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番外編 遼太が頑張るifバージョン
悪夢のような恋人たち 【遼太】(4)
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舌で彼の胸の先端をつつくと、彼は小さく悲鳴を上げてのけ反った。
もう諦めたのか、だめだとは言わなくなった。その代り、俺の肩を不安そうにぎゅっと握りしめている。
「大丈夫ですよ。先輩は悪くない。して良いって言われてるんですから」
俺の言葉が聞こえているのかいないのか、舌使いに反応して彼は鼻にかかった声を漏らす。
「先輩を困らせてるのは彼氏さんです。だから今はつらいこと全部忘れて。俺に任せてください」
「ふ……ぁ……」
「どうしても嫌だったら止めてください」
「ぅ……キスして、遼太……」
――いいぞ。俺は胸を舐めるのをやめて眼鏡を外し、彼の顔を両手で包んだ。潤んだ瞳がこちらを見つめている。
抑えきれない欲望がその奥で揺らめくのを俺は見た。同時に、汗ばんだ彼の肌からほんのりと桃のような香りが漂ってくる。俺はその匂いを吸い込み、彼の唇を覆った。
甘い……なんて甘さだ。オメガとするのってこんな感じなのか――。舌が馬鹿になったのかと思うほど、彼の唾液も甘く感じられた。
俺はそれなりの人数の相手と経験してきたが、オメガとは寝たことが無かった。こっちがリードして彼を夢中にさせるつもりだったけど、油断をしたらこっちがやばいところまで引きずり込まれそうだった。
キスしながら彼のボトムスの前をくつろげる。既に硬さを増したそこを下着ごしに撫でると、彼は掠れた声で喘いだ。ボトムスを脱がせ、下着を下ろしながらふと思いついて尋ねる。
「先輩、ローションか何かあります?」
「ロー……? ない、そんなの無い」
しまった。さすがに今夜ここまですると思ってなかったから準備していない。
俺がちょっと動揺したのを悟って、彼が俺の手を取った。そのまま彼は半分脱げた下着を完全に下ろし、俺の手を尻の間に導いた。
「大丈夫だよ、ほら」
指先で触れるとそこは温かく濡れていた。少し力を入れると、ぬるりと指が滑り込んでいく。
「すご……」
「そんな驚かれたら恥ずかしい……。女みたいで嫌か?」
「いえ俺――オメガの相手としたことないってだけで……」
生唾を飲み込んだ俺の首に彼が両手を回した。
「きて」
先輩の囁きに首筋がゾクッとした。俺も下着を下ろし、自分のものを取り出した。
◇
「遼太って、アルファだったんだ」
ベッドの上で膝を抱えた先輩がぽつりと言う。
「豪への当てつけに誰かと寝るなんて考えたことも無かったし、そんなことしたら絶対後悔すると思ってた」
先輩はまた机の方を見つめていた。
「だけど、やってみたら――そんなことなかった。死ぬほど後悔するって思ってたのに……なんか、目が覚めた感じ」
「先輩……」
「遼太とするの気持ちよかった。思い出すと思ったのに、してる最中気持ちよくて豪のことなんて忘れてた。豪がくれる快感って、いつも罪悪感とセットなんだ。自分の罪悪感もだけど、豪の罪悪感を受け止めてるような……それでも僕のことを求めてくる豪に僕もすがってるっていうか……悪い、何言ってるかわかんないよな」
「いえ、なんとなくわかりますよ」
先輩がこっちを見て微笑む。
「――だけどそういうの全部抜きのセックス、気持ちよかった。遼太が上手いのもあるんだろうけど、なんか気持ちがすっとした。遼太はすごいね――なんで僕の求めてるものがわかるんだ?」
「いやそんな、わかるとかじゃないですけど……。ただ、先輩のことが好きなんです。それだけです」
俺はここで告白するつもりなんて無かったのに、つい本音を漏らしてしまった。
「好き……? でも、遼太は今好きな人いるって……」
「それ先輩のことです。先輩鈍感すぎですよ」
「え? 僕? だって、好きな人いるって僕と会ってすぐに言ってただろ」
「人を好きになるのに、そんな何年もかけないすよ」
「だって……でも……」
先輩は困った顔をしていた。
「好きになるのに理由が必要ですか? 運命じゃないと好きになっちゃいけないなんてルールどこにもないですよね」
