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11.新婚初夜への不安
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夕食の席でサーシャはイデオンの親族と顔を合わせた。イデオンは2人兄弟の長男で、ミカルという名の弟がいる。しかしミカルは食事の場に現れなかった。
イデオンはその理由について特に語らなかったが、まだ4歳だというから大人より早く食べて寝てしまうということだろう。
食事を終えて、親族らが酒を飲み交わしている間にイデオンとサーシャはそれぞれ初夜の準備のため席を辞した。
普段サーシャは王宮内の西の端にある棟で過ごしている。しかし今夜は身支度を整えた後、国王の寝室に向かうことになっていた。
羊獣人の侍女たちが全身を念入りに洗って、爪まで磨いてくれる。王宮で働く使用人はベータの羊獣人が多いようで、政治に関わるのは狼獣人や虎獣人など肉食獣のアルファが主らしい。
牧場で羊を飼っていた記憶持ちのサーシャが羊獣人の使用人たちと仲良くなるのは容易だった。
おしゃべりな侍女2人がサーシャの身支度を整えながら口々に言う。
「さあ、これでどこから見ても完璧に仕上がりましたわ」
「とっても素敵ですわ。サーシャ様はお人形さんみたいで着飾りがいがあります」
女性の獣人も人間のサーシャより体格が良い。それで一回り小さなサーシャが人形のように思えるのだろう。
「本当に。これだけ美しい方ですもの、陛下はきっとメロメロですわね」
笑顔でそう言われるが、サーシャは不安だった。押し黙ったままのサーシャに気づいて侍女が問いかける。
「サーシャ様どうなさったんです? いつもはもっとおしゃべりですのに」
「――うん。ちょっと心配になっちゃってさ」
「あらまあ。誰でも初夜は緊張するものですわ。陛下にお任せすればいいんですよ」
「そうなんだけどもね。ここの皆とはすぐ仲良くなれたのにイデオン様とはどーも上手くいかなくて、顔を合わせるたんびに怒らせるようなことばっかしちゃってさ」
侍女たちはあらあら、と顔を見合わせた。
「サーシャ様はまだいらしたばかりでこの国の風習に慣れてらっしゃらないから、うまくいかないことがあっても仕方ありませんわ」
「そうよ。陛下ももう少しサーシャ様に優しくしてくださるといいんですけど」
すると年配の侍女が言う。
「私は古株だからわかりますけど、あれで精一杯優しくしているおつもりなのよ。陛下はサーシャ様がお越しになってからこの棟の使用人をヨエルとオメガのケヴィン以外全部女性にしてしまったんですから」
「そうね、それにはびっくりしたわ」
「陛下は子どもの頃、大事なおもちゃは誰の目にも触れないようそれは上手に隠しておいででしたわ」
「まぁ、それほどサーシャ様を他の男性の目に触れさせたくないってことね? 私もそんな風に熱烈に想われてみたいものですわ」
侍女たちは朗らかに笑った。しかしサーシャにはいまいちピンと来なかった。
(したけどそれなら2人きりでおしゃべりとかしてくれたっていいべさ……)
「大丈夫、サーシャ様のお美しさは私達が保証しますわ。心配なさらず肩の力を抜いていってらっしゃいませ」
(――そうだよね。こんだけ侍女たちが手を掛けて用意してくれたんだもの、きっと今夜はうまくいくしょ!)
サーシャは白絹の夜着を身にまとっていた。3枚重ねになっているロング丈の前開きガウンで、胸の下からウエストにかけてギュッと数本の紐で絞られている。その結び目は複雑で、この地方伝統の”初夜の花嫁衣装”らしい。
ノックの音がし、ヨエルが迎えにやって来た。
イデオンはその理由について特に語らなかったが、まだ4歳だというから大人より早く食べて寝てしまうということだろう。
食事を終えて、親族らが酒を飲み交わしている間にイデオンとサーシャはそれぞれ初夜の準備のため席を辞した。
普段サーシャは王宮内の西の端にある棟で過ごしている。しかし今夜は身支度を整えた後、国王の寝室に向かうことになっていた。
羊獣人の侍女たちが全身を念入りに洗って、爪まで磨いてくれる。王宮で働く使用人はベータの羊獣人が多いようで、政治に関わるのは狼獣人や虎獣人など肉食獣のアルファが主らしい。
牧場で羊を飼っていた記憶持ちのサーシャが羊獣人の使用人たちと仲良くなるのは容易だった。
おしゃべりな侍女2人がサーシャの身支度を整えながら口々に言う。
「さあ、これでどこから見ても完璧に仕上がりましたわ」
「とっても素敵ですわ。サーシャ様はお人形さんみたいで着飾りがいがあります」
女性の獣人も人間のサーシャより体格が良い。それで一回り小さなサーシャが人形のように思えるのだろう。
「本当に。これだけ美しい方ですもの、陛下はきっとメロメロですわね」
笑顔でそう言われるが、サーシャは不安だった。押し黙ったままのサーシャに気づいて侍女が問いかける。
「サーシャ様どうなさったんです? いつもはもっとおしゃべりですのに」
「――うん。ちょっと心配になっちゃってさ」
「あらまあ。誰でも初夜は緊張するものですわ。陛下にお任せすればいいんですよ」
「そうなんだけどもね。ここの皆とはすぐ仲良くなれたのにイデオン様とはどーも上手くいかなくて、顔を合わせるたんびに怒らせるようなことばっかしちゃってさ」
侍女たちはあらあら、と顔を見合わせた。
「サーシャ様はまだいらしたばかりでこの国の風習に慣れてらっしゃらないから、うまくいかないことがあっても仕方ありませんわ」
「そうよ。陛下ももう少しサーシャ様に優しくしてくださるといいんですけど」
すると年配の侍女が言う。
「私は古株だからわかりますけど、あれで精一杯優しくしているおつもりなのよ。陛下はサーシャ様がお越しになってからこの棟の使用人をヨエルとオメガのケヴィン以外全部女性にしてしまったんですから」
「そうね、それにはびっくりしたわ」
「陛下は子どもの頃、大事なおもちゃは誰の目にも触れないようそれは上手に隠しておいででしたわ」
「まぁ、それほどサーシャ様を他の男性の目に触れさせたくないってことね? 私もそんな風に熱烈に想われてみたいものですわ」
侍女たちは朗らかに笑った。しかしサーシャにはいまいちピンと来なかった。
(したけどそれなら2人きりでおしゃべりとかしてくれたっていいべさ……)
「大丈夫、サーシャ様のお美しさは私達が保証しますわ。心配なさらず肩の力を抜いていってらっしゃいませ」
(――そうだよね。こんだけ侍女たちが手を掛けて用意してくれたんだもの、きっと今夜はうまくいくしょ!)
サーシャは白絹の夜着を身にまとっていた。3枚重ねになっているロング丈の前開きガウンで、胸の下からウエストにかけてギュッと数本の紐で絞られている。その結び目は複雑で、この地方伝統の”初夜の花嫁衣装”らしい。
ノックの音がし、ヨエルが迎えにやって来た。
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