【完結】転生花嫁と雪豹α王の人質婚〜北海道民の記憶持ちΩは寒さに強くてもふもふ好き〜

grotta

文字の大きさ
上 下
35 / 69

34.獣人にモテるサーシャが気に入らないマリアーノ

しおりを挟む
そんなことを話していたサーシャだったが、コンサバトリーの改修が終わる前に「お茶会」は獣人たちの中でいつの間にか話題になっていた。――というのも、例のヘラジカ二人組があの後「王妃様にお茶を振る舞ってもらった」とあちこちで自慢して回ったのだ。

それを聞いた獣人の使用人たちは、話の真偽を確かめようと手すきの時間にコンサバトリーを訪れるようになった。そして作業を手伝ってくれて、休憩時間はサーシャが直々にお茶を淹れるようになった。噂が本当だとわかると、王妃からカップを受け取ろうと更に獣人が増えた。

最初はガラス窓の入れ替えや暖房設備の修繕など、専門技術の必要な箇所以外はサーシャが自力でなんとかしようと思っていた。ヨエルを誘って二人で少しずつ作業すれば来春までには少し見られるようになるかな――と。

しかし「王妃様はいい匂いがして、仕事頑張ろうって気になれます!」と張り切るキツネ獣人や「おきれいな方なのに土を触るのも嫌がらないなんて……」「しかも皆に優しくて、一緒にお茶まで飲んでくださるんだぜ」と関心するジャコウウシ獣人など思いがけず多数の人手が集まった。
そんなわけで、植物の植え替えや木の枝の剪定など力のいる作業も想像以上のスピードで進んでいった。
そして「サーシャのお茶会」はいつの間にか使用人たちの憩いの場になっていた。

これまでサーシャは西棟で世話になっている侍女やヨエルを中心に、屋内で働く者との関わりしかなかった。しかしコンサバトリーの修繕を始めてからは力仕事メインの外で働く使用人とも親しくなっていった。
サーシャがグエルブ王国に来るまで恐れていたヒグマ獣人とも仲良くなった。皆恐ろしそうに見えたが、気のいい獣人たちだ。大きくて力持ちで頼りになる。
獣人たちも、人間はちっぽけで怠け者だと思っていたようだが、サーシャを見て「あんなに小さな体でよく働く」と人間のことを見直してくれた。
サーシャもお互いに歩み寄ることができて嬉しく思っていた。

しかし、そう思っていない人間もいた――。



「ねえサーシャ。今日もまたコンサバトリーに行くのぉ?」
「うん。マリアーノもどう? 今日はヒヤシンスの球根を植えるよ。最近はお茶とかお菓子を皆が持ち寄ってくれて、作業後のお茶会も賑やかなんだ」

先日アンとスーが話してくれた人気のベーカリーカフェで彼女たちは美味しいパンを買って来てくれた。外出できないサーシャは彼女たちの気遣いをとても嬉しく思っていた。
するとマリアーノは顔をしかめた。

「うぇえ、冗談でしょう。僕獣人たちとお茶するのなんて絶対無理。しかも絶対土なんて触りたくなーい! ねえ、ちょっとサーシャの手を見せてよ」

そう言ってマリアーノはサーシャの手を取った。

「ほらぁ! せっかく綺麗な桜貝みたいな爪してるのに、泥が染み付いて指先黒くなってるよ。ほんともうやめたほうがいいって。しかも、何? そのマントからヒグマとか鹿の匂いがぷんぷんするよ」
「え、そう? 匂いするかなぁ……」
「サーシャはそんなことしてる場合じゃないでしょう。使用人とばかり仲良くしていて、イデオン様とは上手く行ってるの?」
「それは――まぁ。たまに部屋に来てくれるし……」

正直なところ、発情期が終わってからイデオンはあまり夜に部屋へ通ってくれなくなった。誘っても、忙しいと断られることがほとんどだ。

「庭いじりもいいけどね、サーシャはお妃様なんだから使用人と一緒にお茶してるなんてまずいんじゃないの?」
「そんなことないよ。皆親切にしてくれるし、一緒に作業してるからこそ向こうも人間のことをわかってくれるようになってきてるんだべさ。僕はそもそも獣人との友好を示すためにここへ嫁いで来たんだから、これでいいに決まってるしょや」
「ふーん。そう? 僕はここの使用人あんまり気に入らなーい。やっぱり獣臭いし。食べ物も口に合わないしぃ」

そう言ってマリアーノはまた派手に着飾ってどこかへ出掛けてしまった。彼は外出を禁止されていないので、城内にとどまらずに王都見物にも出掛けているようだった。

(なんだよ、だはんこいてばっかりでさぁ……結局僕と一緒にいるわけでもないし、ここへ何しに来たんだべね?)


――――――――――――

【だはんこく】→わがままを言う、だだをこねる、不平を言うなどの意味。

しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編連載中】

晦リリ
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...