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1.プロローグ
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グエルブ王国の大聖堂祭壇前。
サーシャ・レーヴェニヒは他国から花嫁となるためやって来た初めての人間として、新郎である雪豹獣人の王イデオン・ヘレニウスの隣に立っていた。
「イデオン・ヘレニウス。あなたは病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、伴侶を慈しみ、敬い、永遠に愛することを誓いますか?」
神父の問いに、サーシャの隣に立つ屈強な新郎が答える。
「誓います」
神父は次にこちらに向かって問う。
「サーシャ・レーヴェニヒ。あなたは病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、伴侶を慈しみ、敬い、永遠に愛することを誓いますか?」
サーシャは深呼吸して「誓います」とはっきりと答えた。
「それでは指輪の交換を」
イデオン王が男性にしては華奢なサーシャの手を取り、指輪をつけてくれる。獣人は基本的に人間よりも体格が良くて、彼の身長も2メートルはあろうかというほどだ。だから新郎の顔を窺おうと思うとサーシャはかなり見上げなければならない。
(おっきいなぁ。僕は前世のときより背がちゃんこくなったから170センチもないし、うらやましい)
ホワイトアッシュブロンドの髪の毛。頭の上には獣人であることを示す毛の生えた耳。白銀の毛に少し黒い毛が混じっている。スラリと伸びた長い脚。そして引き締まった尻から生えた尻尾も耳と同じく白銀の毛に黒い斑点模様だ。太くて長くてもふもふしていて、サーシャから見ると頬ずりしてみたくなるような質感。
(したけどまだそこまで仲良くなってないから、触らせてもらうのはまた今度――)
うつむいたイデオンの銀色に輝くまつ毛に見惚れているうち、彼が指輪をつけ終えた。こちらを見つめた目は快晴の空みたいなブルーだ。
(――怒った顔はおっかないけど、なんまらかっこいい。僕なんかがお嫁さんでほんとにいいのかな?)
彼は無言で大きくて節くれ立った手を突き出してくる。サーシャは彼の手を取って指輪をつけた。温かくて頼りがいのある手だとサーシャは思った。
「誓いの口付けを」
サーシャが頭を下げると雪豹の王がベールを上げ、花嫁の肩に手を乗せた。
(――神様どうか、イデオン様にこれ以上嫌われませんよーに!)
長身のイデオンがぐっと背を屈め、唇同士が重なる寸前サーシャは目を閉じた。前世では家の手伝いで忙しく女の子とつき合ったこともなかった。なのに人生初キスの相手が男の人か――とサーシャは複雑な思いで誓いのキスを受ける。
(――ってこれ、思ったより恥ずかしいんでない……!?)
大勢に見られているし、顔から火が出そうになる。前世では罰ゲームで男子生徒から頬にキスされたことはあった。どうせ男同士だしこんな形式的なキスなんてどうってことないと思っていた。しかし……。
(元のサーシャとしての感覚も残ってるから、恥ずかしいやら嬉しいやらでもう気持ちがわやになってる――!)
しかも新郎のいい匂いにくらくらして、妙に身体が火照ってきた。するとイデオンがぼそっと耳元で言う。
「おい、こんな神聖な場でもそうやっていやらしい匂いを振りまいて俺を誘惑しようとするのはやめろ」
「えっ?」
(――なんも、僕はそんなつもりでないんだって!)
この世界でサーシャはオメガという性別らしい、というのは先日知った。
(オメガには”フェロモン”ってのがあるらしいけど、勝手に出らさるだけで僕が意識してやってるんでないんだからしょうがないしょや……)
どうしたら良いかわからなくてサーシャは息を止めてみる。しかしこちらは匂いがしなくても向こうは相変わらず匂いがするようで、イデオンは端正な顔をしかめてサーシャのことを睨んでくる。
(――ああもう、ちゃんと夫婦になれるかな? 僕、イデオン様の赤ちゃん産んで借金返済しないばならないのに……!)
