせめて噛んでください、うなじを――」
サーシャが手で襟足の髪を避けた。妻の背中に覆いかぶさり欲望に耐えるイデオンの目の前には、彼のうなじが無防備に晒されていた。反射的にイデオンは牙を剥く。
(このうなじを噛めばサーシャとつがいに……)
口を大きく開いたまま、イデオンは歯を立てる寸前ぴたりと固まった。
(待て。サーシャの肌はこんな色だったか? それにこの香りは……サーシャのライラックの香りで間違いない。しかし、何か奇妙な匂いが混じっていないか?)
イデオンの青い瞳が揺れた。
「噛んで、イデオン様!」
イデオンはグルゥ……と獣のように喉の奥で唸った。本能では噛みたい。しかし自分の中に戻ってきた理性が警鐘を鳴らしている。噛むべきではない――と。
するとイデオンの下でうなじを見せつけていたサーシャが「チッ」と舌打ちした。そしてイデオンの頭を後ろ手に掴むと、無理矢理自分のうなじに牙を押し付けた。
(何をするんだ――!?)
イデオンは咄嗟に身を引いたが、勢いで鋭い牙が少しサーシャのうなじをかすめた。その部分から血がにじんでくる。
「イデオン様、もっと深く噛んで。ほら、早く!」
髪の毛を鷲掴みされ、ぐいぐいうなじに顔を押し付けられた。
「サーシャやめろ……いや、本当にサーシャなのか? お前は――誰なんだ?」
(――サーシャがこんな乱暴な真似をするはずがない)
目の前にいるのがサーシャではないと思い至った瞬間、さっきまで薄くもやがかかっていた視界が急にひらけてくる。極度の酩酊状態からイデオンの頭はクリアになった。
意識がはっきりしたイデオンにとって華奢な相手をねじ伏せるのは造作もないこと。細い手を引き剥がし、体を仰向けにひっくり返す。そして改めてその顔を見てイデオンは息を呑んだ。
「――貴様はマリアーノ……!?」
「……ん……はぁ、イデオン様。後ろは準備しましたからもう……挿れてください」
「何? 自分で後ろをいじったのか」
恥ずかしそうに頷く妻に少々驚きながらイデオンは手で後孔を探る。確かにそこは濡れており、ほぐした形跡があった。これくらいゆるんでいれば、今夜は無理なく入るかもしれない。
「あの、恥ずかしいので後ろからしてください」
「――そうか?」
イデオンはなぜか少し違和感を覚えた。
(夜は長い。なぜこんなに焦ってことを進めようとするんだ? いや――俺が今まで散々焦らしたせいか……)
「イデオン様?」
「なんでもない」
サーシャが不思議そうに見つめてくるのでイデオンは頭を振る。どうも頭にもやがかかっているようで、すっきりしない。
(俺はいつからこんなに酔いやすくなったんだ……?)
妙に鼓動も速く、息苦しさもある。
さっきはコンサバトリーで偉そうなことを言ったのに、いざとなったら酔っ払ってできないなどとは言えない。
オメガのフェロモンによってアルファの本能が過剰に刺激されているのだろうと思い、イデオンはそのままサーシャの体をうつ伏せにした。
(いや、待て。何かおかしい――だめだ。今夜は……)
「挿れてください。イデオン様……」
「サーシャ、今日は――」
「お願いです。イデオン様」
サーシャの催促する声が頭に反響する。
(めまいが酷い――……どうなっているんだ?)
イデオンは頭を振った。マントを引き剥がしてサーシャの腰を掴み、猛り立ったものを局部に押し付ける。
(いや、挿れてはだめだ――このまま続ければ誤ってサーシャの体を傷つけかねない)
イデオンは自らの性器をサーシャの尻から離した。
「え、イデオン様? そこで良いのですよ、陛下!」
(一度このもやもやから抜け出さなければ――)
「イデオン様お願いです。ではせめて噛んでください、うなじを――」
サーシャが手で襟足の髪を避けた。妻の背中に覆いかぶさり欲望に耐えるイデオンの目の前には、彼のうなじが無防備に晒されていた。反射的にイデオンは牙を剥く。
(このうなじを噛めばサーシャとつがいに……)
口を大きく開いたまま、イデオンは歯を立てる寸前ぴたりと固まった。
(待て。サーシャの肌はこんな色だったか? それにこの香りは……サーシャのライラックの香りで間違いない。しかし、何か奇妙な匂いが混じっていないか?)
イデオンの青い瞳が揺れた。
「噛んで、イデオン様!」
イデオンはグルゥ……と獣のように喉の奥で唸った。本能では噛みたい。しかし自分の中に戻ってきた理性が警鐘を鳴らしている。噛むべきではない――と。
するとイデオンの下でうなじを見せつけていたサーシャが「チッ」と舌打ちした。そしてイデオンの頭を後ろ手に掴むと、無理矢理自分のうなじに牙を押し付けた。
(何をするんだ――!?)
イデオンは咄嗟に身を引いたが、勢いで鋭い牙が少しサーシャのうなじをかすめた。その部分から血がにじんでくる。
「イデオン様、もっと深く噛んで。ほら、早く!」
髪の毛を鷲掴みされ、ぐいぐいうなじに顔を押し付けられた。
「サーシャやめろ……いや、本当にサーシャなのか? お前は――誰なんだ?」
(――サーシャがこんな乱暴な真似をするはずがない)
目の前にいるのがサーシャではないと思い至った瞬間、さっきまで薄くもやがかかっていた視界が急にひらけてくる。極度の酩酊状態からイデオンの頭はクリアになった。
意識がはっきりしたイデオンにとって華奢な相手をねじ伏せるのは造作もないこと。細い手を引き剥がし、体を仰向けにひっくり返す。そして改めてその顔を見てイデオンは息を呑んだ。
「――貴様はマリアーノ……!?」
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