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第一章【レイシア編】
任務
しおりを挟むシンはレイシアと共に馬車に揺られていた。
目的はクエスト依頼者であるモルダーという貴族が、隣国へ赴くまでの道程の護衛だ。
二台並んだ先頭側の馬車に、シンとレイシアは二人で仲良く横並びに座っていた。
(あのモルダーという男、レイシアさんを下品な目で見やがって……!
でもまぁ、こんな風にレイシアさんと二人で馬車に乗って旅が出来るなんて思ってもみなかったなぁ)
思わぬクエストの役得にシンは思わず顔が弛んでしまう。
「シン、あっちに魔物の気配がある。いくよ」
対するレイシアは護衛任務に集中しており、シンに魔物が現れた事を淡々と伝える。
「あ、は、はい!」
走り続ける馬車から飛び降りたレイシアに遅れまいと、シンも必死にその後を追ったーー
「ーーゆけアークデーモン! 全ての敵を葬り去れ!」
「かしこまりましたご主人様」
シンは召喚したアークデーモンに命令すると、迫り来るガーゴイルの群れを一瞬にして蹴散らした。
「なるほど……単純な命令だけで敵を殲滅出来る程に知能と能力の高い魔族をシンは召喚出来るのか」
シンの戦いぶりを見ながら、レイシアはふむふむと関心しながら降魔術師の能力を分析する。
「はい。召喚した魔族には離れていても命令が出来ますし、アークデーモンなら難しい命令にも対応出来ますね。
あ、もし良かったらアークデーモンに見張りをさせて、近付く魔物は自分で倒すように命令しましょうか」
シンが魔族の説明を付け加えながら、
「確かにいちいち馬車の動きを止めているとモルダー郷の機嫌を損ねそうだし、馬車から離れ過ぎるのも良くないからそれが出来るなら良いかもしれない。
ただ、私ばかり楽しちゃう事になって何だか申し訳ないな」
「い、いえとんでもないです!
僕も魔力自然回復のスキルで、アークデーモン一体なら負担無く召喚していられますし!」
何よりシンにとってはほぼ何もせずにレイシアと旅が出来る事の方が嬉しかった。
「ーーふん。あの小僧中々やるみたいだな。だがこうなると余が退屈だぞ。
折角色々文句を付けてあの女をいたぶってやろうと思っていたのに……!」
順調に旅が進んでいるにも関わらず、モルダーは不服そうな顔を浮かべていた。
「まあいい、久々の上玉だ。理由は幾らでも付けようがある……クックック」
モルダーは不敵な笑みを浮かべながら何かを企むように、レイシアに下衆な視線を送った。
「ねえパパ! あの男が呼び出した者は一体何!?」
かたやモルダーの隣に座っているメレーヌは、初めて見るアークデーモンに興奮した様子だった。
「あれは恐らく降魔術師の小僧が召喚した魔族だろう。
ふん。あの小僧、魔族を使役して戦うなどとは随分生意気な奴だ」
「へぇ~、魔族を使って戦うのね……それは中々面白そうね!」
モルダーの横暴な態度をそっくり受け継いでいるとは言っても、まだまだ幼いメレーヌは初めて目にする降魔術師に子供らしく目を輝かせていたーー
一方のシンは、レイシアへの降魔術師に関する教義で盛り上がっていた。
「魔力自然回復のスキルまで持っているのか……
それで君は異常な速度で成長出来ている訳だね」
「そ、そうなんですよ~。自分でもまさかこんなに早く強くなれるなんてビックリです。ハハハ……」
どうやらシンが魔族を戦わせ続ける事で、楽にレベルを上げているとレイシアは理解したようだ。
本当は強欲スキルによるものだったが、シンは良い言い訳が出来たと思いながらレイシアの解釈に乗っかる。
とにもかくにも神経質に任務に向かう必要の無くなった二人は、楽しく雑談しながら馬車の揺れに身を任せた。
(このままレイシアさんと楽しくクエストを終えられれば良いなぁ……)
シンがのんびりとそのように考えていた矢先だったーー
『ドカアアァンッ!!』
突然シン達の後方から大きな爆発音が鳴り響いた。
「な、何だ!?」
シンは慌てて馬車の後方に目を向ける。するとそこには後ろを走っていた筈のモルダーの馬車が激しく燃えながら黒煙を巻き上げていた。
「なっ……!?」
突然の事態に理解が追い付かず、シンは言葉を失う。
「後ろで何かあったんだ。急いで確認しに行こう」
非常事態を受け、レイシアは冷静に後方の馬車へと急いで向かう。
シンは朝方モルダーが言っていた言葉を思い出し、不安と焦燥に駆られながらもレイシアの後に続いた。
モルダーの馬車に近付くと、負傷した人物が数名倒れているのが見えてくる。
(やばいやばい……! これはまずいぞ!
クソッ! 一体何処から攻撃を受けたんだ!?)
シンはモルダーが負傷していない事を祈りながら馬車の元へと急ぐ。
『アークデーモン! 敵襲があったのか!?』
『いえ、周囲に魔物や他の者の気配はありません』
どうやら敵はアークデーモンの監視すらも掻い潜る能力があるらしい。
シンは敵への注意が足りなかった事を心の底から悔やんだ。
(頼むっ……! せめて依頼主は無事であってくれ……!)
恐らくその可能性は薄いと分かっていながらも、シンは微かな期待にすがった。
だが淡い希望も虚しく、シンとレイシアが現場にたどり着くと、馬車の側にはあの太った男とその娘の倒れている姿があった。
「な……なんてこった……」
シンは護衛の任務を果たせず、何者かに依頼主を襲わせてしまった事実に絶望した。
「う……うう……痛ぇ……畜生……」
するとモルダーにはまだ息が残っていたらしく、もぞもぞと苦痛に喘いでいた。
「よ、良かった……! だっ大丈夫ですか!?」
シンは依頼者に命があったことにひとまず安堵し、急いでモルダーの元に駆け寄る。
「モルダー卿は私が様子を診るから、シンは娘の方を頼む」
「わ、わかりました!」
レイシアの指示に従い、シンはひとまず娘のメレーヌの容態を確認する。
服の一部が焦げているが致命傷には至っておらず、爆発の衝撃で気絶しているだけのようだ。
メレーヌの顔に手を添えると、まだ呼吸がある事を確認し、シンは安堵の表情を浮かべた。
一方でモルダーの方は体の至るところが焼け焦げ、かなり重症の様子だ。
「痛いぃ……ど、どうして余がこんな目に……ううぅ……
お、お前等のせいだ……! ぐうぅっ……! お、覚えとけよ……か、帰ったら……お前等に同じ苦しみを……
いや……それ以上の、く、苦しみを……味わわせてやる……!」
モルダーは全身の火傷に苦しみながら、シン達に怒りの目を向けた。
「ーーッ! と、とにかくポーションで治療を……!」
シンは慌てて持っている鞄からポーションを探す。
『ーーザクッ!』
「えっーー」
その時、隣で何かが刺さる音がしてシンが視線を向ける。
するとそこには胸に剣を刺されたモルダーが、血を吹き出しながら倒れていた。
「なっ……!?」
その光景にシンは目を疑った。何故ならモルダーに剣を突き刺していたのは、他ならぬレイシアだったーー
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