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五章
79-本名
しおりを挟む「ど、どうして……そ、それっ……なんで、游子に……」
乙音が驚愕の表情で股間を見つめながら、途切れ途切れに言葉を漏らした。
顔は湯気が出そうな程に紅潮し、どんどん息が荒くなっていく。
初潮を迎えたばかりの少女には余りにも刺激が強過ぎるそれに目を奪われ、驚き、言葉を失う。
対する俺も返す言葉も見つからず、ただ石像のように固まっていた。
「あ、あんた……変な一人称使ってたけど……ほ、本当に、男だったなんて……」
―――バレた、とうとう。
そりゃそうだ。
ここまで明らかな男根を見て、尚も他の物と間違える筈もない。
「そっか……だからあんなこと聞いて来たんだ……
游子が男だったらどうするかなんて」
乙音は俺の股間を見つめながら、今までの俺の言動に合点がいったように、ポツリと呟いた。
「てことはひょっとして、あんたが……あの話題のSランク奴隷って訳……?」
奴隷が普通に学校に通っていることを考えれば、俺がSランクであることは誰でも容易に予想が付くのだろう。
遂には俺のランクまでも見破られ、俺は否定も肯定も出来ず、まるで気絶したように天を仰いでいた。
幻滅しただろうか。
或いは軽蔑するだろうか。
正体を偽って、男の中で唯一性欲を持つ俺が、性を毛嫌いする乙音と何食わぬ顔で友人となったこと。
乙音の前では処女のふりをして、他の女達とセックスしていたこと。
絶交されても仕方がない。
最早全てを諦め呆然となる俺。
だが股間の肉棒は俺の意識を離れ、未だ乙音の面前でビキビキといきり立っていた。
そんな猛々しい雄の象徴を見つめながら、乙音はゆっくりと口を開き―――
「―――触ってみてもいい?」
予想だにしない言葉を口にした。
「―――へ?」
茫然自失となっていた意識が突然現実に戻され、間抜けな声が俺の口から漏れ出た。
「え、いや、さ、触るって……これを?」
俺が股間を指差しながら確認すると、乙音は真剣な顔でコクリと頷く。
「えっ……と、その……だ、大丈夫なのか? 突然、俺が男だって知って……
それに……こういうの、嫌いだったんだろ?」
「そりゃあ驚いたけど……でも何か腑に落ちたわ。游子が他の子達とちょっと違うところとか。
それに―――游子のなら、嫌な感じしないわ。むしろ、可愛いというか……」
―――なんと。
乙音は俺の正体をすんなり受け入れてしまったらしい。
確かに以前俺が男だったらどうするか聞いたとき、乙音は「何も変わらない」とアッサリ答えたが、まさかここまで動揺や抵抗を見せないとは。
乙音の予想外な態度に思わず拍子抜けしてしまう。
むしろ俺の方が未だに戸惑いを隠せないまま、どうすべきか狼狽えていると―――
「さ、触るわね」
『ピトッ』
「うわっ……!?」
乙音は好奇心に満ちた目で、俺の肉棒に手を伸ばしてきた。
「凄い……指で触っただけなのに、すっごく熱いわね……」
乙音は熱を確かめるように、ツンツンと亀頭を突付いてくる。
「すっごい……血管が浮き出てる……
お、オチンチンってこんなにおっきくなるものなの?」
『ツツツ……』
乙音が血管に指を這わせる。
その動きに合わせて股間がビクビクと波打つ。
「ううっ……」
指先で撫でられただけで、悶える程の快感が走る。
一日中誰ともセックスしておらず、溜まりに溜まったリビドーが微かな刺激に暴発しそうになる。
「游子……き、気持ちいいの……?」
乙音が竿や亀頭に手を這わせながら訊ねてくる。
俺はその問いに答えるように、ただ身体をビクッと震わせる。
「気持ち……良いのね。
游子もアソコを触ると……気持ちいい……
私と……同じ……」
乙音が俺の反応に嬉しそうな表情を浮かべる。
そして徐々に息が荒くなっていくのに合わせて、手の動きもいやらしく、激しくなっていく。
「凄く……ドキドキする。
何でだろう……身体の一部を触っているだけなのに」
『ニチュッ……ヌチュッ……ヌチュッ……』
「エッチなことって、こんな気持ちになるんだ……
こんなに、ドキドキして、ワクワクするんだ……」
『シコ……シコ……』
「今なら分かる気がする……なんで皆あんなにエッチに夢中なのか……
エッチなことって……こんなに胸がときめくのね……」
その時乙音は、今まで見たこともない淫靡な表情を浮かべていた―――
初めて隆起した性の興奮が、全身の細胞に浸透し、神経を震わせる。
初めて抱く性衝動は、乙音の身体に生物としての本能を目覚めさせる。
そのむず痒いような、心地良い小波に胸が踊り、全身が歓び、顔が綻ぶ。
頬が火照り、目は潤み、身を捩る。
口角は自然と上向き、吐息が漏れ、唾液を咽む。
中等部の年齢にして、人生で初めて性的興奮を覚えた少女が魅せる色気。
それは紅々と実った食べ頃の果実がまるで差し出されるかの如く、手元にポロリと落ちてきたような感覚を覚える。
或いは蝉が灰褐色の幼虫から、美しく透き通る成虫へと脱皮する瞬間に鉢合わせたかのような―――
何れにせよ、今までの友人の姿は何処にも無かった。
ただ蕩けるような眼差しで肉棒を見つめ、撫でる一人の雌の姿に、俺は射精を堪えるのに必死だった。
すると乙音は徐に肉棒をギュッと握り、俺の瞳へと目線を向けた。
「ねえ游子……あんた本当はなんていう名前なの?」
「え、えっと……ひ、比留川……游助……」
まるで吸い込まれるような瞳に問われ、俺は思わず素直に答えてしまう。
「―――プッ。何よその、芸のない名前。
殆ど同じじゃない」
「し、仕方ないだろ……突然女の振りをしろって言われて、な、名前なんて考える暇も無かったんだ」
まるでいつもの教室のように無邪気に語らう。
だが普段とは明らかに違う状況。
性器を剥き出しにし、よもや友人相手に向けるべきではない劣情を滾らせ、互いに見つめ合う。
今までの関係が、ゆっくりと崩れ始めようとしていた。
「私―――今までこういうこと、ずっと避けてきた。
でも……初めて男の子の身体に触って、それに興奮して……
游子と友達になれて本当に良かったって思ったの」
乙音は俺の股間を握ったまま、自身の胸の内を語り始めた。
「だって……友達じゃなかったらこんなこと……前の私は絶対出来なかったと思う。
今までずっとエッチなことを避けてきたのに、いきなり生理が来たからって、他の男の子とする勇気なんて出ないもの」
『ニチュ……ニチュッ……』
肉棒を擦る手に、熱が篭もる。
「変わりたくないって思ってた……でも、游子と一緒なら、変わらない。ううん、もし変わっても怖くないって思ったの。
だって游子のなら……こんなに愛おしく思えるんだもの」
『シコ……シコ……』
股間から鈍い快感が昇る。
つい先日まで初潮前の―――性に潔癖だった友人から愛撫を受け、どんどん興奮が高まっていく。
「最初は戸惑ったけど、今は游子が男の子で良かったって思う。
私―――初めては游子が良い。
游子―――ううん、游助。
私と……セックスして」
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