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4.決断
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まだ少し頭が痛かったけど、父に呼ばれて仕方なく身支度を整えサーシャは書斎へ向かう。
「昨日火事があったときに倒れたと聞いたが、体調はどうだ?」
「なんもさ。この辺がいずいけどもうなんともないわ」
サーシャはフリルの多いブラウスの上にえんじ色のベストを着ている。そのみぞおち辺りを撫でた。すると父が眉間にシワを寄せて聞き返してくる。
「いずい……?」
(しまった。つい前世の口調でしゃべってた! お父さんの前では標準語しゃべらんば)
「あ! えーっと。もう大丈夫ということです」
サーシャはにこっと笑ってごまかした。
「そうか。それならいいが……。で、昨日の件だ。具合が悪いのはわかっているが、先方から催促が来ているんだ。しかも火事のせいで修繕費のことまで考えねばならん――サーシャ、どちらを選ぶ?」
「どちら……?」
(――なんでしたっけ?)
サーシャの頭の中では前世の記憶と現世の記憶が入り混じっていた。
「しっかりしてくれサーシャ。縁談だ。ヴァレンティ男爵にするか? それともまさか北の国の雪豹王に嫁ぐだなんて言わないだろうね?」
(あ~! そういえばそんなこと言われてた気がする。縁談って僕が結婚するってことでしょ。うーん、ヴァレンティ男爵みたいなはんかくさい相手、お嫁に行くのは嫌だってサーシャの心の声が言ってる。でも男同士で縁談が来るってなまらすげぇなぁこの世界)
「サーシャ、北の国は遠いし寒いぞ。しかもお前は犬も怖がるくらい動物が苦手だろう? 獣人はバケモノのように大きくて野蛮だし、お嫁に行って大事にされるかもわからない。そんなところへ可愛いお前を嫁がせるのは私も気が引けるんだ。雪豹だけじゃないぞ。今の宰相は狼獣人だし、グエルブ王国にはキツネや虎やヤギ、羊の獣人だらけでお前には耐えられないだろう?」
(でも雪豹って前世の動物園で見たことあるもふもふの豹だべさ? あれ一回触ってみたいと思ってたんだよ~! しかもホッカイドウ民の記憶を手に入れた僕なら寒いところは慣れてるし、羊の面倒見るのは得意。動物みんな大好きだし、もしかして人間の貴族のおっちゃんとこさ嫁いで無理くりお行儀よくするよりも楽しいんでないか?)
ヴァレンティ男爵のことは断片的に記憶に残っていた。彼との縁談はミノルの記憶があったとしてもやはり遠慮したいとサーシャは思った。
(――うん、決めた!)
「お父さん。僕、北の国へ行きます! 雪豹王に嫁ぎます」
「お、おい、本気か? サーシャ、わがクレムス国王は雪豹王との子どもを授からないと報奨金はくれないと言っているんだぞ。つまりどういうことかわかっているか?」
「え、子どもができるの!?」
「一体どうしたんだ、今日はなんだか変だぞサーシャ。お前はオメガだから獣人相手でもアルファの子なら産むことができる。だから国王から頼まれたんじゃないか」
(ええ~!? 男同士で子どもできるとかわやすぎるべさこの世界!)
内心驚きながらサーシャは答える。
「あ、ああ、そうでしたね。倒れたせいでちょっと頭が混乱してるみたいです。でも、大丈夫です。僕ちゃんと雪豹王との赤ちゃんができるように頑張ります!」
父は疑わしげな顔をしていたが、サーシャはそのままグエルブ王国への嫁入りを決めて書状にサインした。
――――――――
【いずい】→居心地悪い、気持ち悪いなどの意味。
【はんかくさい】→性格悪い、愚かな、馬鹿みたい、非常識な……などの意味。
「昨日火事があったときに倒れたと聞いたが、体調はどうだ?」
「なんもさ。この辺がいずいけどもうなんともないわ」
サーシャはフリルの多いブラウスの上にえんじ色のベストを着ている。そのみぞおち辺りを撫でた。すると父が眉間にシワを寄せて聞き返してくる。
「いずい……?」
(しまった。つい前世の口調でしゃべってた! お父さんの前では標準語しゃべらんば)
「あ! えーっと。もう大丈夫ということです」
サーシャはにこっと笑ってごまかした。
「そうか。それならいいが……。で、昨日の件だ。具合が悪いのはわかっているが、先方から催促が来ているんだ。しかも火事のせいで修繕費のことまで考えねばならん――サーシャ、どちらを選ぶ?」
「どちら……?」
(――なんでしたっけ?)
サーシャの頭の中では前世の記憶と現世の記憶が入り混じっていた。
「しっかりしてくれサーシャ。縁談だ。ヴァレンティ男爵にするか? それともまさか北の国の雪豹王に嫁ぐだなんて言わないだろうね?」
(あ~! そういえばそんなこと言われてた気がする。縁談って僕が結婚するってことでしょ。うーん、ヴァレンティ男爵みたいなはんかくさい相手、お嫁に行くのは嫌だってサーシャの心の声が言ってる。でも男同士で縁談が来るってなまらすげぇなぁこの世界)
「サーシャ、北の国は遠いし寒いぞ。しかもお前は犬も怖がるくらい動物が苦手だろう? 獣人はバケモノのように大きくて野蛮だし、お嫁に行って大事にされるかもわからない。そんなところへ可愛いお前を嫁がせるのは私も気が引けるんだ。雪豹だけじゃないぞ。今の宰相は狼獣人だし、グエルブ王国にはキツネや虎やヤギ、羊の獣人だらけでお前には耐えられないだろう?」
(でも雪豹って前世の動物園で見たことあるもふもふの豹だべさ? あれ一回触ってみたいと思ってたんだよ~! しかもホッカイドウ民の記憶を手に入れた僕なら寒いところは慣れてるし、羊の面倒見るのは得意。動物みんな大好きだし、もしかして人間の貴族のおっちゃんとこさ嫁いで無理くりお行儀よくするよりも楽しいんでないか?)
ヴァレンティ男爵のことは断片的に記憶に残っていた。彼との縁談はミノルの記憶があったとしてもやはり遠慮したいとサーシャは思った。
(――うん、決めた!)
「お父さん。僕、北の国へ行きます! 雪豹王に嫁ぎます」
「お、おい、本気か? サーシャ、わがクレムス国王は雪豹王との子どもを授からないと報奨金はくれないと言っているんだぞ。つまりどういうことかわかっているか?」
「え、子どもができるの!?」
「一体どうしたんだ、今日はなんだか変だぞサーシャ。お前はオメガだから獣人相手でもアルファの子なら産むことができる。だから国王から頼まれたんじゃないか」
(ええ~!? 男同士で子どもできるとかわやすぎるべさこの世界!)
内心驚きながらサーシャは答える。
「あ、ああ、そうでしたね。倒れたせいでちょっと頭が混乱してるみたいです。でも、大丈夫です。僕ちゃんと雪豹王との赤ちゃんができるように頑張ります!」
父は疑わしげな顔をしていたが、サーシャはそのままグエルブ王国への嫁入りを決めて書状にサインした。
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【いずい】→居心地悪い、気持ち悪いなどの意味。
【はんかくさい】→性格悪い、愚かな、馬鹿みたい、非常識な……などの意味。
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