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39.色気が足りない?
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コンサバトリー内の球根の植え付けなど、冬を前にした庭仕事は全て終えることができた。
それからすぐに、この国で年末に行われるトゥルナリという祭りに向けての準備が始まった。冬至の日にこの国の守護神が再生するのを祈念するもので、同じ時期にクレムス王国でも似たような祭りが行われていた。
サーシャはコンサバトリーでお茶を飲みながらアンの話に耳を傾ける。膝の上にはミカルが座っていて、ホットミルクを飲んでいた。
「この国では冬至の日までに森で巨木を切り倒し、時間を掛けてそれを薪にします。そしてトゥルナリ祭当日に焚き火を行う習わしなのです」
「へぇ~、そうなんだ」
「そしてなんと言っても私達の楽しみといえばダンスパーティー」
「ダンスパーティー?」
「ええ。その夜には毎年王宮をはじめとして各地でダンスパーティーが行われるのが通例となっております。使用人も、貴族も入り混じって、身分に関わらず大人はお酒を飲んでダンスを楽しみますのよ」
「そんな面白そうなパーティーをやってるんだね」
「子どもはおめかしした状態で民家に遊びに行って、その家の人からお菓子をもらうんです。サーシャ様のお国ではこのような催しはされていませんでした?」
「うーん、僕の子どもの頃は夏にタナバタっちゅうお祭りがあってね。そのときに子どもたちが”ろうそく出~せ~出~せ~よ~”ってちょうちんを持ってお菓子を貰いに行く行事はやってたなぁ」
「まぁ、こちらの子どもたちの行事と似ていますわね。ですがチョウチンというのは……?」
アンが首を傾げた。
「えーっとなんていうんだっけ……あ! ランタンみたいなものだよ」
(そっかぁ、どの世界でも同じようなお祭りやってるもんなんだなぁ)
「サーシャ様はパーティーでどんな衣装をお召しになられます?」
「え……。普通は皆どんなものを着るんだべ?」
「そうですわねぇ、年に一度のパーティーですから皆張り切りますわ。特に、身分に関係なくダンスに誘うことが許される日ですから、恋人を探す若い獣人も多いんですの」
(なるほどね。クリスマスにバレンタインが合わさったみたいなもんかなぁ)
「ミカルもおめかしして、お菓子貰うの楽しみでしょ?」
「……」
ミカルに尋ねると、彼はこくこくと頷いた。
「おヒゲになってるよ~」とサーシャはミカルの口についたミルクをハンカチで拭う。最近ミカルはふざけてわざと飲み物を口の周りに付け、サーシャに拭かせようとすることがある。二人はそうやっていたずらし合う仲になっていた。
後からアンにこっそり聞いた話では、昨年のお祭りは両陛下の喪に服していたため中止だったそうだ。
だから今年は例年以上に市民の期待が膨らんでいるらしい。それはミカルも同じようで、子どもらしくわくわくしている様子を見てサーシャは安堵した。
(ミカルは最近笑顔も増えたし、このまま元気になっておしゃべりができるようになったらいいな)
◇
サーシャがコンサバトリーから自室に戻ると、マリアーノが部屋を訪れた。彼は相変わらず温室には近寄ろうとせず、この日もどこかへ出掛けていたのか外套とマフラーを身に着けたままだった。
「ねえサーシャ。冬至のお祭りのこと聞いた? さっき僕、仲良くなった衛兵にダンスしようって誘われちゃったんだけど~」
「あ、トゥルナリ祭のこと? ちょうど僕も今アンから聞いたところだよ」
「よかった、それなら話が早い」
「話って?」
マリアーノは侍従に外套を脱いで渡すとこちらにずずいと近寄ってきた。サーシャがちょっと後ずさると彼は更に顔を近寄せてくる。
「ダンスパーティーだよ」
「え、うん。だから僕も聞いたって言ってるしょや」
「その顔じゃあ、全然わかってないね」
「――何が?」
「サーシャ、何着るつもりなの?」
「何ってそんなの別にまだ決めてな――」
マリアーノはチッチッチと舌を鳴らして人差し指を振った。
「それがダメなんだよ」
「ダメって……」
「サーシャはね、色気が足りないの」
「色気?」
(一体何の話してるんだべ?)
