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9.挙式中に花嫁発情?
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クレムス王国から来た花嫁サーシャがグエルブ王国に到着した四日後に結婚式は執り行われた。
当日は王都の大聖堂で挙式後、城までのパレードが予定されていた。
挙式の途中までは問題も起きず順調に進んでいた。
荘厳な石造りの聖堂。身廊に敷かれたレッドカーペットを歩く花嫁衣装のサーシャは、彼との結婚をよく思っていないイデオンの気持ちすら高揚させるほど美しかった。
グエルブ王国式のウール素材の白いロングコートは銀色の刺繍と無数のダイヤモンドで装飾されている。ベールで顔の上半分が隠れていてもわかる清楚な美しさに、列席者たちは息を呑んだ。
イデオンは自分の容姿を誇っている。父から受け継いだ太い眉と屈強な肉体。母から受け継いだホワイトアッシュブロンドの髪とブルーの瞳。挙式では瞳と同じ色の軍服を身にまとっていた。そんな自分が伴侶としてサーシャの隣に並ぶと、こちらのほうが引き立て役になっているような気さえするのだった。
誓いの言葉の後指輪を交換する。サーシャの手はひんやりとしていて、指は白魚のようだった。こんなちっぽけな指輪が本当に入るのか? と思うほど小さな結婚指輪だったが彼の薬指にぴったりとはまった。
(この手では狩りになど一度も出たことがないだろうな――)
そして誓いのキスのためベールを上げた。大きな鳶色の瞳で上目遣いに見つめられると、たとえこれが単なる人質婚にすぎないのだとしてもアルファの本能で「このオメガを守らなければ」という気にさせられる。
口づけをし、その爽やかな甘い香りと唇の柔らかさに一瞬我を忘れそうになった。イデオンが唇を離してサーシャの顔を見ると、彼は真っ赤になって異様に艶めかしいフェロモン香を撒き散らし始めた。
(せっかく順調だったというのに、なんてことを――!)
「おい、こんな神聖な場でもそうやっていやらしい匂いを振りまいて俺を誘惑しようとするのはやめろ」
神父にも聞こえないくらいの声で囁く。するとサーシャは涙目になって小さく首を振った。
この香りが列席者たちにまで届くのは時間の問題。中にはアルファもいる――。何より、イデオンの弟ミカルはまだ4歳だがアルファなのだ。こんな匂いを幼い彼にかがせるわけにはいかないとイデオンは焦った。
段取りとして、まだ神父が喋っている最中だったがイデオンは花嫁を抱き上げてものすごい速さで大聖堂の身廊を突っ切り拝廊奥の塔へ進む。
途中すれ違った列席者が驚いた顔でこちらを見ていたが気にしている場合ではなかった。
「あの、イデオン様。もう終わったのですか?」
イデオンの腕の中で目をパチクリさせたサーシャが言う。
「お前が発情フェロモンを垂れ流しているからだ。これからパレードで国民の前に出なければならないというのに、どういうつもりだ?」
「ご、ごめんなさい……僕ほんとにそんなつもりでなくて――」
塔の中の小部屋に入り、サーシャを木の椅子に降ろす。するとイデオンたちの後を追ってヨエルがやって来た。
「陛下、いかがなさいましたか?」
「サーシャが発情しかけてフェロモンを出している。薬湯を持ってきてくれ」
「かしこまりました」
サーシャは赤い顔で息苦しそうにしていた。このまま同じ部屋にいればイデオンまで発情しかねないため外へ出る。
しばらく部屋の外で待っているとヨエルがオメガのフェロモンを抑える効果のある薬湯を持って戻ってきた。
「式はあれで大丈夫だな?」
「はい。神父様がなんとかうまくまとめましたので問題ありません。馬車は聖堂の外で待たせてあります」
イデオンはドアを開けて、離れた位置から花嫁に声を掛ける。
「サーシャ、薬を飲め。それを飲めば落ち着くだろう」
彼は本当にわざとではなかったのか、しょんぼりした様子でヨエルから薬湯を受け取り飲み干した。
「僕のせいで申し訳ないです……」
「お前は発情周期を把握していないのか? どうして発情期が近いと言わなかった」
「それは――あの、知らなくて。じゃなくて忘れてたもんで……」
(発情期を忘れていただと? アルファに嫁ぐオメガにそんなことがあり得るのか?)
