【完結】転生花嫁と雪豹α王の人質婚〜北海道民の記憶持ちΩは寒さに強くてもふもふ好き〜

grotta

文字の大きさ
上 下
23 / 69

22.外出禁止ってどういうこと?

しおりを挟む
その後サーシャは部屋で侍女たちとおしゃべりしながら朝食をとった。

「このパン美味しいね」
「まぁ、サーシャ様よくお気づきになられましたね」
「え?」
「今日のパンはいつもと違いましてね。国王様の結婚祝いに、と王都で一番評判のベーカリーカフェが焼き立てのパンを持ってきてくれましたのよ」
「へぇ」

どうりで美味しいはずだ。サクッとしたデニッシュ生地の中にりんごを甘く煮たものが入っていてとても美味しい。

「わたくしたちもお休みの日にはそのカフェに行くんですけれど、人気のパンは午前中で売りきれてしまうのよね」
「そうそう、この前ランチタイムに行ったら満席で入れませんでした」
「へ~、そんなに人気なんだね」
「そうなんですの。紅茶もとっても美味しくて、店内でしか食べられないサヴァランが格別なんです」
「さばらん?」
「お酒の効いたシロップ漬けのブリオッシュですわ」
「とっても美味しいんですよ!」
「そうなんだ。僕も行ってみたいなぁ」

サーシャが何気なく言うとアンが目を輝かせた。

「まぁ、それでしたら食べに行かれてみては? サーシャ様はこちらにいらしてから結婚式の準備でお忙しかったから王都の観光もまだされてませんわよね」
「そうよそうよ! わたくしたちがグエルブ王国の名所をご案内いたしますわ!」
「え、ほんと? 行きたい! あ、ねえ。ヨウちゃんも行かない?」

壁際に控えているヨエルに尋ねると、彼はちょっと言いにくそうに答えた。

「サーシャ様、大変心苦しいのですが……サーシャ様はしばらくの間外出することができません」
「――はい?」

サーシャは侍女たちと顔を見合わせた。

「え、待ってどういうこと?」
「ですから、サーシャ様はこの王宮の外へ出ることが禁じられているのです」
「うそ……王妃になると外に出られないものなの?」
「いいえ。それがその……陛下の特別なご判断でして」

(え、またイデオン様の独断で……? このポンチョもどきはぬくいしもこもこが気持ちいいからまあいいとして、外出禁止だなんて酷いんでない?)

「じゃあ僕はお城の中でずーっと何してればいいのさ? 東棟にも行っちゃダメだって言うし」

(いくら人質嫁だからって、まるで檻の中の珍獣みたいでないの……)

「陛下は中庭でしたら自由に散策してよろしいとおっしゃっておりました」
「中庭?」
「はい。陛下の執務室の窓から見えるので安心だと――」
「へぇ……」

サーシャが憮然とした顔をしていると、侍女たちが言う。

「でもサーシャ様、ほら、お庭はいま秋の花が咲いておりますし」
「そうですわ。冬になって枯れてしまう前にご覧になられては?」
「うん……」
「きっと発情期が終わりましたら、陛下もきっと外出を許してくださいますよ」
「そうかな……?」
「そうですよ。さあ、食後の紅茶はいかがです?」





サーシャは朝食後、ヨエルと共に中庭に出た。
石造りの外壁でコの字型に囲われた、さほど大きくない空間に様々な植物が植えられていた。真夏ほど賑やかではないのだろうが、涼しくなった季節に咲く花の健気さはサーシャの心を少し慰めてくれた。ヨエルはサーシャの気持ちを察してか、少し離れた位置からこちらを眺めている。

サーシャはひとり石畳の通路を歩いて、つる植物の生い茂るレンガのアーチをくぐった。深みのあるマットオレンジのバラが少し枯れかけながらもまだ一部美しく咲いている。サーシャは午前中のひんやりした空気と、秋の植物の匂いを吸い込んだ。

(ホッカイドウのことを思い出すなぁ――やっぱり自然の中にいると落ち着く……)

クレムス王国にあるサーシャの実家は南方に位置しており、もっと温暖な気候だった。しかしかつての記憶を思い出したサーシャにはこれくらい涼しい気候のほうが性に合っている。
前世では祖母が家の花壇に毎年春になると花を植えて、それが夏に一斉に開花したものだ。ホッカイドウの夏は短い。だからこそその期間だけ咲く花の美しさが人々の心を打つ。冬には全て枯れて雪に覆われ、翌年の春にまた新しい生命が芽吹くのをひたすら寒さに耐えながら待つのだ。
サーシャはそういった自然の厳しさに慣れていたし、自分の人生は一度終わって今はおまけの人生だと理解していた。

(文句ばっかり言ってもどもならんし……イデオン様が僕をどう扱おうと受け入れるしかない。あんまりイライラしないで仲良くすることだけ考えよう)

そして庭の奥まで来ると、王宮に併設されたガラス張りの建物が見えた。

「あれ、なんだべか?」

温室のようだが、ところどころガラスが割れている。中の植物も手入れされていないのか、伸び切った雑草に覆われて荒れ果てている。そちらへ近づいてよく見てみようと思った時、がっしりした腕が腰に回って引き止められた。もこもこのフードをボフっと被せられ、前が見えなくなる。

「わぁっ! な、なに!?」

後ろを振り向いてフードを少し持ち上げる。サーシャを捕まえたのはイデオンだった。不機嫌そうな表情でこちらを見下ろしている。

「何をしている。フードを被るよう言ったはずだ」
しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編連載中】

晦リリ
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...