それからすぐに、この国で年末に行われるトゥルナリという祭りに向けての準備が始まった。冬至の日にこの国の守護神が再生するのを祈念するもので、同じ時期にクレムス王国でも似たような祭りが行われていた。
サーシャはコンサバトリーでお茶を飲みながらアンの話に耳を傾ける。膝の上にはミカルが座っていて、ホットミルクを飲んでいた。
「この国では冬至の日までに森で巨木を切り倒し、時間を掛けてそれを薪にします。そしてトゥルナリ祭当日に焚き火を行う習わしなのです」
「へぇ~、そうなんだ」
「そしてなんと言っても私達の楽しみといえばダンスパーティー」
「ダンスパーティー?」
「ええ。その夜には毎年王宮をはじめとして各地でダンスパーティーが行われるのが通例となっております。使用人も、貴族も入り混じって、身分に関わらず大人はお酒を飲んでダンスを楽しみますのよ」
「そんな面白そうなパーティーをやってるんだね」
「子どもはおめかしした状態で民家に遊びに行って、その家の人からお菓子をもらうんです。サーシャ様のお国ではこのような催しはされていませんでした?」
「うーん、僕の子どもの頃は夏にタナバタっちゅうお祭りがあってね。そのときに子どもたちが”ろうそく出~せ~出~せ~よ~”ってちょうちんを持ってお菓子を貰いに行く行事はやってたなぁ」
「まぁ、こちらの子どもたちの行事と似ていますわね。ですがチョウチンというのは……?」
アンが首を傾げた。
「えーっとなんていうんだっけ……あ! ランタンみたいなものだよ」
(そっかぁ、どの世界でも同じようなお祭りやってるもんなんだなぁ)
「サーシャ様はパーティーでどんな衣装をお召しになられます?」
「え……。普通は皆どんなものを着るんだべ?」
「そうですわねぇ、年に一度のパーティーですから皆張り切りますわ。特に、身分に関係なくダンスに誘うことが許される日ですから、恋人を探す若い獣人も多いんですの」
(なるほどね。クリスマスにバレンタインが合わさったみたいなもんかなぁ)
「ミカルもおめかしして、お菓子貰うの楽しみでしょ?」
「……」
ミカルに尋ねると、彼はこくこくと頷いた。
「おヒゲになってるよ~」とサーシャはミカルの口についたミルクをハンカチで拭う。最近ミカルはふざけてわざと飲み物を口の周りに付け、サーシャに拭かせようとすることがある。二人はそうやっていたずらし合う仲になっていた。
後からアンにこっそり聞いた話では、昨年のお祭りは両陛下の喪に服していたため中止だったそうだ。
だから今年は例年以上に市民の期待が膨らんでいるらしい。それはミカルも同じようで、子どもらしくわくわくしている様子を見てサーシャは安堵した。
(ミカルは最近笑顔も増えたし、このまま元気になっておしゃべりができるようになったらいいな)
◇
サーシャがコンサバトリーから自室に戻ると、マリアーノが部屋を訪れた。彼は相変わらず温室には近寄ろうとせず、この日もどこかへ出掛けていたのか外套とマフラーを身に着けたままだった。
「ねえサーシャ。冬至のお祭りのこと聞いた? さっき僕、仲良くなった衛兵にダンスしようって誘われちゃったんだけど~」
「あ、トゥルナリ祭のこと? ちょうど僕も今アンから聞いたところだよ」
「よかった、それなら話が早い」
「話って?」
マリアーノは侍従に外套を脱いで渡すとこちらにずずいと近寄ってきた。サーシャがちょっと後ずさると彼は更に顔を近寄せてくる。
「ダンスパーティーだよ」
「え、うん。だから僕も聞いたって言ってるしょや」
「その顔じゃあ、全然わかってないね」
「――何が?」
「サーシャ、何着るつもりなの?」
「何ってそんなの別にまだ決めてな――」
マリアーノはチッチッチと舌を鳴らして人差し指を振った。
「それがダメなんだよ」
「ダメって……」
「サーシャはね、色気が足りないの」
「色気?」
(一体何の話してるんだべ?)
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