「それはそうだけど……」
「先輩のこと、彼氏さんから横取りしようなんて思ってなかったです。だけど、俺――もう見てらんないです。先輩のこと助けちゃだめ?」
俺は彼の手を取った。彼はますます眉毛を下げ、なんと答えて良いかわからない様子で口ごもってしまった。
しばらく考え込んだ後に口を開く。
「僕、豪と別れてもいいのかな……」
「え?」
「僕が豪と別れたら、何も残らない。両親にもいよいよ勘当されるかもしれないな」
「別れられますよ。俺が手伝います。先輩が不安にならないように守りますよ」
俺は握っていた彼の手に力を込めた。
「……遼太が?」
「もし勘当されたら、俺とどっか旅に出ましょうよ。外国でも行ってワーホリで働くのもよくないですか。俺、バックパッカーであちこち行きましたけど海外出ると国内での悩みなんてどうでもよくなりますよ」
「そうなの?」
「先輩は閉じた世界で過ごしすぎてて、周りが見えてないんですよ」
この狭い部屋で、浮気した男が帰ってくるのを待つ人生から抜け出す必要がある。俺はこの人を外に連れ出してやりたかった。
「僕が豪をここで待ってたのが悪かったのかな……」
「先輩は悪くないですよ」
「いや、僕が浮気するのやめろって言って、そうじゃなきゃ別れるってちゃんと言えてたらこんなことになってなかった」
それはそうかもしれない。
「だけど、先輩が悪いんじゃないですよ。彼氏さんのやり方がまずいんです」
「ああ。お互い周りが見えてなかったかもしれない」
さっき先輩がシャワーを浴びている間に俺は彼が注視していた机を探った。いくつかの引き出しを開けてみると、ほとんどの引き出しはぐちゃぐちゃなのに、そこだけ一箇所整頓された段があった。その中には小さな箱がいくつか並べられており、開けてみると時計やアクセサリーが入っていた。先輩がアクセサリーの類を身に着けていたことは出会ってから一度もない。高価なブランド品ばかりのそれらを見て、間違いなく彼氏からのプレゼントだとわかった。数々の高価な贈り物。来る度に整理整頓の苦手な先輩の代わりに部屋を片付ける男。先輩をそうやってこの悪夢みたいな恋に縛り付ける男……。
「俺が先輩のこと何があっても守ります」
もう諦めたのか、だめだとは言わなくなった。その代り、俺の肩を不安そうにぎゅっと握りしめている。
「大丈夫ですよ。先輩は悪くない。して良いって言われてるんですから」
俺の言葉が聞こえているのかいないのか、舌使いに反応して彼は鼻にかかった声を漏らす。
「先輩を困らせてるのは彼氏さんです。だから今はつらいこと全部忘れて。俺に任せてください」
「ふ……ぁ……」
「どうしても嫌だったら止めてください」
「ぅ……キスして、遼太……」
――いいぞ。俺は胸を舐めるのをやめて眼鏡を外し、彼の顔を両手で包んだ。潤んだ瞳がこちらを見つめている。
抑えきれない欲望がその奥で揺らめくのを俺は見た。同時に、汗ばんだ彼の肌からほんのりと桃のような香りが漂ってくる。俺はその匂いを吸い込み、彼の唇を覆った。
甘い……なんて甘さだ。オメガとするのってこんな感じなのか――。舌が馬鹿になったのかと思うほど、彼の唾液も甘く感じられた。
俺はそれなりの人数の相手と経験してきたが、オメガとは寝たことが無かった。こっちがリードして彼を夢中にさせるつもりだったけど、油断をしたらこっちがやばいところまで引きずり込まれそうだった。
キスしながら彼のボトムスの前をくつろげる。既に硬さを増したそこを下着ごしに撫でると、彼は掠れた声で喘いだ。ボトムスを脱がせ、下着を下ろしながらふと思いついて尋ねる。
「先輩、ローションか何かあります?」
「ロー……? ない、そんなの無い」
しまった。さすがに今夜ここまですると思ってなかったから準備していない。
俺がちょっと動揺したのを悟って、彼が俺の手を取った。そのまま彼は半分脱げた下着を完全に下ろし、俺の手を尻の間に導いた。
「大丈夫だよ、ほら」
指先で触れるとそこは温かく濡れていた。少し力を入れると、ぬるりと指が滑り込んでいく。
「すご……」
「そんな驚かれたら恥ずかしい……。女みたいで嫌か?」
「いえ俺――オメガの相手としたことないってだけで……」
