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二章
12-クエスト
しおりを挟む「―――お、おめでとうございますイト様。
あなた様はこのギルドが創設されて以来の快挙となる、初期等級オリハルコンの冒険者となりました」
「「ザワザワザワッ!」」
イトが最上級の等級を与えられたことで、ギルド内は大騒ぎとなった。
「おい、聞いたか!? オリハルコン級だってよ!」
「マジかよ! 初期等級が最上位だなんて、そんなのアリなのか!?」
「お前もあれを見ただろ! あんなスキルを繰り出せる人間なんて、この世に数える程もいねえよ!」
「いやそれが聞いた話だと、何でもスキルを使った訳じゃなく、単に素振りしただけだという噂だぞ!?」
「そんなの無茶苦茶だ! だとしたらあの剣が相当にヤバい代物か、或いはとんでもないパッシブスキル持ちってことになるぞ!?」
ギルド中の人間がイトへの称賛、畏怖および羨望の言葉を口にした。
「そ、それではイト様。早速ご希望のクエストはございますか?」
すると受付嬢が何やらよく分からない言葉で、イトに希望を聞いてきた。
「オルフ、クエストとは何か分かるか?」
『OK調べてみるよ。―――ふむ、どうやらこういった世界観のビデオゲームやVRの世界では、クエストという仕事を受注して任務を完了することで、報酬を得るのが主流みたいだ』
オルフがファンタジーゲームの定番設定をイトに説明すると、イトは「なるほど」と頷く。
「―――ここから東に60km程行った場所で受けられるクエストはあるか」
イトは対象者がいるとされる場所を指定し、受付嬢に尋ねた。
「ず、随分と具体的な指定ですね。
東に60kmと言いますと……ああ、オークが根城にしている洞窟ですね―――って、オークの洞窟!?」
受付嬢の声に、場は再び騒然となる。
「た、確かにあそこが目的地となるクエストは一つだけございますが……」
何やら受付嬢が含んだ言い方で口を濁すと、
「あの人、いきなりあのクエストを受けるのか……?」
「初めてのクエストだろ? 流石に無謀過ぎるんじゃ……」
「い、いやでもあの人ならクリア出来るかもしれない。なんてったって、史上初の初期等級がオリハルコンになった冒険者だぞ!」
冒険者達も次々に戸惑いを顕にした。
「一応ご説明致しますと、該当のクエスト難易度はミスリル。つまりミスリル級冒険者以上でないと、受注出来ないクエストとなっております」
「ならば俺も受注出来る筈だが……何か問題でもあるのか?」
ランクがミスリルとはいえ、冒険者の等級はオリハルコンが最高。
つまりイトなら問題なく受けることが出来る筈だが、受付嬢の妙に含みのある態度にイトが疑問を投げる。
「実はこのクエスト、依頼が出たばかりの頃はD級の募集だったのが、クエスト未達成が続いた結果どんどん条件が厳しくなり……現在ミスリル級にまで募集条件が上がっているんです。
依頼自体はオークの討伐と、それ程難易度の高いクエストではないのですが……」
「難しくはないが、誰もクリアしたことがない……と」
「ええ。以前このクエストに挑戦したA級冒険者の方も生還することが出来ず、現在ミスリル級での募集となっておりますが……
何故ここまで誰も生還出来ていないのかは分かっておらず、調査部隊が派遣されましたが、それも戻って来ませんでした。
故にランクはミスリル級ですが、オリハルコン級冒険者でもクリア出来るかは正直……未知数です」
つまりこのクエストは、実質的なランクが未知数ということだ。そのため受付嬢やギルドの冒険者達は、オリハルコン級とはいえ冒険者になったばかりのイトがそのクエストを受けると聞き、騒ぎとなったのだ。
「ちなみに、そのクエストを受けた者の中に、エミリー・ハートレイという者はいるか?」
「ええっと、そうですね……あ! いました!
