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26.二度目の逢瀬は積極的に(1)
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「あの……いらっしゃい……」
(ていうのも変か。ここってイデオン様のお城だし?)
サーシャがぎこちなく迎え入れるのを見たイデオンは鼻で笑った。
「ふん、今日は服を着ているんだな」
「あ……。したから昨日はお酒飲んで苦しくなっただけで――本当はこういう素敵な衣装なんですって侍女たちが見せたいと……」
「冗談だ。似合っている」
イデオンに真顔でさらっと褒められてサーシャは内心舞い上がった。
「あ、ありがとうございます……。あの、今夜は先に酔っ払わないように飲まずに待ってました。一緒に飲みながらお話ししませんか?」
「――いいだろう」
サーシャはデキャンタからグラスに蜂蜜酒を注いだ。オメガが飲めば発情を促され、アルファが飲めば精力増強剤の効果があるというこの国伝統の酒だそうだ。
「乾杯」
二人で長椅子に並んで座り、グラスを傾ける。
「イデオン様。あの……さっきの温室のことなんだけども」
「ん? まだ気にしていたのか」
「なしてあんなに荒れ果てたまま放置してあるんです? お庭は手入れされていてとても綺麗なのに」
イデオンは少し考えるように視線を空中へさまよわせた。
「あそこは元々俺の母親が大切にしていた場所なんだ」
「あ……そうだったんですか」
もしかしてあまり聞いてはいけないことだったのだろうか。獣人の前国王夫妻が暗殺されてから、結局犯人が見つかっていないとサーシャも聞いている。思いがけずデリケートな問題に触れてしまったのかもしれない。
「あの、さっきあそこで小さな子どもを見かけたんです。僕なんかより、子どもが出入りしている方が危ないんじゃないかと思ったもんだから」
「何? まさかあの中に入ったのか?」
「えっと、あの、はい――……」
イデオンは大きなため息をついた。
「全く。お前は夫の言い付けひとつも守れないのか?」
「ごめんなさい」
「怪我が無かったのならまあよい。おそらくお前が見たのは弟のミカルだ」
「あ……! あれがミカルくんなんですね」
事情があると言われ、結局イデオンの弟にはまだ一度も顔を合わせられていなかった。
「ミカルはまだ幼いし、特に母親に対する思いが強かった。だから両親の死を受け入れられず一時期獣化したまま戻れなくなってな。錯乱状態になってあの温室を破壊してしまったんだ」
「そんなことが――」
(まだ小さいのに可哀想に……)
「ミカルに人間のお前を会わせたらまた精神的に不安定になるかもしれないと思って今まで対面を避けていた」
「そういうことだったんだ――イデオン様、知らずに勝手に中に入ってごめんなさい。したけどあのままじゃ危ないし、やっぱりあそこは綺麗に直してあげたほうがお母さんも喜ぶんじゃないべか?」
「……そうしたいのは山々なんだが、なかなかそこまで手が回らなくてな」
「あの、僕は外にも出かけられないしすっごく暇です。したからあそこを修復する手伝いをさせてもらえないべか?」
「お前が――?」
「はい。 元通り綺麗になったのを見たら、ミカルくんも元気が出るかもしれないし」
「ふむ……」
「僕、庭いじりは得意です」
イデオンはしばらく考え込んだ後頷いた。
「それも悪くない……。ではお前にひとつ頼んでみるか。ガラスの修理には専門の者を連れて来させよう」
サーシャはあの庭で毎日ぶらぶらするだけでは数日で飽きてしまうだろうと憂鬱に思っていた。だけどやるべき仕事ができたら少し気が紛れそうだ。
「それで、今夜はこうやってずっとここで俺はお前の話を聞いていればいいのか? この衣装は脱がさなくても?」
イデオンがそう言ってサーシャの夜着の紐を一本引っ張った。するりと蝶々結びがひとつほどける。
「あ……いいえ! 昨日の続き――したいです」
サーシャが頬を染めながら言うとイデオンがサーシャの体を昨日とは打って変わって優しく抱き上げた。
そのままベッドにふわっと降ろされる。
「昨日はこれを脱がせる楽しみをお前に奪われたからな」
「そ、それは申し訳ないです……」
酒が回って、サーシャの頬は気づけばすっかり熱くなっていた。イデオンの口元からうっすら犬歯が見えるのが昨夜は怖いと思ったが、怒っているのではなく欲情してる表情だったようだ。
ため息の出るような美しい雄雪豹獣人の顔に見惚れていると、彼がサーシャの唇をぺろっと舐めた。
「甘いな」
イデオンはゴツゴツした手のわりに器用にサーシャの胸元の紐を全て解いた。その様子を見て、サーシャはぼんやりと彼がこういった衣服を脱がすことに慣れているんだなと思った。するとどういうわけか、紐が解けたというのにサーシャの胸がぎゅっと締め付けられた。夫が――あるいは恋人が自分のものじゃなくなるというような不思議な感覚――。なんとなく既視感を覚え、サーシャは首を捻った。
(なんだっけ、この感じ……? まあいいや。それより今夜こそうまくいきますように)
「イデオン様。今夜は最後までしてくれますよね?」
「そう焦るな。お前の体の調子次第だ――」
(ていうのも変か。ここってイデオン様のお城だし?)
