【完結】転生花嫁と雪豹α王の人質婚〜北海道民の記憶持ちΩは寒さに強くてもふもふ好き〜

grotta

文字の大きさ
上 下
43 / 69

42.トゥルナリ祭当日

しおりを挟む
グエルブ王国に初雪が降り、土を踏みしめると靴の裏で霜柱しもばしらが崩れる――そんな季節がやってきた。

コンサバトリーの修繕を手伝ってくれていた屈強な獣人たちは、その年に選ばれた一本の巨木を切り倒した。そして手分けして薪割まきわりをし、やがて全てがトゥルナリ祭の焚き火に用いられる薪になった。それらは各地方へと配られた。

一方王宮内ではアンとスーがせっせとドレスを男性用の衣装に仕立て直してくれた。
サーシャはアンとスーに言われた通り肌の手入れをし、ヨエルには爪を磨いてもらった。それで祭りの当日までに、サーシャの顔や髪はすっかりつるつるに戻った。

サーシャは当日の朝鏡を見ながら頷いた。白い頬や額はパールのように艶めき、唇はひび割れもなく木苺色でぷるんとしている。髪の毛もちゃんと日頃からとかすようにし、異国から持ち込まれたオイルで毎晩ヨエルが手入れをしてくれた。

「よし、これならきっとイデオン様も色気ってやつを感じてくれるべ」

実は最近またイデオンは忙しくしているようで、あまりサーシャに構ってくれなくなっていた。相手がアルファだという理由でサーシャは会うことが許されなかったが、先日デーア大公国からの特使が来ていたそうだ。

(デーアの人間なら、僕も知ってる人だったかもな。会いたかったけど、仕方ないか)

イデオンはコンサバトリー完成のお祝い会の日には一緒に寝てくれた。しかしその後は夜中に出掛けていることもあるようで、なかなか会えていない。

(もうそろそろ次の発情期だけども、今回も難しいかもしれないなぁ。でもまあ、焦ることないよね)

「せっかくミカルくんが素敵な衣装を提供してくれたし、今夜は少しでもイデオン様に気に入って貰えるといいな」



その夜、王宮の広場では薪に火がつけられ焚き火が赤々と燃えていた。
サーシャは火を見るとまた火事のことを思い出してしまいそうなので、近くで見学するのはやめて王宮のバルコニーから眺めるだけにしておいた。

ダンスパーティー用の衣装をアンとスーに着せてもらいながら、サーシャはそわそわしていた。

「イデオン様は気に入ってくれるべか?」
「もちろんですわ」
「サーシャ様、とってもお綺麗になられましたもの」

最後に髪の毛を整えてもらってサーシャは立ち上がる。
するとそこへヨエルに連れられたミカルが顔を出した。

「あれ、ミカルくんでないの。こっちの棟まで来るなんてめずらしいね」

ミカルは白い色のベストとキュロットを着ていて、ブルーの蝶ネクタイを付けていた。

「ネクタイとっても似合ってるよ。僕の衣装とおそろいだね」

スカートの裾をカットした生地でアンがミカルの蝶ネクタイを作ったのだ。ミカルは手に箱を持って来ていた。
少しはにかんで、頬を染めながら彼が箱を差し出してくる。

「え……これ、僕に?」

するとミカルがこくんと頷く。

「ありがとう。開けていい?」

幼い獣人が頷いたのでサーシャは箱を開けた。中には温室で育てているシンビジウムの花を使ったコサージュが入っていた。白い花弁にピンク色のグラデーションがかかっていて、小さなビオラとの組み合わせにより清楚なイメージに仕上がっている。

「わあ……綺麗……! これミカルくんが作ってくれたのかい?」

ミカルは顔を真っ赤にして頷いた。そしてアンを指差す。

「ああ、アンと一緒に作ってくれたんだね?」
「私も手伝いましたが、ほとんどミカル様が花を選ばれたんですのよ」
「ありがとう、とっても素敵だよ」

アンはサーシャの胸元にコサージュを付けてくれた。姿見で全身をチェックしていると、またドアがノックされた。

「サーシャ~、僕だよ~」

機嫌よく現れたのはマリアーノだった。
しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編連載中】

晦リリ
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...