このクエストを最初に受注した女性が、そのお名前です」
受付嬢がクエストの受注履歴を確認すると、どうやらヒットしたようだ。しかも最初の受注者ときた。
『ビンゴだね。どうやらこの方法が一番自然な接触方法で間違いなさそうだね』
「そうだな」
オルフが自分の忠告通りに事が運んだことで、得意気に鼻を鳴らすと、イトも特に否定せず頷く。
「問題ない。そのクエストの受注を希望する」
イトが挑戦の意思を伝えると、場には「おおっ」と感嘆の声が挙がった。たとえクリアした冒険者がいなくとも、対象者がそこにいると分かれば、イトに躊躇う理由はない。ところが―――
「申し訳ありません、イト様。このクエストは他に条件があり、パーティメンバーが5人以上となっておりまして……
他のメンバーのランクは問われませんが、少なくともイト様以外にあと4人のメンバーが必要になります」
ここで別の条件を提示されてしまった。
イトはまだこの世界に来たばかり。パーティはおろか知り合いすらいない。
『これは困ったねイト。この世界ではクエストを受けて目的地に行くのが、最も自然な方法みたいだけど、一人じゃ行けないとなると―――
とりあえず誰か他の人を誘ってみるしかないね』
オルフの指示を受け、イトが付いてきてくれる仲間を探そうと振り返ると、その場にいる全員が一斉に目を逸らした。
イトはキョロキョロと辺りを伺うが、先程まで送られていた熱い視線がまるで嘘のように、皆必死に顔を背けている。
するとそこに唯一知った顔を見付け、イトはその人物へと近付いていった。
『ササーーッ』
イトが近付くと冒険者達が一斉に道を作る。イトはその間を悠々と渡り―――
「お前達、俺と一緒にクエストを受けてくれ」
先程肩をぶつけた男達へと声をかけた。
「「―――俺達?」」
「ああ、丁度4人いる」
他の冒険者達と同様に知らんぷりしていた男達が呆然と聞き返すと、イトはコクリと頷いた。
「いやいやいやいや流石にそりゃ無理ですよ旦那ぁ!」
「幾らイトさんが強くても、こんなクエストに俺達が付いていったらソッコーお陀仏っすよぉ!」
「幾らなんでも割に合わなさすぎるぜ!」
男達は一様に不満を述べる。幾らイトがオリハルコン級とはいえ、先程冒険者になったばかりだ。
しかも受けるは、未だ生還者のいないいわく付きのクエストだ。一緒に受けたがる者などいるはずもなかった。
するとイトはおもむろに受付嬢の方を振り返り、
「おい、このクエストに報酬はあるのか?」
冒険者達の間を割るように質問を投げた。
「え、ええ。このクエストはミスリル級ですので基本報酬は金貨1000枚ですが、今回は生還者ゼロということで、国からの特別報酬が加算され、合計金貨1万枚が与えられます」
「「き、金貨1万枚ぃ!!?」」
受付嬢の言葉に、冒険者達は度肝を抜かれた。
「その報酬全てを、お前達に渡す。討伐は俺が行う故、お前達は後ろで立っているだけでいい」
「そっそれは本当ですか旦那ぁ!?」
イトの申し出に男達は、更に目を丸くした。
「お、おいどうする! 金貨1万枚だってよ!」
「そ、そんだけありゃあ4人で割ったとしても一人2500枚……大金持ちじゃねーか!」
「だけど幾ら大金が手に入っても、死んだら元も子もねーぜ!?」
「だが旦那は立ってるだけで良いって言ってるぞ……! 最悪の場合俺達だけでも逃げりゃあ何とかなるんじゃねーか?」
男達は報酬の額に目の色を変え、ヒソヒソと話し合いを始めた。
「どうだ。他にこの条件で来てくれる者がいるなら、別に誰でも構わないが」
するとイトは他の冒険者達にも声をかけ、辺りの者達がヒソヒソと相談を始める。
「まっ―――待ってくれ旦那! やる! 俺達がやる!」
周りにチャンスを奪われることを危惧してか、例の男が慌てて手を挙げた。
「おっおい……! 勝手に決めるんじゃねーよ……!」
「そ、そうだ……! まだやるって決めたわけじゃ……」
仲間達は男が勝手に決めてしまったことに焦りを見せる。
「馬鹿野郎! こんな機会は二度とねーんだぞ!? これは絶対俺達に一発逆転の機運が来てるに違いねえ!
この千載一遇のチャンスを他の奴に奪われてたまるか!」
「そっ、それもそうだな……やる! 俺もやるぞ!」
「お、俺も行く!」
「俺もだ!」
男の言葉に、仲間達も同行を決意したようだ。
「人数は揃ったようだな。おい、クエストを受けさせてくれ」
「わっ、分かりました……!」
イトが受注を申し出ると、受付嬢は慌てて受注の手続きを進めた―――
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