サーシャがぎこちなく迎え入れるのを見たイデオンは鼻で笑った。
「ふん、今日は服を着ているんだな」
「あ……。したから昨日はお酒飲んで苦しくなっただけで――本当はこういう素敵な衣装なんですって侍女たちが見せたいと……」
「冗談だ。似合っている」
イデオンに真顔でさらっと褒められてサーシャは内心舞い上がった。
「あ、ありがとうございます……。あの、今夜は先に酔っ払わないように飲まずに待ってました。一緒に飲みながらお話ししませんか?」
「――いいだろう」
サーシャはデキャンタからグラスに蜂蜜酒を注いだ。オメガが飲めば発情を促され、アルファが飲めば精力増強剤の効果があるというこの国伝統の酒だそうだ。
「乾杯」
二人で長椅子に並んで座り、グラスを傾ける。
「イデオン様。あの……さっきの温室のことなんだけども」
「ん? まだ気にしていたのか」
「なしてあんなに荒れ果てたまま放置してあるんです? お庭は手入れされていてとても綺麗なのに」
イデオンは少し考えるように視線を空中へさまよわせた。
「あそこは元々俺の母親が大切にしていた場所なんだ」
「あ……そうだったんですか」
もしかしてあまり聞いてはいけないことだったのだろうか。獣人の前国王夫妻が暗殺されてから、結局犯人が見つかっていないとサーシャも聞いている。思いがけずデリケートな問題に触れてしまったのかもしれない。
「あの、さっきあそこで小さな子どもを見かけたんです。僕なんかより、子どもが出入りしている方が危ないんじゃないかと思ったもんだから」
「何? まさかあの中に入ったのか?」
「えっと、あの、はい――……」
イデオンは大きなため息をついた。
「全く。お前は夫の言い付けひとつも守れないのか?」
「ごめんなさい」
「怪我が無かったのならまあよい。おそらくお前が見たのは弟のミカルだ」
「あ……! あれがミカルくんなんですね」
事情があると言われ、結局イデオンの弟にはまだ一度も顔を合わせられていなかった。
「ミカルはまだ幼いし、特に母親に対する思いが強かった。だから両親の死を受け入れられず一時期獣化したまま戻れなくなってな。錯乱状態になってあの温室を破壊してしまったんだ」
「そんなことが――」
(まだ小さいのに可哀想に……)
「ミカルに人間のお前を会わせたらまた精神的に不安定になるかもしれないと思って今まで対面を避けていた」
「そういうことだったんだ――イデオン様、知らずに勝手に中に入ってごめんなさい。したけどあのままじゃ危ないし、やっぱりあそこは綺麗に直してあげたほうがお母さんも喜ぶんじゃないべか?」
「……そうしたいのは山々なんだが、なかなかそこまで手が回らなくてな」
「あの、僕は外にも出かけられないしすっごく暇です。したからあそこを修復する手伝いをさせてもらえないべか?」
「お前が――?」
「はい。 元通り綺麗になったのを見たら、ミカルくんも元気が出るかもしれないし」
「ふむ……」
「僕、庭いじりは得意です」
イデオンはしばらく考え込んだ後頷いた。
「それも悪くない……。ではお前にひとつ頼んでみるか。ガラスの修理には専門の者を連れて来させよう」
サーシャはあの庭で毎日ぶらぶらするだけでは数日で飽きてしまうだろうと憂鬱に思っていた。だけどやるべき仕事ができたら少し気が紛れそうだ。
「それで、今夜はこうやってずっとここで俺はお前の話を聞いていればいいのか? この衣装は脱がさなくても?」
イデオンがそう言ってサーシャの夜着の紐を一本引っ張った。するりと蝶々結びがひとつほどける。
「あ……いいえ! 昨日の続き――したいです」
サーシャが頬を染めながら言うとイデオンがサーシャの体を昨日とは打って変わって優しく抱き上げた。
そのままベッドにふわっと降ろされる。
「昨日はこれを脱がせる楽しみをお前に奪われたからな」
「そ、それは申し訳ないです……」
酒が回って、サーシャの頬は気づけばすっかり熱くなっていた。イデオンの口元からうっすら犬歯が見えるのが昨夜は怖いと思ったが、怒っているのではなく欲情してる表情だったようだ。
ため息の出るような美しい雄雪豹獣人の顔に見惚れていると、彼がサーシャの唇をぺろっと舐めた。
「甘いな」
イデオンはゴツゴツした手のわりに器用にサーシャの胸元の紐を全て解いた。その様子を見て、サーシャはぼんやりと彼がこういった衣服を脱がすことに慣れているんだなと思った。するとどういうわけか、紐が解けたというのにサーシャの胸がぎゅっと締め付けられた。夫が――あるいは恋人が自分のものじゃなくなるというような不思議な感覚――。なんとなく既視感を覚え、サーシャは首を捻った。
(なんだっけ、この感じ……? まあいいや。それより今夜こそうまくいきますように)
「イデオン様。今夜は最後までしてくれますよね?」
「そう焦るな。お前の体の調子次第だ――」
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