生唾を飲み込んだ俺の首に彼が両手を回した。
「きて」
先輩の囁きに首筋がゾクッとした。俺も下着を下ろし、自分のものを取り出した。
◇
「遼太って、アルファだったんだ」
ベッドの上で膝を抱えた先輩がぽつりと言う。
「豪への当てつけに誰かと寝るなんて考えたことも無かったし、そんなことしたら絶対後悔すると思ってた」
先輩はまた机の方を見つめていた。
「だけど、やってみたら――そんなことなかった。死ぬほど後悔するって思ってたのに……なんか、目が覚めた感じ」
「先輩……」
「遼太とするの気持ちよかった。思い出すと思ったのに、してる最中気持ちよくて豪のことなんて忘れてた。豪がくれる快感って、いつも罪悪感とセットなんだ。自分の罪悪感もだけど、豪の罪悪感を受け止めてるような……それでも僕のことを求めてくる豪に僕もすがってるっていうか……悪い、何言ってるかわかんないよな」
「いえ、なんとなくわかりますよ」
先輩がこっちを見て微笑む。
「――だけどそういうの全部抜きのセックス、気持ちよかった。遼太が上手いのもあるんだろうけど、なんか気持ちがすっとした。遼太はすごいね――なんで僕の求めてるものがわかるんだ?」
「いやそんな、わかるとかじゃないですけど……。ただ、先輩のことが好きなんです。それだけです」
俺はここで告白するつもりなんて無かったのに、つい本音を漏らしてしまった。
「好き……? でも、遼太は今好きな人いるって……」
「それ先輩のことです。先輩鈍感すぎですよ」
「え? 僕? だって、好きな人いるって僕と会ってすぐに言ってただろ」
「人を好きになるのに、そんな何年もかけないすよ」
「だって……でも……」
先輩は困った顔をしていた。
「好きになるのに理由が必要ですか? 運命じゃないと好きになっちゃいけないなんてルールどこにもないですよね」
「それはそうだけど……」
「先輩のこと、彼氏さんから横取りしようなんて思ってなかったです。だけど、俺――もう見てらんないです。先輩のこと助けちゃだめ?」
俺は彼の手を取った。彼はますます眉毛を下げ、なんと答えて良いかわからない様子で口ごもってしまった。
しばらく考え込んだ後に口を開く。
「僕、豪と別れてもいいのかな……」
「え?」
「僕が豪と別れたら、何も残らない。両親にもいよいよ勘当されるかもしれないな」
「別れられますよ。俺が手伝います。先輩が不安にならないように守りますよ」
俺は握っていた彼の手に力を込めた。
「……遼太が?」
「もし勘当されたら、俺とどっか旅に出ましょうよ。外国でも行ってワーホリで働くのもよくないですか。俺、バックパッカーであちこち行きましたけど海外出ると国内での悩みなんてどうでもよくなりますよ」
「そうなの?」
「先輩は閉じた世界で過ごしすぎてて、周りが見えてないんですよ」
この狭い部屋で、浮気した男が帰ってくるのを待つ人生から抜け出す必要がある。俺はこの人を外に連れ出してやりたかった。
「僕が豪をここで待ってたのが悪かったのかな……」
「先輩は悪くないですよ」
「いや、僕が浮気するのやめろって言って、そうじゃなきゃ別れるってちゃんと言えてたらこんなことになってなかった」
それはそうかもしれない。
「だけど、先輩が悪いんじゃないですよ。彼氏さんのやり方がまずいんです」
「ああ。お互い周りが見えてなかったかもしれない」
さっき先輩がシャワーを浴びている間に俺は彼が注視していた机を探った。いくつかの引き出しを開けてみると、ほとんどの引き出しはぐちゃぐちゃなのに、そこだけ一箇所整頓された段があった。その中には小さな箱がいくつか並べられており、開けてみると時計やアクセサリーが入っていた。先輩がアクセサリーの類を身に着けていたことは出会ってから一度もない。高価なブランド品ばかりのそれらを見て、間違いなく彼氏からのプレゼントだとわかった。数々の高価な贈り物。来る度に整理整頓の苦手な先輩の代わりに部屋を片付ける男。先輩をそうやってこの悪夢みたいな恋に縛り付ける男……。
「俺が先輩のこと何があっても守ります」
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