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番外編 遼太が頑張るifバージョン
悪夢のような恋人たち 【遼太】(2)
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「あれ……菅井?」
名前を呼ばれて目が覚めた。
あー……まずい。俺まで寝落ちしちゃったのか。眼鏡をしたまま眠ってしまって、耳が痛い。
「おはようございます」
「どうしたんだ? え、なんで……」
「先輩酔いつぶれてたんで送ったんです。帰ろうと思ったら、先輩が一緒に寝ようってしがみついて離さなかったんで」
「嘘。ごめん、迷惑かけて悪かった」
「いえ、俺も眠り込んじゃってすいません。帰ります」
「ごめんな……こんな部屋で寝させて」
先輩は部屋の惨状に目をやった。酷いという自覚はあるらしい。
「研究室の机見てるんで驚かないですよ」
「そう……」
立ち上がって上着を羽織る俺を彼はぼんやりと見ていた。俺は抱きつかれてドキドキしたのに、彼は俺の腕の中で目を覚ましても平気そうな顔だ。なんとなく面白くなくて、ちょっとだけ意地悪したくなった。
「ゴウさんって、恋人ですか?」
「え!?」
それまでこちらを見ているようで焦点が合っていなかった彼が急に目を見開いた。頬に赤みが差している。
「なんで豪のこと……」
「ゴウ行かないでって、俺のことその人と勘違いして抱きついてきましたから」
「マジか。本当にごめん。気持ち悪いことして」
「いえ? 可愛かったですよ。先輩そうやっていつも彼氏さんに甘えてるんすね」
俺がそう言うと彼は目を泳がせた。かなり動揺しているみたいだ。実験のこと以外何にも興味が無さそうに見えたのに、ゴウって人の話するだけでこんなに表情が変わるのか。
「うらやましいな。俺も好きな人にそんな風にされてみたいです」
「え?」
「俺、こんななんで。恋人もいないし……甘えられる相手がいるの羨ましいです」
先輩は俺の言葉を聞いてふっとため息混じりに笑った。
「菅井……僕も同じだよ。恋人はいるけど、上手くいってないんだ。本当なら、甘えられるといいんだろうけどな」
「そうなんですか?」
「うん。みっともない所見られたから正直に言うけど――」
先輩は彼氏とのことを話してくれた。俺が人畜無害に見えるからなのか、多少なりとも心を開く気になったからなのかはよくわからない。とにかく、先輩の彼氏は最低のクズ野郎だということはわかった。
「運命の番だからって、そんなの酷いじゃないですか」
「うん……そうかな。もう僕もよくわかんないんだ。豪としか付き合ったことないし」
「普通じゃないですよその人。先輩が可哀想だと思わないのかよ」
「ありがとう、僕のことなのにそんな怒ってくれるなんて思わなかった」
先輩が微笑む顔が痛々しくて胸が苦しくなった。俺はちょっとした意地悪気分でこの件をつついたことをちょっと後悔していた。
「先輩は、その人が好きなんですか?」
俺が聞くと彼はふと目を逸らして部屋の一角を見つめた。
「好きなんだ。どうしようもなく好きで……浮気されても、戻って来ると安心しちゃって。突き放せないんだ」
「先輩……だめだよそんなの」
「うん。自分でもわかってるんだけどな」
彼氏のやり方はほとんどDVみたいなものだ。こんな目に遭ってるせいでこの人こんな妙な雰囲気なのか。長い間、初めての恋人に大事なものを奪われ続けてるから、こんな複雑な匂いがするんだ。まだ青く、固くて食べられない果物の香りがするかと思えば、熟れすぎたフルーツのように甘くも香る。
俺を誘惑しようとして発せられるオメガの匂いは不快極まりないけど、この人は俺に興味がない。だから、俺はこの人への好奇心を抑えられないんだ。
名前を呼ばれて目が覚めた。
あー……まずい。俺まで寝落ちしちゃったのか。眼鏡をしたまま眠ってしまって、耳が痛い。
「おはようございます」
「どうしたんだ? え、なんで……」
「先輩酔いつぶれてたんで送ったんです。帰ろうと思ったら、先輩が一緒に寝ようってしがみついて離さなかったんで」
「嘘。ごめん、迷惑かけて悪かった」
「いえ、俺も眠り込んじゃってすいません。帰ります」
「ごめんな……こんな部屋で寝させて」
先輩は部屋の惨状に目をやった。酷いという自覚はあるらしい。
「研究室の机見てるんで驚かないですよ」
「そう……」
立ち上がって上着を羽織る俺を彼はぼんやりと見ていた。俺は抱きつかれてドキドキしたのに、彼は俺の腕の中で目を覚ましても平気そうな顔だ。なんとなく面白くなくて、ちょっとだけ意地悪したくなった。
「ゴウさんって、恋人ですか?」
「え!?」
それまでこちらを見ているようで焦点が合っていなかった彼が急に目を見開いた。頬に赤みが差している。
「なんで豪のこと……」
「ゴウ行かないでって、俺のことその人と勘違いして抱きついてきましたから」
「マジか。本当にごめん。気持ち悪いことして」
「いえ? 可愛かったですよ。先輩そうやっていつも彼氏さんに甘えてるんすね」
俺がそう言うと彼は目を泳がせた。かなり動揺しているみたいだ。実験のこと以外何にも興味が無さそうに見えたのに、ゴウって人の話するだけでこんなに表情が変わるのか。
「うらやましいな。俺も好きな人にそんな風にされてみたいです」
「え?」
「俺、こんななんで。恋人もいないし……甘えられる相手がいるの羨ましいです」
先輩は俺の言葉を聞いてふっとため息混じりに笑った。
「菅井……僕も同じだよ。恋人はいるけど、上手くいってないんだ。本当なら、甘えられるといいんだろうけどな」
「そうなんですか?」
「うん。みっともない所見られたから正直に言うけど――」
先輩は彼氏とのことを話してくれた。俺が人畜無害に見えるからなのか、多少なりとも心を開く気になったからなのかはよくわからない。とにかく、先輩の彼氏は最低のクズ野郎だということはわかった。
「運命の番だからって、そんなの酷いじゃないですか」
「うん……そうかな。もう僕もよくわかんないんだ。豪としか付き合ったことないし」
「普通じゃないですよその人。先輩が可哀想だと思わないのかよ」
「ありがとう、僕のことなのにそんな怒ってくれるなんて思わなかった」
先輩が微笑む顔が痛々しくて胸が苦しくなった。俺はちょっとした意地悪気分でこの件をつついたことをちょっと後悔していた。
「先輩は、その人が好きなんですか?」
俺が聞くと彼はふと目を逸らして部屋の一角を見つめた。
「好きなんだ。どうしようもなく好きで……浮気されても、戻って来ると安心しちゃって。突き放せないんだ」
「先輩……だめだよそんなの」
「うん。自分でもわかってるんだけどな」
彼氏のやり方はほとんどDVみたいなものだ。こんな目に遭ってるせいでこの人こんな妙な雰囲気なのか。長い間、初めての恋人に大事なものを奪われ続けてるから、こんな複雑な匂いがするんだ。まだ青く、固くて食べられない果物の香りがするかと思えば、熟れすぎたフルーツのように甘くも香る。
俺を誘惑しようとして発せられるオメガの匂いは不快極まりないけど、この人は俺に興味がない。だから、俺はこの人への好奇心を抑えられないんだ。
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