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47.甘く香る罠(1)

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パーティーの後、ドローイング・ルームにはイデオンの友人たちが集まって酒を飲んでいた。
しかしイデオンはそちらへは顔を出さずそのまま自室に戻る。この後の予定に備えて身軽な服装に着替えた。
そして部屋を出る直前、どうにも落ち着かない気分だったので蜂蜜酒を一杯飲んだ。

サーシャの部屋へ行く前にミカルの部屋に寄ると、ヨエルがベッドのそばに膝をついて幼い弟を寝かしつけているところだった。
もう眠りかけていたようで、こちらに気づいたヨエルが無言で人差し指を口に当てた。イデオンは足音を立てぬように近づき、弟の穏やかな寝顔を見下ろした。まだ会話はできないままだが、サーシャがいるときであればミカルは笑顔を見せるようにもなっていた。
イデオンはヨエルに目配せして静かに部屋を出る。

(満足そうな顔だった――ミカルも今年はお菓子集めを楽しめたようだな)

昨年両親が亡くなって崩れてしまったもの――失ったものは大きかった。しかしそれらをようやく取り戻しつつあった。国民の平穏な日常、そして弟の笑顔。その上これからサーシャというつがいを得ようとしている――。全てが上手くいきそうでイデオンは意気揚々と廊下を突き進んだ。



サーシャの部屋のドアをノックして扉を開く。中に入ると、室内には甘い香りが漂っていた。蜂蜜酒と、それからサーシャのフェロモン香――。イデオンがその香りを胸に吸い込むと、快楽の予感に背筋が痺れて軽くめまいがした。

(――早々に酒が回ったか?)

「サーシャ、待たせたな」
「イデオン様……どうぞこちらへ」

天蓋付きのベッドのカーテン越しにサーシャの華奢なシルエットが見える。いつものように先にソファで酒を飲もうと言うつもりはないようだ。

「今夜はもう寝台に上がっているのか」
「ええ、緊張して先にお酒を飲んだものですから――」

カーテンをめくると、サーシャはいつものマントを羽織ってうつむいている。イデオンがフードを脱がせようとするとサーシャがそれを手で制した。

「あの、恥ずかしいからこのまま……」

(可愛いことを言う奴だ)

「わかった」

カーテンを開けてサーシャに近づくとより一層ライラックの香りが濃くなる。目の前はフェロモンのせいなのか薄く霞がかかったように見えた。美しい妻の顔に手を添え、唇を寄せる。しっとりと柔らかいその感触にイデオンは気持ちを昂ぶらせ、サーシャの体をベッドに押し倒した。

「ぅ……んっ……」

彼の甘い声が室内に響く。イデオンはますます勢いづいて妻の小ぶりな唇を舐め、歯列を割って口内に舌をねじ込んだ。

(甘い……)

二人の熱い息遣いとサーシャの鼻から抜けるような声がイデオンの耳をくすぐる。サーシャの唇は蜂蜜酒とフェロモンの混じり合ったような味がした。
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