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13 復讐鬼-2-
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「ああ、きみにとっては面白くない話になると思う」
「言ってくれ。できるだけ力になろう」
微苦笑しながら彼は言った。
「――しばらく仕事を休ませてほしい」
ウォーレスの顔つきが変わる。
呼吸をするのも忘れて彼はしばらくの間、カイロウの目を凝視していた。
しかし次の瞬間、ふっと力が抜けたように背もたれに身を預ける。
「……なんだ、そんなことか」
緊張から弛緩へ。
ウォーレスは安堵のため息を漏らした。
「険しい顔だったから、契約を切りたいとでも言い出すのかと思ったぞ」
いまカイロウに離れられるワケにはいかない。
少なくとも国からの大量の発注があるうちは彼の腕前が必要だ。
「あんたにも都合があるだろう。それを止める権利は俺にはないさ」
「そう言ってもらえると助かる」
「で……期間はどれくらいなんだ?」
「数か月は欲しい。その間に生活を……自分を見つめ直したい。いろいろ環境も変わるだろうからな」
「そんなにか……」
ウォーレスは唸った。
数週間程度なら都合をつけられるが、さすがにそこまで長期だと影響は大きい。
言い換えればそれだけカイロウに依存していたということで、レキシベル側の怠慢と考えられなくもない。
(こちらの誘いを断り続けていたのはこのためか……?)
正式に雇用していれば拒否することもできたが、現状ではその権限はない。
少なくとも請け負った分の仕事は完遂しているから、これは契約の更新をするか否かの話だ。
「分かった、というしかないな」
ここで渋るのは正しくない。
彼はあっさりと了承した。
「環境が変わると言ったが、転居でもするのか?」
「いや、そうじゃない。悪いが詳しいことは言えないんだ」
「だったら訊かなかったことにしよう」
カイロウ個人の事情に首を突っ込んでも意味はない。
これから数か月、彼が休んでいる間の労働力をどう補うかを考えるのが先だ。
「勝手なことを言ってすまない。全て終わったらこの埋め合わせは必ずする」
「俺とあんたの仲だ。気にするな」
大仰に笑うウォーレスに彼は感謝した。
「お詫びにもならないが、ひとつ分かったことを教えるよ」
カイロウはパーツのひとつを手に取った。
半球状のそれは緑青に色付けした鉄の塊だ。
裏側には自分が手掛けた証として記号と番号が彫り付けてある。
「これらがどう巡っているのか分かった」
ネメアの情報を元に、夜間の方舟の動きについて説明する。
ただし明らかになったのは経路だけで、これらパーツが何に使われているのは依然判明していない。
「なるほどな――」
自分たちが作っているものがどのように循環しているのか。
それを理解することは、自身の仕事を理解することにつながる。
ウォーレスは難しい顔をした。
レキシベル工業は国を相手に商売をしているが、本当はクジラを相手にしているのではないかと考える。
多くの工員を雇い、日々工場を動かして作っているパーツが何に使われているかを誰ひとり知らない。
そのことが急に恐ろしく思えてくる。
分からないものを作り続けていていいのか?
知らないままでいいのか?
