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29.親友(?)マリアーノ到来

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その後約1週間のヒート期間中、サーシャはめげずに毎晩イデオンを誘った。そのうち半分は部屋に来てくれてことに及んだが、結局サーシャの方が返り討ちにあってしまった。つまり、未だに挿入してもらえていない。

「はぁ……なして? もう入りそうじゃん」

自分で言うのもなんだが、かなりよくほぐれて慣れてきている――と思う。

(指2本なんて余裕だし。3本だっていける。イデオン様が思い切りやってくれれば絶対入るっしょ!?)

――しかし、してくれないのだ。

「うなじも全然噛んでくれないし。……僕の魅力が足りない? こんなとき、元々のサーシャならどうしたべなぁ……」





そんなサーシャの悩みをよそに、予告どおりヴァレンティ男爵の甥っ子マリアーノがグエルブ城にやって来た。
侍従を一人連れて、サーシャの乗ってきたのよりもっともっと豪華な馬車でまるで嫁入り並の荷物を持参して――。

「サーシャ~! 久しぶり~~!」

そう言って手を振りながらこちらに駆けてきた青年の姿を見てサーシャは目を丸くした。

(あれ? なんか……僕に似てるんですけど?)

サーシャと同じく顎のラインに沿うミルクティーベージュカラーのショートボブヘア。長さも髪型もそっくりだ。ただ、顔はヴァレンティ男爵の血筋を思わせる爬虫類系。
服装は真っ赤なウェストまでのコートで、耳にはルビーのイヤリングが輝いていた。

(んー、こんな見た目だったかなぁ? 僕の記憶があやふやだからアレだけども、確か黒髪のワンレンボブだったような……誰か別の人と記憶が混じってるんだべか)

ヴァレンティ男爵は黒髪のくせっ毛だ。たしかマリアーノも同じ色だった気がするのにな、とサーシャは首を捻る。

「元気にしてた? サーシャに会えて嬉しい!」
「あ、ああ。うん、元気だよ。マリアーノも元気そうだね」

そう言うと彼はサーシャのことをぎゅっと抱きしめた。

「サーシャ……ごめんね! あの時のことは僕が悪かったよ。許してほしくてこんな北の果てまでやって来たんだ」

(え……?)

「あの時のこと――?」

なんのことだかわからなくてサーシャはヒヤヒヤする。前世の記憶のことはなんとなくバレてはいけない気がするのだ。

「あ、ああ! あのことね。なんもなんも、気にしてないから。マリアーノももう気にしないで……」

(気にするも何も、なーんも覚えてないんだもんこう言うしかないよね)

「サーシャ……ありがとう! なんて優しいの。やっぱり僕たちって魂の親友だね」

マリアーノがサーシャの頬にキスして「またこうして会えるなんて夢みたい」と言った。彼の唇は情熱的な言葉に反してひんやりしていて、ゾワゾワっと鳥肌が立った。

(うーん。なんだか自分にキスされてるみたいで変な感じ……?)

すると背後からカツカツと靴音がして、ぐいっと腕を引かれた。

「サーシャ。それが例の友人か?」
「あ……イデオン様」

腰に腕を回され、イデオンがぴたっと体を密着させてくる。

(え、なになに? いつも僕の部屋以外ではあんまりひっついてくんないのに)

「遠いところを妻のためによく来てくれた。夫のイデオン・ヘレニウスだ」
「ああ、あなたが……。はじめまして! サーシャの親友のマリアーノ・ヴァレンティです。お目にかかれて光栄です陛下」

マリアーノはイデオンに親しげな笑顔を向けた。イデオンの口元は微笑んでいるように見えるが、目がギラリと光っている。鼻をひくつかせて匂いを嗅いでいるのもここ最近彼と触れ合っているサーシャにはよくわかった。

(ふふ、初対面の人間だから警戒してるんだ。僕も最初チェックされたもんね)

「長旅で疲れているだろうから部屋で休んでくれ」
「お気遣いありがとうございます。ですが、僕サーシャとお話しがしたいんです。ねえねえ、サーシャの部屋に案内してくれる?」
「あ、ああうん」

勢いに押されて承諾するとマリアーノは侍従に声を掛けた。

「カルロ! 荷物は僕の部屋へ運んでおいて。あ、そっちの荷物はサーシャへのプレゼントだからサーシャの部屋に運ばせてね」

マリアーノはやって来るなりテキパキと使用人に指図して荷物を運ばせた。



そしてマリアーノはサーシャの部屋に来て椅子に座るなりこう言った。

「ねえ、サーシャ。一体どうしちゃったの? そのダッサい服」
「え……?」
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