上 下
7 / 22

7.計画の立て直し

しおりを挟む
僕の婚約破棄計画はあえなく失敗。滉一が去った後、なんと言われたのかをミンジェに伝えたところでデートコースプランの時間が終わってしまい、僕たちも解散した。



「というわけで、今日は前回の反省会と次の作戦を練る会です」

僕とミンジェは最初に会った店――先輩アイドルオモニのカフェでまた膝を突き合わせていた。

「あはは。チカはまだ諦めてないんだね」
「諦めるわけないよ! まだチャンスは有る。あの人もうしばらくこっちに滞在すると言ってたから、もう一回くらいは仕掛けられると思うんだ」
「了解、最後まで協力するよ。前回あまり役に立てなかったしね」

そんなことない。ミンジェは役を適切に演じてくれた。だけど、相手が予想以上に手ごわかっただけだ。

「まず彼について把握できていることから――。最初に遭遇したとき、僕の顔を見ずにお尻だけ見て『もっと肉付きが良くないとそそられない』って失礼なことを言った。デリカシーのない人なのは間違いない」
「チカのことを韓国人だと勘違いして言葉が通じてないと思ったからだろ?」
「そうだけど。それにしても目の前にいる相手に、しかも初対面の相手のお尻をジロジロ見て品定めするなんて――」
「男はみんなそういうところあるからなぁ」
「いいから! とにかく彼はデリカシーがない。だって初対面のお見合い相手にいきなり子だくさんがいいからヒート起こす間もなく妊娠させるだなんて、頭どうかしてるよ!」
「たしかに、もし彼がそのとおり言ったならちょっとイカれてるね」
「ちょっとどころか相当おかしいよ。オメガに対して、あんな――……」

体力に自信あるとか、馬鹿じゃない?
アルファってどうしてこう、自分の精力旺盛なことを自慢げに話すかな。そういうのはオメガのいないところでやってくれよ。

「ごめんねチカ。オメガの君にとっては俺たちのこういう競争心みたいなのってうざいだろ」
「……なんでアルファってああも自分の力を誇示しようとするんだ?」
「魅力的なオメガを前にした場合、本能的にライバルのアルファより優位に立ちたくてそういう行動に出てしまうんだ」
「ミンジェでもそういうことあるの?」

穏やかな彼からは想像がつかない。僕が尋ねると、彼は困ったように眉を寄せて苦笑いした。

「そうだね。がっかりさせそうで悪いけど、俺もそういうことあるよ」

こんなに優しいミンジェの独占欲を掻き立てて、ライバルを蹴落とそうと思わせるようなオメガがいる――そう思うとなんとなく胸がチクっとした。

「とにかく、婚約者のコウイチはあれで君を完全にロックオンしたのは間違いない」
「そんなぁ」

――どこにロックオンする要素あったんだよ?

「同じアルファだからわかるよ。君の香りのせいか、見た目のせいか、言動のせいかわからないけど気に入られちゃったね」
「嫌われようと思ってしたことが裏目に出たってこと?」
「うーん、おしとやかそうなオメガに嫌な目にあったことがあるのかもな」
「じゃあ、次はおしとやかな猫かぶりのキャラでいく?」
「今更それは無理があるだろ」
「そうだよね……んー」
「ねえチカ。あの人そんなに悪い相手かな?」
「え?」

ミンジェが言葉を選ぶようにゆっくりと口を開く。

「俺の個人的な感想だから君は納得いかないかもしれない。だけど、俺は悪い印象じゃなかった」
「滉一さんが?」
「少なくとも嘘をついて騙そうとしたり、君を蔑ろにしようという感じはしなかった」
「そう? 失礼な印象しかないよ僕は」
「ちょっと言い方がキツいからそう感じるのかもしれない。だけど子どもの話だって、そもそも君の薬の効きが悪いってことに対するアンサーだろ? 実際結婚してつがいになればヒートは今よりずっと楽になるはずだ」

――たしかにつがいになり子どもができればオメガ的には安心とも言える。

オメガはヒート中にアルファによりうなじを噛まれると「つがい」の関係が成立する。そうするとそのオメガのフェロモンはつがいのアルファにしか効かなくなる。これはどちらかが死ぬまで続く関係だ。
そしてつがいのアルファとセックスすることで、ヒートの症状は抑えられる。薬を飲むよりずっと効果的な方法だった。
突発的なヒートにより見知らぬアルファに襲われる危険のあるオメガは、常にリスクを抱えながら生きている。しかしつがいを持つことができれば、格段に安全な生活を送ることができる。