(考えないようにしていたんだろうな、俺たちは――)
会社や自分たちの生活を守ることを優先していたから、仕事にはできるだけ疑問を抱かないようにしてきた。
国という大口の取引先があると慢心し、考えることを放棄していたのかもしれないと、今になって思い至る。
(しかしだからといって……)
これらが何に使われているのか、何としてでも追求しようという気にはなれなかった。
まずは目の前の仕事をこなすこと。
そして何より太いパイプを維持するほうがはるかに重要だった。
「また何か分かったら教えてくれ、ドクター」
ウォーレスにはこれしか言えない。
やはり要らぬ詮索をして政府の機嫌を損ね、契約を切られることを恐れる。
だが外部の人間であるカイロウが勝手に調べて教えてくれる分には問題はない。
卑怯なようだがこれが最善策だ。
そもそもパーツの使途など知らなくても仕事はできるから――。
彼は自分自身にそう納得させた。
「言ってくれ。できるだけ力になろう」
微苦笑しながら彼は言った。
「――しばらく仕事を休ませてほしい」
ウォーレスの顔つきが変わる。
呼吸をするのも忘れて彼はしばらくの間、カイロウの目を凝視していた。
しかし次の瞬間、ふっと力が抜けたように背もたれに身を預ける。
「……なんだ、そんなことか」
緊張から弛緩へ。
ウォーレスは安堵のため息を漏らした。
「険しい顔だったから、契約を切りたいとでも言い出すのかと思ったぞ」
いまカイロウに離れられるワケにはいかない。
少なくとも国からの大量の発注があるうちは彼の腕前が必要だ。
「あんたにも都合があるだろう。それを止める権利は俺にはないさ」
「そう言ってもらえると助かる」
「で……期間はどれくらいなんだ?」
「数か月は欲しい。その間に生活を……自分を見つめ直したい。いろいろ環境も変わるだろうからな」
「そんなにか……」
ウォーレスは唸った。
数週間程度なら都合をつけられるが、さすがにそこまで長期だと影響は大きい。
言い換えればそれだけカイロウに依存していたということで、レキシベル側の怠慢と考えられなくもない。
(こちらの誘いを断り続けていたのはこのためか……?)
正式に雇用していれば拒否することもできたが、現状ではその権限はない。
少なくとも請け負った分の仕事は完遂しているから、これは契約の更新をするか否かの話だ。
「分かった、というしかないな」
ここで渋るのは正しくない。
彼はあっさりと了承した。
「環境が変わると言ったが、転居でもするのか?」
「いや、そうじゃない。悪いが詳しいことは言えないんだ」
「だったら訊かなかったことにしよう」
カイロウ個人の事情に首を突っ込んでも意味はない。
これから数か月、彼が休んでいる間の労働力をどう補うかを考えるのが先だ。
「勝手なことを言ってすまない。全て終わったらこの埋め合わせは必ずする」
「俺とあんたの仲だ。気にするな」
大仰に笑うウォーレスに彼は感謝した。
「お詫びにもならないが、ひとつ分かったことを教えるよ」
カイロウはパーツのひとつを手に取った。
半球状のそれは緑青に色付けした鉄の塊だ。
裏側には自分が手掛けた証として記号と番号が彫り付けてある。
「これらがどう巡っているのか分かった」
ネメアの情報を元に、夜間の方舟の動きについて説明する。
ただし明らかになったのは経路だけで、これらパーツが何に使われているのは依然判明していない。
「なるほどな――」
自分たちが作っているものがどのように循環しているのか。
それを理解することは、自身の仕事を理解することにつながる。
ウォーレスは難しい顔をした。
レキシベル工業は国を相手に商売をしているが、本当はクジラを相手にしているのではないかと考える。
多くの工員を雇い、日々工場を動かして作っているパーツが何に使われているかを誰ひとり知らない。
そのことが急に恐ろしく思えてくる。
分からないものを作り続けていていいのか?
知らないままでいいのか?
(考えないようにしていたんだろうな、俺たちは――)
会社や自分たちの生活を守ることを優先していたから、仕事にはできるだけ疑問を抱かないようにしてきた。
国という大口の取引先があると慢心し、考えることを放棄していたのかもしれないと、今になって思い至る。
(しかしだからといって……)
これらが何に使われているのか、何としてでも追求しようという気にはなれなかった。
まずは目の前の仕事をこなすこと。
そして何より太いパイプを維持するほうがはるかに重要だった。
「また何か分かったら教えてくれ、ドクター」
ウォーレスにはこれしか言えない。
やはり要らぬ詮索をして政府の機嫌を損ね、契約を切られることを恐れる。
だが外部の人間であるカイロウが勝手に調べて教えてくれる分には問題はない。
卑怯なようだがこれが最善策だ。
そもそもパーツの使途など知らなくても仕事はできるから――。
彼は自分自身にそう納得させた。
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