【完結】転生花嫁と雪豹α王の人質婚〜北海道民の記憶持ちΩは寒さに強くてもふもふ好き〜

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25.廃墟とちびっ子獣人

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「イデオン様……」

(あーあ、キスしないで行っちゃった~……。ちぇ、せっかく好きになってもらう作戦実行しようと思ったのに。したけど夜に僕の部屋に来てくれるってのは進歩じゃない!?)

サーシャはひとまず夜の約束を取り付けたことに満足して頷いた。

「それにしても、ヴァレンティ男爵の甥っ子か……マリアーノ、マリアーノ……ぼんやり覚えてるような気もするけど、バレンティ男爵に似て爬虫類っぽい子だってことくらいしか記憶にないな。こんな北国まで来るほど仲良かったんだべか?」

元々のサーシャの断片的な記憶ではマリアーノのことははっきり思い出せなかった。しかし、バレンティ男爵同様あまりいい印象ではない。もしかして友人とはいってもサーシャは内心苦手に思っていたのかもしれない。

「それはそうと……」

完全にイデオンの姿が見えなくなると、サーシャは別の好奇心が湧いてきた。

「ダメって言われるとさ、行きたくなるのが人間ってもんだよねぇ」

ヨエルからも見えないのを良いことにサーシャはイデオンに行くなと言われたコンサバトリーの方へ歩いていく。
中庭と違ってこちらはひどい有様だった。

「草ぼーぼーじゃん……」

コンサバトリーの扉は開きっぱなし。そして屋内の植物なのか外の植物なのかわからないくらい雑草やつる植物が生い茂っている。少なくともこの夏は一度も手入れをされていないように見えた。

「あーあ、この窓も、こっちも割れてる……どうして修理しないんだろう?」

怪我をしたらイデオンにバレてしまうのでサーシャは足元に気をつけながら中に入った。
王宮の外壁に接したコンサバトリーは高さで言うと2階分まで、広さでいうとサーシャの寝室4つ分くらいだろうか。地面に直植えの部分と、鉢植えが混在している。木製の棚や、元は白かったであろうテーブルと椅子。それらにはツタが絡みつき、ホコリと砂で薄汚れていた。棚には瓶がびっしり並んでいて、種子なのか乾燥したハーブなのかわからない物が詰まっている。奥の方には水やりのための水道もあった。

サーシャがきょろきょろと中の様子をうかがっていると、物陰から枝を踏むパキっという音がした。

「えっ……。誰かいるの?」

声を掛けると、葉っぱを踏むガサガサっという音と共に白い尻尾が見えてものすごい速さで奥へとんで行った。

「あ、君!」

小さな子どものようで、走って王宮内に通じるドアの向こうへいってしまう。

「待って。おーい!」

サーシャは追いかけて王宮の廊下に出た。左右を見るが、その子がどちらへ行ったかわからなかった。

「すばしっこいなぁ。子ども……しかも尻尾があったから獣人の子だよね」

(イデオン様は僕に危ないなんてうるさく言うくせに、あんな小さな子が割れたガラスだらけの温室に侵入できるなんてもっと危ないじゃん)

サーシャは男の子を追いかけていたらヨエルに怪しまれると気づいて庭の方へと引き返した。

ヨエルと二人で部屋に戻った後、すぐに彼にコンサバトリーのことを尋ねたかった。しかし、彼に伝えたらきっとイデオンに告げ口されるだろう。
ヨエルの口から言われるより、自分で直接聞いたほうが対処のしようがある気がしてサーシャは黙っていた。



そしてその夜サーシャは気合も新たに初夜のリベンジのため侍女たちに身支度をしてもらっていた。

「今夜は紐は緩めに結びましたわ」
「この衣装、初夜用なんだよね?」
「昨夜は陛下がご覧になる前に脱げてしまったんですよね? それでしたらせっかくですから今夜改めて見ていただきましょう」
「そっか、ありがとうアン、スー」

スーがその場を離れた時、年配の方のアンがこそっと耳打ちしてくる。

「サーシャ様。今夜はうなじも噛んで貰えるとよろしいですね」
「あ……気づいてたの?」
「はい。私が昨夜体を拭かせていただきましたから」
「そっか。やっぱり初夜で噛んで貰えないのって……おかしいのかな?」

アンはこちらを見て優しく首を振った。

「きっと陛下はサーシャ様が人間でいらっしゃるから噛むと痛がると思って遠慮したんじゃないかしら」

そう言ってアンはこちらにウィンクした。

「お優しい方ですのよ。恐ろしく見えるかもしれませんけど。弟思いでいらっしゃるし……。ご両親が亡くなって、気を張っているからどうしてもこう、目が吊り上がっちゃうんですよ」

アンは両手の人差し指で自分の目尻をピッと上に引っ張った。

「ぶふっ! そうそう。イデオン様怒るとそういう目になる~」
「ほほほ、サーシャ様今日は昨日よりリラックスされてますわね。きっと上手くいきますよ」
「ありがとう」

侍女が部屋を出ていき、サーシャがそわそわしながら待っていると足音がして開いたドアから背の高い雪豹獣人が現れた。サーシャが立ち上がって迎えると彼は後ろ手にドアを閉じた。
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