「それはそうだけど……でも初対面なのにこんな話――」
「そもそも俺たちがセフレって設定をでっち上げてその話を振ったからじゃないか」
「あ~、そうだった」

失礼だったのはこっちの方か。

「もっと嫌な奴だったら俺も喜んで婚約破棄計画に協力するよ。だけど、この縁談も悪くなさそうだなって思ったんだ。急いでぶち壊す必要もないんじゃないかって」
「でも……」
「チカは大学三年だろ? ちゃんと話をしたら、彼も途中で退学させてまで結婚を急いだりはしないんじゃないのかな」
「だけど結局卒業後は日本に帰らないといけないじゃん」
「そうだね。だけど俺としても事情を知った今、オメガの君が一人でこっちにいるのがなんとなく心配になってきたんだよ。早いとこつがいに守ってもらったほうが良いんじゃないか?」
「え~。それじゃ本当にミンジェヒョンになっちゃったみたいじゃん!」

僕が笑うと、彼がちょっとせつなそうな表情を見せた。

「かもね。できればどんなオメガもアルファに怯えることなく自由に過ごして欲しいって思うよ」

ミンジェはさっきまでとはちがい、何か憂いを帯びたような視線を窓の外へ向けた。

――あれ? どうしたのかな。

もしかするとミンジェの過去にも何かあったのかもしれない。だけど客という立場でしかない自分には何も聞けなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つきαと偽りの番契約

ずー子
BL
オメガバース。年下攻。 「20歳までに番を見つけないと不幸になる」と言う占いを信じている母親を安心させるために、全く違いを作るつもりのないオメガの主人公セイア君は、とりあえず偽の番を作ることにします。アルファは怖いし嫌いだし、本気になられたら面倒だし。そんな中、可愛がってたけどいっとき疎遠になった後輩ルカ君が協力を申し出てくれます。でもそこには、ある企みがありました。そんな感じのほのぼのラブコメです。 折角の三連休なのに、寒いし体調崩してるしでベッドの中で書きました。楽しんでくださいませ♡ 10/26攻君視点書きました!

落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす
BL
 αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。  努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。  世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。  失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。  しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。  あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?  コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。  小説家になろうにも掲載。

【完結】利害が一致したクラスメイトと契約番になりましたが、好きなアルファが忘れられません。

亜沙美多郎
BL
 高校に入学して直ぐのバース性検査で『突然変異オメガ』と診断された時田伊央。  密かに想いを寄せている幼馴染の天海叶翔は特殊性アルファで、もう一緒には過ごせないと距離をとる。  そんな折、伊央に声をかけて来たのがクラスメイトの森島海星だった。海星も突然変異でバース性が変わったのだという。  アルファになった海星から「契約番にならないか」と話を持ちかけられ、叶翔とこれからも友達として側にいられるようにと、伊央は海星と番になることを決めた。  しかし避けられていると気付いた叶翔が伊央を図書室へ呼び出した。そこで伊央はヒートを起こしてしまい叶翔に襲われる。  駆けつけた海星に助けられ、その場は収まったが、獣化した叶翔は後遺症と闘う羽目になってしまった。  叶翔と会えない日々を過ごしているうちに、伊央に発情期が訪れる。約束通り、海星と番になった伊央のオメガの香りは叶翔には届かなくなった……はずだったのに……。  あるひ突然、叶翔が「伊央からオメガの匂いがする」を言い出して事態は急変する。 ⭐︎オメガバースの独自設定があります。

こじらせΩのふつうの婚活

深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。 彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。 しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。 裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。

月明かりの下で 【どうしよう。妊娠したんだ、僕】

大波小波
BL
 椿 蒼生(つばき あお)は、第二性がオメガの大学生。  同じテニスサークルに所属している院生、アルファの若宮 稀一(わかみや きいち)から、告白された。  さっそく二人は付き合い始めたが、富豪の家に生まれ育った稀一は、蒼生に従順さだけを求める。  それに合わせて、蒼生はただ稀一の言いなりだ。  だが、ある事件をきっかけに、大きくその図は変わる……。

【本編完結済】蓼食う旦那様は奥様がお好き

ましまろ
BL
今年で二十八歳、いまだに結婚相手の見つからない真を心配して、両親がお見合い相手を見繕ってくれた。 お相手は年下でエリートのイケメンアルファだという。冴えない自分が気に入ってもらえるだろうかと不安に思いながらも対面した相手は、真の顔を見るなりあからさまに失望した。 さらには旦那にはマコトという本命の相手がいるらしく── 旦那に嫌われていると思っている年上平凡オメガが幸せになるために頑張るお話です。 年下美形アルファ×年上平凡オメガ 【2023.4.9】本編完結済です。今後は小話などを細々と更新予定です。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

嘘をついて離れようとしたら逆に離れられなくなった話

よしゆき
BL
何でもかんでも世話を焼いてくる幼馴染みから離れようとして好きだと嘘をついたら「俺も好きだった」と言われて恋人になってしまい離れられなくなってしまった話。 爽やか好青年に見せかけたドロドロ執着系攻め×チョロ受け

処理中です...