サーシャ・レーヴェニヒは他国から花嫁となるためやって来た初めての人間として、新郎である雪豹獣人の王イデオン・ヘレニウスの隣に立っていた。
「イデオン・ヘレニウス。あなたは病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、伴侶を慈しみ、敬い、永遠に愛することを誓いますか?」
神父の問いに、サーシャの隣に立つ屈強な新郎が答える。
「誓います」
神父は次にこちらに向かって問う。
「サーシャ・レーヴェニヒ。あなたは病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、伴侶を慈しみ、敬い、永遠に愛することを誓いますか?」
サーシャは深呼吸して「誓います」とはっきりと答えた。
「それでは指輪の交換を」
イデオン王が男性にしては華奢なサーシャの手を取り、指輪をつけてくれる。獣人は基本的に人間よりも体格が良くて、彼の身長も2メートルはあろうかというほどだ。だから新郎の顔を窺おうと思うとサーシャはかなり見上げなければならない。
(おっきいなぁ。僕は前世のときより背がちゃんこくなったから170センチもないし、うらやましい)
ホワイトアッシュブロンドの髪の毛。頭の上には獣人であることを示す毛の生えた耳。白銀の毛に少し黒い毛が混じっている。スラリと伸びた長い脚。そして引き締まった尻から生えた尻尾も耳と同じく白銀の毛に黒い斑点模様だ。太くて長くてもふもふしていて、サーシャから見ると頬ずりしてみたくなるような質感。
(したけどまだそこまで仲良くなってないから、触らせてもらうのはまた今度――)
うつむいたイデオンの銀色に輝くまつ毛に見惚れているうち、彼が指輪をつけ終えた。こちらを見つめた目は快晴の空みたいなブルーだ。
(――怒った顔はおっかないけど、なんまらかっこいい。僕なんかがお嫁さんでほんとにいいのかな?)
彼は無言で大きくて節くれ立った手を突き出してくる。サーシャは彼の手を取って指輪をつけた。温かくて頼りがいのある手だとサーシャは思った。
「誓いの口付けを」
サーシャが頭を下げると雪豹の王がベールを上げ、花嫁の肩に手を乗せた。
(――神様どうか、イデオン様にこれ以上嫌われませんよーに!)
長身のイデオンがぐっと背を屈め、唇同士が重なる寸前サーシャは目を閉じた。前世では家の手伝いで忙しく女の子とつき合ったこともなかった。なのに人生初キスの相手が男の人か――とサーシャは複雑な思いで誓いのキスを受ける。
(――ってこれ、思ったより恥ずかしいんでない……!?)
大勢に見られているし、顔から火が出そうになる。前世では罰ゲームで男子生徒から頬にキスされたことはあった。どうせ男同士だしこんな形式的なキスなんてどうってことないと思っていた。しかし……。
(元のサーシャとしての感覚も残ってるから、恥ずかしいやら嬉しいやらでもう気持ちがわやになってる――!)
しかも新郎のいい匂いにくらくらして、妙に身体が火照ってきた。するとイデオンがぼそっと耳元で言う。
「おい、こんな神聖な場でもそうやっていやらしい匂いを振りまいて俺を誘惑しようとするのはやめろ」
「えっ?」
(――なんも、僕はそんなつもりでないんだって!)
この世界でサーシャはオメガという性別らしい、というのは先日知った。
(オメガには”フェロモン”ってのがあるらしいけど、勝手に出らさるだけで僕が意識してやってるんでないんだからしょうがないしょや……)
どうしたら良いかわからなくてサーシャは息を止めてみる。しかしこちらは匂いがしなくても向こうは相変わらず匂いがするようで、イデオンは端正な顔をしかめてサーシャのことを睨んでくる。
(――ああもう、ちゃんと夫婦になれるかな? 僕、イデオン様の赤ちゃん産んで借金返済しないばならないのに……!)
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