「まあいい。落ち着いたらパレードだ。俺は先に戻って親族の相手をしてこよう。ヨエル、頼んだぞ」
「お任せください陛下」
当日は王都の大聖堂で挙式後、城までのパレードが予定されていた。
挙式の途中までは問題も起きず順調に進んでいた。
荘厳な石造りの聖堂。身廊に敷かれたレッドカーペットを歩く花嫁衣装のサーシャは、彼との結婚をよく思っていないイデオンの気持ちすら高揚させるほど美しかった。
グエルブ王国式のウール素材の白いロングコートは銀色の刺繍と無数のダイヤモンドで装飾されている。ベールで顔の上半分が隠れていてもわかる清楚な美しさに、列席者たちは息を呑んだ。
イデオンは自分の容姿を誇っている。父から受け継いだ太い眉と屈強な肉体。母から受け継いだホワイトアッシュブロンドの髪とブルーの瞳。挙式では瞳と同じ色の軍服を身にまとっていた。そんな自分が伴侶としてサーシャの隣に並ぶと、こちらのほうが引き立て役になっているような気さえするのだった。
誓いの言葉の後指輪を交換する。サーシャの手はひんやりとしていて、指は白魚のようだった。こんなちっぽけな指輪が本当に入るのか? と思うほど小さな結婚指輪だったが彼の薬指にぴったりとはまった。
(この手では狩りになど一度も出たことがないだろうな――)
そして誓いのキスのためベールを上げた。大きな鳶色の瞳で上目遣いに見つめられると、たとえこれが単なる人質婚にすぎないのだとしてもアルファの本能で「このオメガを守らなければ」という気にさせられる。
口づけをし、その爽やかな甘い香りと唇の柔らかさに一瞬我を忘れそうになった。イデオンが唇を離してサーシャの顔を見ると、彼は真っ赤になって異様に艶めかしいフェロモン香を撒き散らし始めた。
(せっかく順調だったというのに、なんてことを――!)
「おい、こんな神聖な場でもそうやっていやらしい匂いを振りまいて俺を誘惑しようとするのはやめろ」
神父にも聞こえないくらいの声で囁く。するとサーシャは涙目になって小さく首を振った。
この香りが列席者たちにまで届くのは時間の問題。中にはアルファもいる――。何より、イデオンの弟ミカルはまだ4歳だがアルファなのだ。こんな匂いを幼い彼にかがせるわけにはいかないとイデオンは焦った。
段取りとして、まだ神父が喋っている最中だったがイデオンは花嫁を抱き上げてものすごい速さで大聖堂の身廊を突っ切り拝廊奥の塔へ進む。
途中すれ違った列席者が驚いた顔でこちらを見ていたが気にしている場合ではなかった。
「あの、イデオン様。もう終わったのですか?」
イデオンの腕の中で目をパチクリさせたサーシャが言う。
「お前が発情フェロモンを垂れ流しているからだ。これからパレードで国民の前に出なければならないというのに、どういうつもりだ?」
「ご、ごめんなさい……僕ほんとにそんなつもりでなくて――」
塔の中の小部屋に入り、サーシャを木の椅子に降ろす。するとイデオンたちの後を追ってヨエルがやって来た。
「陛下、いかがなさいましたか?」
「サーシャが発情しかけてフェロモンを出している。薬湯を持ってきてくれ」
「かしこまりました」
サーシャは赤い顔で息苦しそうにしていた。このまま同じ部屋にいればイデオンまで発情しかねないため外へ出る。
しばらく部屋の外で待っているとヨエルがオメガのフェロモンを抑える効果のある薬湯を持って戻ってきた。
「式はあれで大丈夫だな?」
「はい。神父様がなんとかうまくまとめましたので問題ありません。馬車は聖堂の外で待たせてあります」
イデオンはドアを開けて、離れた位置から花嫁に声を掛ける。
「サーシャ、薬を飲め。それを飲めば落ち着くだろう」
彼は本当にわざとではなかったのか、しょんぼりした様子でヨエルから薬湯を受け取り飲み干した。
「僕のせいで申し訳ないです……」
「お前は発情周期を把握していないのか? どうして発情期が近いと言わなかった」
「それは――あの、知らなくて。じゃなくて忘れてたもんで……」
(発情期を忘れていただと? アルファに嫁ぐオメガにそんなことがあり得るのか?)
「まあいい。落ち着いたらパレードだ。俺は先に戻って親族の相手をしてこよう。ヨエル、頼んだぞ」
「お任せください陛下」
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