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37.妻に寄せる想い(1)
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お祝いパーティーの日の夜イデオンはサーシャにどうしても会いたいと言われて彼の部屋を訪れた。
マリアーノに言われたことが気がかりでならなかったが、サーシャに頼んだ修繕をやり遂げてもらったのだし無視するわけにもいかない。
妻は実際のところ機嫌が良さそうだったが、夫の顔を見てわざとらしく頬を膨らませた。
「イデオン様もパーティーに来てくれたらよかったべさ。みんな待ってたんだよ?」
「すまない。仕事が忙しくてな」
「したけどサヴァランはありがとうございます。まさか店主が来てくれるなんて思ってもみなかったです。アンとスーも喜んでました」
「そうか、それはよかった。サーシャ、熱心にコンサバトリーを修繕してくれて礼を言う」
イデオンの謝辞にサーシャが目を輝かせた。表情がくるくると変わって落ち着きのないのがはじめは煩わしかった。しかし今ではそれが彼の魅力なのだとイデオンは感じるようになっていた。
「いえ、なんもです! 僕も楽しくやらせてもらいました。獣人の皆とも仲良くなれたし、それに何よりもミカルくんも心を開いてくれるようになって――」
「そうだな。その件も感謝している。俺がいくら構おうとしても触れることすら嫌がられていたからな」
「敏感な年頃だもんねぇ。だけどミカルくんって本当にめんこくて、一緒にいるだけで元気を貰えるんですよ」
「メンコク?」
「あ、可愛いってことです」
ミカルはさすがに今日のように人数の多い集まりに顔を出すのはまだ難しいようだ。しかし、数人の作業員とサーシャだけのときに皆の手伝いをしているのをイデオンは渡り廊下からこっそり見ていた。
「お前の匂いがよかったのかもしれんな」
「匂いですか?」
「ああ。ライラックの香りがして、少し俺たちの母親と似ている」
「そっかぁ……それで懐いてくれたんだべかねぇ」
サーシャが嬉しそうに微笑む。見た目は全く母親と似ていない。しかしどこか見るものをホッとさせる雰囲気があって、ミカルはサーシャに母性のようなものを感じているのかもしれない。
「ミカルのことも含めて今回の件は感謝している。獣人たちがお前と親しくしすぎるのは少し気にかかるが――」
イデオンは先程マリアーノに言われたことを思い出していた。サーシャがああやって獣人に囲まれるのを本当は嫌がっているのなら、すぐにでも茶会をやめて良いのだと言ってやりたかった。
しかしサーシャは思わぬことを言ってきた。
「え? それって、イデオン様……妬いてくれてるってこと!?」
「なに? いや、そういうわけでは――」
「僕が他の獣人と仲良くしてるから拗ねてるんだべさ?」
ソファの隣に腰掛けて葡萄酒を飲んでいたサーシャがグラスをテーブルに置いてイデオンの膝の上に乗り上がった。
「お、おいサーシャ」
「へへ、そんなこと言って貰えるなんて思わなかったから嬉しい」
ほんのり頬を染めた妻は目をきらきらさせて夫のことを見つめた。
マリアーノに言われたことが気がかりでならなかったが、サーシャに頼んだ修繕をやり遂げてもらったのだし無視するわけにもいかない。
妻は実際のところ機嫌が良さそうだったが、夫の顔を見てわざとらしく頬を膨らませた。
「イデオン様もパーティーに来てくれたらよかったべさ。みんな待ってたんだよ?」
「すまない。仕事が忙しくてな」
「したけどサヴァランはありがとうございます。まさか店主が来てくれるなんて思ってもみなかったです。アンとスーも喜んでました」
「そうか、それはよかった。サーシャ、熱心にコンサバトリーを修繕してくれて礼を言う」
イデオンの謝辞にサーシャが目を輝かせた。表情がくるくると変わって落ち着きのないのがはじめは煩わしかった。しかし今ではそれが彼の魅力なのだとイデオンは感じるようになっていた。
「いえ、なんもです! 僕も楽しくやらせてもらいました。獣人の皆とも仲良くなれたし、それに何よりもミカルくんも心を開いてくれるようになって――」
「そうだな。その件も感謝している。俺がいくら構おうとしても触れることすら嫌がられていたからな」
「敏感な年頃だもんねぇ。だけどミカルくんって本当にめんこくて、一緒にいるだけで元気を貰えるんですよ」
「メンコク?」
「あ、可愛いってことです」
ミカルはさすがに今日のように人数の多い集まりに顔を出すのはまだ難しいようだ。しかし、数人の作業員とサーシャだけのときに皆の手伝いをしているのをイデオンは渡り廊下からこっそり見ていた。
「お前の匂いがよかったのかもしれんな」
「匂いですか?」
「ああ。ライラックの香りがして、少し俺たちの母親と似ている」
「そっかぁ……それで懐いてくれたんだべかねぇ」
サーシャが嬉しそうに微笑む。見た目は全く母親と似ていない。しかしどこか見るものをホッとさせる雰囲気があって、ミカルはサーシャに母性のようなものを感じているのかもしれない。
「ミカルのことも含めて今回の件は感謝している。獣人たちがお前と親しくしすぎるのは少し気にかかるが――」
イデオンは先程マリアーノに言われたことを思い出していた。サーシャがああやって獣人に囲まれるのを本当は嫌がっているのなら、すぐにでも茶会をやめて良いのだと言ってやりたかった。
しかしサーシャは思わぬことを言ってきた。
「え? それって、イデオン様……妬いてくれてるってこと!?」
「なに? いや、そういうわけでは――」
「僕が他の獣人と仲良くしてるから拗ねてるんだべさ?」
ソファの隣に腰掛けて葡萄酒を飲んでいたサーシャがグラスをテーブルに置いてイデオンの膝の上に乗り上がった。
「お、おいサーシャ」
「へへ、そんなこと言って貰えるなんて思わなかったから嬉しい」
ほんのり頬を染めた妻は目をきらきらさせて夫のことを見つめた。
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