【完結】転生花嫁と雪豹α王の人質婚〜北海道民の記憶持ちΩは寒さに強くてもふもふ好き〜

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7.雪豹王はご機嫌斜め

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白い影だと思ったのは雪豹獣人だった。白いシャツの襟を立ててクラヴァットを巻き、白いキュロットを履いている。彼はものすごい勢いでツカツカと歩み寄って来た。

「貴様、何をしている!」
「へ……?」

それを見たヨエルは「陛下」とつぶやき、びっくりして固まっているサーシャの体をさっと引き剥がした。すると長身の美男子がサーシャの全身を値踏みするように睨め回した。
(陛下? ってことはこの方が僕の旦那様……?)
上から見下ろされ、かがみ込んで下から見上げられ、左右も背中側もぐるっと回って確認される。ピリピリするくらいの鋭い視線にさらされ、サーシャはおろおろしてしまう。
(な、なしたの……?) 
身をすくめていると、今度はイデオンが首や頬の辺りまで顔を寄せてきて匂いをクンクン嗅いでくる。

(あ! そうか。陛下は獣人だから初対面の僕のことを警戒して探ってるんだ――)
それに気づいたサーシャは前世で動物たちと接していたときのことを思い出して全身の力を抜いた。静かに呼吸し、相手に敵だと思われないようにじっと動かずに黙って彼のしたいようにしてもらう。

するとイデオンが検分を終えたのか、すっと背筋を伸ばしてこちらに問いかけた。

「お前がサーシャ・レーヴェニヒか」
「は、はいっ」

(うわぁ~! なまらイケメンだし声も低くてかっこいい……前世の牧場に取材に来た芸能人を何人か見たけど、こんな綺麗な顔の男の人見たの初めて……これが雪豹獣人なんだ)
光が当たると銀色に輝く白に近いブロンドの髪。その頭上には雪豹特有の白と黒の毛に覆われた耳。そしてなんと言ってもサーシャの目を奪ったのが彼の引き締まったお尻から伸びる太くて長い尻尾だ。
(想像の何倍ももっふもふだぁ……。背がでっけぇからその分尻尾も長いんだ……触ってみたいなぁ……)
見事な毛並みの尻尾にため息が出る。つい見惚れていたらイケメンボイスでピシャリと言われた。

「お前はどういうつもりなんだ?」
「はい?」
「ここへ何をしに来たのかと聞いてるんだ」

(あ、そうえばそうだった。お父さんにちゃんとご挨拶してなるべく気に入られるようにしろって言われてたんだっけ)

「僕はクレムス国王の親族で、ウルムブルク公フランツ・レーヴェニヒの息子、サーシャと申します。陛下のお嫁になるってことではるばるやって来ました! ふつつか者ですがよろしくお願いします」

サーシャは深々と頭を下げた。

「サーシャ、お前は俺の嫁になるつもりで来たというのにどうしてヨエルに抱きついていた?」
「はい?」
「やれやれ、人間というのは言葉もろくに通じないのか? なぜそんな甘い匂いをさせたまま他の男にべたべた触っているのかと聞いてるんだ」

男らしく太い眉をキリッと吊り上げ、青い目を光らせたイデオンに睨まれる。
(怒った顔も綺麗だけどおっかないなぁ。でもなんで怒ってるんだろ?)

「あの……ヨウちゃんとは挨拶がてらハグしてただけで別に匂いとかそういうのは僕ちょっとわからないんだけども……」

サーシャが答えると雪豹王は大きなため息をついた。

「その香りがわからないだと? しらばっくれても無駄だ。お前がクレムス王に言われて俺のことを誘惑し腑抜ふぬけにしようとしていることはわかっているんだからな」
「へ? 誘惑……?」

ぽかんとするサーシャに対してイデオンは更に言う。

「まさか俺だけでなく従僕まで誘惑しようとするとはな。だが残念ながらそのヨエルはベータだからお前のフェロモンは効かない。城の中でもお前が過ごすこの区域に仕える者はオメガとベータに限定している。その匂いは俺たちアルファにしか通用しないんだから、いくらフェロモンを振りまいても無駄だぞ」
 
(えっとつまりアルファの陛下にとっては有効なフェロモンが出てるってことか。それはつがいになるのに大事だもん、いいことだよね!)
サーシャはぱっと顔をほころばせた。

「使用人のことまで気にしてくださってありがとうございます。したらば僕の匂いはここではイデオン様にとってだけ効果があるってことですね。いい匂いですか?」
「なに?」
「陛下が僕の匂いを気に入ってくれたなら嬉しいんだけども」
「それは――と、とにかく俺以外の男にみだりに触れるなということだ!」

顔を赤くして言いつけるイデオンに対しサーシャは答える。

「はい、わかりました。陛下以外の男性にはハグしたらだめだってことですね! それじゃあ陛下にご挨拶のハグをさせてもらってもいいべか?」

(お父さんも仲良くしろって言ってたし、どさくさに紛れて尻尾触らせてもらえないかなーなんて)
サーシャが微笑みながら両手を広げるとイデオンがますます赤い顔をして後ずさった。

「おい、やめろ。そういう目で俺を見るな、近寄るな」
「なんでですか? 陛下に触るのもだめなんですか?」
「お前……そうやって可愛い顔して笑っていれば俺を好きに操れるとでも思っているんだろう? しかしそうはいかないからな」
「あの、イデオン様。なんも変なことは考えてないですよ。僕はただ仲良くなりたいなって思ってるだけで……」

(目を見てるともうそんなに警戒してる感じじゃないのに、なして嫌がられるんだべか。動物とはできるだけスキンシップしたほうが仲良くなれるはずなんだけどもなぁ……獣人は動物とは違うってこと?)

「そういうつまらん演技は不要だ。とにかく我が国の王妃になるんだからふしだらな真似はよすんだ。いいな?」
「はい……」

それだけ言うと陛下はさっさと部屋を出て行ってしまった。
部屋に残されたサーシャはヨエルに勧められて椅子に腰掛ける。

「只今お茶を用意させますね」
「うん、ありがとう」

サーシャはため息をついた。

「はぁ、陛下ってお綺麗な方なんだねえ。びっくりした」
「そうですね」
「でも怒らせちゃったみたい……僕何か無礼なことでもしたんだべか」
「そんなことはありませんよ」
「僕の匂いが嫌だとか、態度が気に入らなかったんでないかなぁ?」
「サーシャ様。陛下は照れていらっしゃるんです」

(そうかなぁ。お父さんは僕の見た目はきっとイデオン様も気に入るはずっておっしゃったし積極的に仲良くしろってことだったんだけども……あの様子は嫌われてるんでないのかな? 人間の美的感覚と獣人の感覚が全然違うとか?)

「さあ、お茶の用意ができました。長旅でお疲れでしょうからゆっくりなさってください」

いい香りのするハーブティーだ。猫舌のサーシャはふうふう冷ましながらお茶を飲む。

「ああ美味しい。ヨエル、さっきはごめんね急に抱きついたりして。知らなかったんだ、獣人の国では夫以外にハグしちゃだめだなんて」
「え? ああ……大丈夫です。そんなルールはございませんので」
「そうなの?」
「ええ。陛下はサーシャ様が他の男性に触れるのがお嫌だったんでしょう。私も不注意でした。今度から気をつけます」

(そっかぁ。でも、子どもを授かるにはもっと仲良くならないとな)
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