【完結】転生花嫁と雪豹α王の人質婚〜北海道民の記憶持ちΩは寒さに強くてもふもふ好き〜

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10.夫に冷たくされて胸がひゃっこい花嫁

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イデオンに口づけされた途端に体が熱くなりフェロモンを放出してしまったサーシャ。当の本人がそのことに一番驚いていた。
雪豹王は軽々とサーシャを抱えて大聖堂の奥にある小部屋にサーシャを押し込むと部屋の外へ出てしまった。その後サーシャはヨエルから薬湯を貰って飲んだ。

「はぁー……」

(もう、大事な式典なのに大勢の前でみったくないところ見せちゃったなぁ。なしてこんなに体が熱くなるのかな。心臓もこわいし――フェロモンが出てるって、これが発情なの?)

薬湯を飲んでしばらくすると熱が引いて、早鐘を打っていた心臓も段々落ち着いてきた。
そこへ羊獣人の少年が現れヨエルに耳打ちする。
少年が出ていき、ヨエルがサーシャに尋ねた。

「サーシャ様、お加減はいかがですか? そろそろパレードを出発しませんと、街道の国民たちが不審に思いはじめているそうなのですが」
「あ、そだね! もう大丈夫。早く行かないばみんな心配してるよね。僕、変なところないかな?」

頬に手を当ててみるが、さっきみたいに熱くはないようだ。

「顔色も良さそうですので、陛下に迎えに来てもらいましょう」

その後イデオンがやってきてサーシャの匂いを確認し、フェロモンの香りは抑えられているということで馬車に乗り込んだ。

天井がないオープン式の四頭立て馬車が獣人で埋め尽くされた街道をゆっくりと走っていく。クレムス王国の赤色の国旗と、グエルブ王国の緑色の国旗があちこちではためいていた。
事前にヨエルに言われたとおり、サーシャは笑顔で獣人国の国民に手を振る。
クレムス王国の人間たちは皆獣人を恐れていたけど、獣人たちは人間の花嫁を歓迎してくれているらしかった。
侍女たちの話によると、昨年国王夫妻が亡くなってから国全体が暗い気分に覆われていたそうだ。そこへ今回新国王が妻を娶ることになり、皆が明るい話題に心を踊らせているという。

(お父さんは獣人たちが人間を憎んでるなんて言ってたけど、そんなことはなさそうでよかった……)
そう思いつつサーシャは隣で同じように手を振る夫の横顔を盗み見た。
サーシャは前世の頃から動物には特に好かれるタイプで、王宮の使用人たちともすぐに打ち解けたし皆親切にしてくれている。
(――したけどイデオン様だけは僕に冷たいんだよね)

最初に対面したとき以来、今日大聖堂で隣に並ぶまでイデオンとはほとんど顔を合わせていなかった。お互いの衣装合わせで少し同じ部屋にいただけで、話しかけてもあまりこちらと目を合わせてくれなかった。
(仲良くしたいのに、今のところ完全に人質として送り込まれただけのお飾り嫁って扱いだよね。陛下、やっぱり僕のことが嫌いなんだべか?)

とはいえこの後には結婚初夜が待っている。
男同士で、しかも相手が獣人でどのように子どもを授かるのかサーシャはわかっていなかったがやる気だけは満々だった。
(まぁ、陛下がわかってるはずだからきっとなんとかなるっしょ!)

パレードが王宮に到着し、バルコニーから二人で広場の観衆に向かって手を振る。ここでもキスをする予定だったけど、イデオンはさっきのことを警戒してかキスするフリだけして唇は重ねなかった。サーシャの腰を抱き寄せて覆いかぶさり、皆にはわからないように唇が触れる寸前で体を離した。すると歓声がワッと湧き起こった。皆、仲睦まじく見える新しい国王夫妻の様子を喜んでいるのだ。

しかしキスを寸止めされたサーシャの耳にはその歓声が虚しく響いた。
(なんか胸がひゃっこくて、ウールのコートを着てるのに寒い……。さっき飲んだ薬湯がハッカみたいな味だったからかな?)


――――――――

【みったくない】→みっともないの意味。
【こわい】→苦しいの意味。
【ひゃっこい】→冷たいの意味。
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